011:柔らかい殻 2004/02/06 (金)


柔らかい殻に包まれたような感覚。
彼にはうっすらと膜がかかっている。
それは彼(間宮)と外界(シゲ)を隔てている壁。
けれども、その膜ができたのはきっと、夏季長期休暇の頃辺りだろう。
二人の関係が希薄になったのも丁度その頃からだった。
選抜選考合宿が一番の原因。
たった三日。されど三日。
二人の距離は日に日に開いていった。


シゲは『風祭将』というライバルを見出しサッカーに熱中し、
間宮は『都選抜』に夢中になっていた。

だから二人は気付いてはいなかった。
もう二度と元の関係には戻れないことを。




トレ選での対東北選抜戦、間宮は病院に居た。
『出産』の為に。
が、男である彼に自力での『出産』ができる筈も無く、
帝王切開による出産だった。
そもそも妊娠が発覚したのはつい最近で、
腹も目立つ程膨れはしなかったこともあり、
本人さえ知らなかったことである。
ただ内側から自身の腹を蹴られる感覚に、
慌てて病院に検査に行った所、妊娠だと解った。
堕胎所か臨月は迫っていて、
予定日はあと一週間後だと言われる始末。
仕方なく、出産することにした。
誰の子かは解っている。
ただ、この出産のことは秘密にしておく必要があった。
年齢もあるが一番説明が面倒なのは、
男である自分が妊娠したという事実だ。
本来ならば完全な男であった筈なのだが、
母親の腹の中で細胞分裂する過程で何某かの異常がでたのか、
若しくは染色体に先天的異常があったのかは定かではないが、
間宮の体内には精巣の他に卵巣と子宮があった。
外見上からしても男だと何一つ疑う所は無かったが、
中一の時分にそのことが解った。
だが、妊娠するという事態はそういう体であっても、
外側が完全な男である以上不可能だったりする筈なのだが、
そこはそれもう放って置く事しかできない。


おぎゃーおぎゃーと院内に赤ん坊の産声が響く。
『元気な男の子ですよ』
と看護師の女性に子供を見せて貰う。
『父親似だな…』
と間宮は呟いた。


対九州選抜戦では観戦で、
対関西選抜戦では前半二十分程度で交代だった。
幾ら帝王切開とはいえ、
出産後すぐにサッカーなどの激しいスポーツをしたりは、
はっきりいって無茶である。
その決勝戦の関西選抜戦で、
風祭とシゲが激しく空中で接触、
落ちた時に二人とも膝の半月盤をやった。
シゲは打撲程度の割と軽いものだったが、
風祭は救急車で運ばれた。
多分その事故が決定的な離別。





高校に進級してからも、サッカーで忙しく二人は逢う事はなかった。
まして間宮はサッカー留学でイタリアに渡ったのだから尚更である。
U-19の選抜召集。
風祭がフィールドに戻ってきた。
ドイツに渡り怪我を執念で治した彼が。
歓迎する当時トレ選にいたメンバー。
そんなことを知らない者は実績の無い風祭に対して醜聞を流す。
確かに、選考合宿に出ても居ない彼が、
日本代表に選ばれたのだから、
当時のトレ選に関係の無い人間には破格の扱いとして
贔屓だと監督たちを批判したいのだろう。
ただ風祭も遊んでいた訳ではない。
けれど結局は実力の高い当時のメンバーたちが最終選考に残り、
風祭の帰還を喜んでいた。
勿論、その中にシゲの姿があった。
間宮は遠めで嬉しそうにそれを眺めていた。
はしゃぐ彼があまりにも過去から開放され、
すっかり屈託の無くなった様子がとても好ましかったからだ。


練習からの数日のU-19の親善試合終了後。
それは突然訪れた。

某競技場を抜けたところだった。
『しげるぅー!』
そう叫ぶ声と共に近くなってくる小さな足音。
その声に他のメンバー達も振り返る。

走って来たのは五、六歳位の可愛い男の子。
間宮に向かって走ってきた。
『カズ!どうして、お前が此処に?』
間宮はしゃがんで、男の子の目線に自分の目線を合わせていった。
『カズ』という部分に功刀がピクリと反応する。
『茂の試合見に来たんだよ』
にっこり笑ってその子(…カズというらしい)は言った。
『どうやって来たんだ?まさか一人で…』
『そんな訳ないじゃん。僕まだ五歳だよ?
お祖母ちゃんに連れて来てもらったんだよ』
『母さんに?ってことは…』
間宮は慌てて周囲を見回した。
『茂』
凛としたそれで居て鈴を転がしたように耳障りの良い声だった。
声の先に間宮だけではなく、U-19のメンバーも視線を投げた。
そこには美しいキャリアウーマン風の女性が立っていた。
『か…母さん…』
間宮が呟く。
それを聞いたメンバーは驚きの声を上げる。
(『えー、マジかよ?』
『あの美人が?』
『間宮の母??』)
が間宮はそれを無視して、その女性に向かっていった。
はっきり言って水野の母と張るかそれ以上かも知れない美女。
『母さん、なんでカズを連れてきたんですか?』
言及するような強い口調でそういう間宮。
『あら、いいじゃない。
偶には生で見たいってカズちゃんが言ったのよ』
『…ですが』
『ですが、何かしら?殆ど私に世話させておいて、
都合のいい時だけ親の面でもするつもり?
そりゃ、私にとっては孫だし、可愛いけれど…』
『……』
絶句する間宮の横や後ろで皆が驚きの言葉を上げる。
(『え?あの子間宮の子供?』
『そうじゃねぇの?』
『けど似てねぇ』
『ああ、間宮には似てねぇな』)
(マムシの子供?どういうことや?俺聞いてへんで)

