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「指環物語」





ルーベンスは死んだ。

エメロードも、ディアナも、珠魅はすべて狩られた。

ここにいるパールと、アレクサンドル。そして瑠璃と蛍姫を除いては…





時の侵食を拒む空間。
パンドラの宝石箱の中。





既に、瑠璃とプシュケは煌きの都市へと向かった後。


プシュケは、瑠璃を選んだ。そのためパールはここにいる。


アレクサンドル…今は、宝石泥棒サンドラと共に。





「…アレクサンドル。多くの珠魅を手にかけて
 それでも蛍姫は喜ぶと…本気でそう想っているのか?」


「…想うわけないだろう。きっと、彼女は悩んでしまう。
 自分の生命は千人の犠牲のうえにあっていいものか…と」


「ならば…」


パールはなにかを言いかける

「でも…もう戻れはしない」

それを遮るように、サンドラは言葉を紡ぐ。


「今まで珠魅は王石姫の犠牲の上に成り立っていた。そうだろう?」


そんな私達に、これは間違いだと言い切れるのか…?


「…あと、ふたつの核。それで蛍姫は助かるんだ」

ひと呼吸おいて、サンドラはさらに続けた。

「…頼む。手をかしてくれ。『瑠璃』という珠魅の核…私一人では無理だと想う」


その言葉にも、パールは表情を変えない。


「彼の核を999個目に…。そしてその後、私の核を…
 そうすれば、やっと…蛍姫は解放されるんだ。」



サンドラは、パールに視線を向けた。
冷たいほどの視線が、そこにはあった。



その後、サンドラは俯き


「親友であるお前だから頼めるんだ…そして、ずっと蛍姫の側にいてやってくれ…」

「…そうか。わかった。」

静かに、パールがそう言った。




パールの手に握られていた短剣に、力がこもる。




「…!ありがと…」









サンドラがそう言い終わる前に、パールは短剣を突き立てた。










自らの胸に。








…ぽた、と床に血が滴る。



「…な」



顔を上げ、そこに見えたのは、えぐりだした自らの核を差し出すパールの姿。



「…ほら。999個目の核」



そう言って、微かに微笑み…そしてその後、苦しそうに床に膝をつく。


「レディパール!」

駆け寄り、慌ててその身体を支えた。

「違う…!!私は、お前の核ではなくて…なんてことを」

「…瑠璃は、生きるべきだ」

苦しそうに息をはきながら、パールは言う。

「…何?」

「あれで、奴は強い意志を持っている…生き残るべき珠魅だ…」



―散るべきは…私のような、冷酷な珠魅なのだろうな、きっと…



「…今度、話してみるといい。少しだが…お前に似ていた」




サンドラに視線を向け、微かに微笑む。

その様子をみて、サンドラは小さく首を左右に振った。



「…教えてくれ。私は…間違えてしまったのか…?」


核を失ったパールの姿は、徐々に消え初めていた。


「…間違いなど、存在しない。もう戻れないのなら
 …せめて自分を最期まで信じてやれ」


その言葉と共に、パールの姿は光につつまれ…消えた。

取り残されたのは、血にまみれたパールの核と、サンドラのみ。




「…行かなくては、な」




パールの核を抱きしめ、頬がその血で染まった。


涙が、でない。


私達は…親友の死に涙することさえ許されないのか…!?










「…その核は?」 

宝石王が手に取った核。パールの核を見て、瑠璃は問う。

「哀しむ必要はない。珠魅はひとつになるのだから…」

「…貴様等!よくも真珠を!」

瑠璃はそう言い、切りかかってきた。




そうだ。



哀しむ必要はない。



珠魅はひとつになるのだ。



でも



そうやって怒りを面に出せる瑠璃。



お前が



少し、羨ましいよ…。








「…あとひとつ、核があれば」




苦しそうに、宝石王は言う。




「宝石王。私の核を。」




血が、ぽたりと床に落ちる。




「そのかわり王よ…勝ってください。」






―そして、蛍姫のために涙を……





こんな汚れた核でも


蛍姫を救えるのなら…















私は、喜んでこの核を差し出そう。















END




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