「Sirius?」






 問いかける呼び声に、朦朧としていた意識をあいまいに覚醒させた。



[[[模糊なる睦言]]]



「What?」




 思った以上にしっかりした声が出て、少し安心する。

「さっき、結局何考えてたんだよ?」

 不機嫌そうな声音。
 心当たりの無い俺は、頬を柔らかく抓ってくるゴツゴツした指から逃れようと、顔を背けた。

「何の話だ」
「とぼけるな」

 頤をきつく掴まれた。強い瞳が睨んでくる。
 何を怒っているんだ、こいつは。

 …いや、違うな。

「何拗ねてるんだ? ジェームズ」
 途端、視線が険しさを増す。図星かよ
 ――ああ、そうだ、思い出した。

「……オマエの事だって、言っただろう?」
「信じられないな。上の空だったくせに」

 オイオイ、どうしたんだ、こいつは。
 まるっきり痴話喧嘩みたいじゃないか。

 だんだんはっきりしていく頭で、そんな下らない事を考える。ため息が出た。

「あーのーなー、ホントにオマエの事だよ、ミスターポッター?」
「だったら、僕について何を考えてたのか、聞かせてもらいたいものだな、ミスターブラック?」

 頬を抓る指先を今度は避けずに、真っ直ぐハシバミ色の目を見て言ってやる。

「ただ、ミスターは近頃彼女とゴブサタなのかと思ってただけさ」
 喧嘩なら仲裁してやってもいいぞ?

 瞬間凍結した奴の耳元に直接吹き込む。

「…そうじゃなかったら、何であんななんだよ?  ……なぁ?」

 なんだったらも一度してやろうか? と冗談で言えば、冗談ですますにはくっきり本気の視線にぶつかった。


「人の心配してていいの? 余裕だな」

 やけに冷静な声で、やけに的確にゴツゴツした指が絡む。


 余裕なんか無かった。








「…っおまえ、俺の事、絶対、好きじゃ、ないだろっ」

「Sure」

 薄く笑う口元には、乾きかけた血がこびりついている。ああさっき噛み付いたんだと思い当 たって、ちょっとだけ、―ほんのちょっとだけ悪いな、と思う。


「Sirius?」

 問いかける呼び声に、朦朧としていた意識をあいまいに覚醒させた。

「...What?」

 思った以上にしっかりした声が出て、少し安心する。


「Can you hear me? I... 」


 囁かれた言葉は、混濁しつつある意識には届かなかった。

[[[Vague]]

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