2004/02/12 (木)	
「へぇ、間宮君の子供なんだ」
将が呟いた言葉に、
「そうみたいだな…。けど、年齢的に変じゃないか?」
と水野が言った。
「え?」
それが不思議だったのか、将が疑問の声をあげる。
「ほら先刻、その子が自分の年言っただろう?
五歳って…間宮まだ18だろ?そしたら中学の時の子供って計算に…」
「あ、そうだね…って中学?」
と水野と将の会話にシゲがピクリと反応する。
「で相手は誰なんだろね」
「そうだな。武蔵森は男女共学って名目だけど、
男子校舎と女子校舎に別れてるだろう?」
「あ、そういえばそうだっけ」
「で男女共に寮生が多いだろ?となると別の学校か
俺たちが全然知らない相手か…」
「そうだね」


将たちとは別の所(間宮の傍)に居た若菜たちが間宮に言っていた。
「で、間宮、この子本当にお前の子な訳?」
「ああ」
郭の言葉に間宮は『ああ』とだけ答えた。
若菜は子供好きなのか、カズに話し掛けている。

「お前、お母さん似なんだよな?」
若菜はちらりと間宮を見て言った。
「ううん。僕はお父さん似なんだって」
「へ?」
「お父さんにはまだあった事ないけどね」
と笑って言うカズに若菜は怪訝な顔をした。
「は?だってお前間宮の息子だろ?」
「そうだよ?
でも、僕のお父さんは『藤村成樹』っていう人だって
お母さん言ってたもん…」
「へ?藤村の?」
と若菜は吃驚としてシゲを仰ぎ見た。
「藤村に確かに似てるなそう言われて良く見れば…」
若菜の言葉に他の人間も集まってくる。
「ああ、確かに藤村に似てるな」
と他の人間も言う。
(俺に似とる?…ちゅうことはあの時やった時の子供?
せやけどマムシは男やし?)
「なぁ、マムシ、こいつ俺の子なん?」
シゲの言葉に他のメンバーが間宮とシゲに注目する。
普段皆の前だと『間宮』と呼んでいるシゲだが、
この時はついうっかり…つまりは無意識にそう呼んでいた。
「ああ…お前の子供だ」
「…っちゅうことは、あん時の?」
「そうだ」

「なんだよ、藤村身に覚えあるのか?」
藤代が突っ込む。
「まぁ、有るといえば有るんやけどな…けど、ありえへんし」
「は?」
「どう言えばええんやろうな?まぁ、マムシは男やし、
俺も男やからそんなん有りえひん思うとったんやけど…」
「は?…ってちょっと待てよ!
じゃあ、間宮と付き合ってたってことか?」
「せやな、そうなるで」
[「…え゛え゛え゛え゛え゛え゛え!?」]
とそこに居たメンバーは大声をあげた。
「ええやん、別に。人の趣味に突っ込まんといてや」

2004/04/01 (木)
「あれ?けどさ、ってことは二人とも男な訳だろ?
何で間宮と藤村の子供なんだよ?藤村の子供ってなら解るけど…」
と藤代が顎に人差し指を当てて言う。
「それは…。俺が産んだから…」
「はい?」
「…俺、中学の頃まで両性だったというか…」
「両性って…ふたなりとかいうやつ?けどお前全く男じゃん」
「ああ。俺の場合は外側は完全に男で内側がそれだったんだ…」
頭を上下させ考え込んだ後、藤代はそう発した。
「ふーん。けどそういうのって普通は女にならないか?」
「何がだ?」
「外側も」
「…まぁそういう事例のが多いが、俺は染色体はXYでちゃんと男だったから」
「そうか…」
「それに、サッカー続けるなら男の方が楽だからな」
「は?」
「俺の実家、女が家督を継ぐから…」
「なんだ、そういう意味か。
てっきりLリーグの知名度が低いからとか、
まだまだ女性のプロは色々大変だからとかかと思った…」
「それも無きにしもあらずだが」



「この人が、藤村成樹なの?」
若菜にカズがそういう。
「ああ。そうだぜ」
若菜がにっこり笑ってそういうとてててとカズはシゲの元へ歩いて行く。
シゲの腰まであるかないかの身長のカズがシゲのほぼ足に抱きついた。
「お?」
そして上を見上げて笑顔でこう言った。
「初めまして、お父さん」
シゲはにっこり笑い返すと、カズを抱き上げた。
「ああ、初めましてやな」
「ねぇ、何でお父さん変な喋り方なの?」
「は?」
「みんなと違うよ」
「ああ、これはな関西地方の方言やねん」
「方言?」
「せや」
「おい、藤村。カズにそんなこと言ったって解るわけないだろ」
藤代と話していた筈の間宮がそう声をかける。
「それもそうやな…ところで、こいつのフルネームなんちゅうの?」
「間宮一成(まみやかずしげ)だが?」
「ふーん」
何だか傍から見ると本当に夫婦とその子供に見える光景だった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
後書き
一応終わりですが終わっていません(終わりやないやん)
はっきり言って元々このネタでバト笛書く予定だったんですよ。
でもいつの間にやら変わってしまいました。
U-19という設定とやんわりと隔てるという理由で、
このお題にしたのに上手く使いこなせていません。
長いこと放置していると書きたいこと忘れていけませんね。

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