秘 密 基 地 ご っ こ 。

 

 

夕焼けも終わりかけ。
あーあ疲れたなんて先輩も後輩も口々に呟きながら、個々のタオルを持って水道に向かう時間。

今いちばん、大好きな時間。

 

フェンスの隙間につっ通しておいたタオルを引っ張ると、テニス部員が群がる水道場を横目に俺は残りの力でダッシュをかけた。
大体どこの部活も『先輩が優先』。運動部のお決まり事のようで、合流したサッカー部の3年も含めて水道場は一種の、行列の出来る店みたいになっていた。
2人で同時に少し遠い東校舎の裏の水道場、いわゆる“穴場”を発見していたのは紛れもない偶然で、決して自分から「ここで約束ね?」なんて女々しい事言い出したワケじゃない。なんの口約束もしてないけど、偶然を装って、でも実はナニゲに隣に居たい気持ちでいっぱいで、そこで落ち合う時間がたまらなく好き。

ほら、あそこの角を曲がるといつも、3つしかない水道の蛇口のひとつをひねってる大石がいる。

スピードをゆるめて、校舎の角に近づいてやっと、人の気配がふたつあるのに気づいた。
誰だろう。2人しか知らないから一層、価値のある穴場なのに、誰かに知られてしまったとしたら、正直な言葉で言うところの「つまんない」。
その不安は、角から、顔を少し覗かせて様子をうかがったときに、二分の一が別の不安と入れ替わった。

いつものように顔を洗う大石の隣に、髪をふたつに結った制服姿の女子。
タオルを両手で持ってハイ、って、少女マンガじゃあるまいし。
大石はといえば、少し面食らった様子でそれを受け取った。
よくよく目を凝らすと、見たことのある女の子だった。大石と2人で廊下を歩いてる時に、彼女が話しかけてきた事があったっけ。彼女が去ったあと、「委員会の花井さん」と簡単に説明して、ふうん、の一言で済んだ会話。

あの子、大石のこと好きだったんだな。
男女関係なくそういうのには鈍い。わかってるけど、人生疑ってかかりすぎたっていいことなんてないって。
自分の好きな物だけわかってればいい。そう、自分の。好きな。

そこまで考えて、きゅうに動かない足とこめかみに、すっぱいものを食べた時みたいな痛みがつん、と刺さった。
あの時もっと、リアクションしとくんだった、なんて。

会話がうっすら、うっすら聞こえてきた。

「結構前から知ってたんだ、部活の後ここに来てるの」
「ごめんね?疲れてるのに」
「でも、言っておきたかったんだ」

映画のシナリオみたいな会話。言いたいことをきれいにまとめてせりふにできるあの子が、ちょっと羨ましくなった。
大石は、声のトーンを落としているみたいで、短く返事をする声ははっきり聞こえない。

なんて言ってるの。
どうするつもりなの。

校舎の古ぼけた壁に背中をぴったりつけて、イライラと足を揺らした。聞きたい自分と、聞きたくない自分とが今にも相殺しそうで。

俺が、大石に付き合おうって言われた女の子だったら、こんな時もっと楽だったかな。
なんの自信もないことに気づいて、俺はへなへなと膝を抱いてその場に座り込んだ。

…難しい。
中学生に、この恋はシビアすぎる。重すぎる。ねぇ?難しいよ。


「ごめん、俺好きな子いるんだ」

やっとはっきり聞こえてきた大石の声に、俺は膝と膝の間にうずめていた顔をぴっと上げた。
それって、それって。

もういちど角から様子を伺うと、彼女は軽く会釈して、小さく手をぴらぴら振って去っていくところだった。

「…英二」
「あ」

どうやらばっちりバレていたようで、少し呆れた調子の大石の声に、ようやく俺は決まり悪く姿を見せた。
なんだか盗み聞きしてたみたいで(そうなんだけど)、嫌。
だけど。
蛇口を捻りすぎて、勢い良く出過ぎた水の柱の中に無理矢理手を突っ込む。
「すきなこいるんだ〜、大石君は」
「…なに言って、」
「誰?ねえ誰?」
「………」
俺はちゃんと、あの子をフッた理由になってるんでしょか。

調子コいて「教えてよ〜ねーねーねー」なんて横から絡み付いてみたり。
ほんとは別に言ってくれなくてもいい。
さっきの一言だけで、贅沢すぎる程。

「じゃ、ちょっと黙ってたら教えてあげるよ」
「え、なに、」

最初は、おでこがぶつかりそうな、軽く触れるだけのキス。
すぐに離して、2回目は角度をずらして、何かの映画で見たみたいに腕を首に回してみた。
本当にちゅ、て音がするのは、触れる時じゃなくて離れる時。
…なんてちょっと大人の悟り。

ジャージの裾がきゅっと繊維の音をたてた。
もしかしたら、心臓の音だったかもしれない。

 

部室で、水道場が空くのを待ってるらしい桃が不思議そうな顔をしていた。
「大石先輩もエージ先輩も、どこ行ってるんスか?」
「……ないしょ」
絶対教えてやるもんか、と心の中で舌を出す。

コドモじみてるわりにちょっとビターな2人だけの秘密基地ごっこ。

今いちばん、大好きなあそび。

 

 

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あたし…本当にステップ1、ステップ2とかって書く気?(自問)
“裏行き”とかいう文字を叩き出すくらいのブツも書きたいんですが。
お、恐るべし菊丸英二…(ワタシの中の)

菊sideで書くの難しかったです。結構マジメラブっぽく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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