021:はさみ [2003/05/10 20:17] カシャン、カシャン、カシャン…。 隣の奴が空ではさみを動かしていた。 何となく俺はその音が嫌で、隣の奴を睨みつけた。 そいつは俺が睨んでいるのに気がつくと、保育士の先生の所へと駆けていく。 『せんせー、まみやくんがぼくのことにらむんだ』 なんてことを言っていやがる。 まったく、原因はお前なのに。 俺ははさみや刃物が幼稚舎の頃から好きだった。 理由は簡単。 切るのが好きだったから。 何で好きなのかは解らない。 ただ紙切れを裁断していくとすっとするというか。 そんな感じだった。 ちょきちょきちょき……。 俺の隣でサッカー雑誌を切り抜く。 『お前な、それは俺が買ったんだぞ?』 『知ってるよ』 平然と言い放つ藤代。 『ったく…まぁいい、出かけて来る』 『え?こんな大雨なのに?』 『ああ…』 確かに窓の外は土砂降りの大雨で。 だから今日部活が休みになった。 サッカー部専用の体育館でやれないことは無いが、 この蒸し暑さに耐えれるわけも無かった。 勿論監督も選手も。 それに帰れないという欠点もある。 たとえ部活は出来たとしても、 土砂降りの中帰ったのでは、 風邪を引いたりもして意味が無い。 藤代と二人っきりの部屋というのが落ち着かなくて 俺は逃げるように部屋を出た。 あの部屋は実は俺の一人部屋なのだが 何故だか最近藤代の奴が押しかけて来る。 多分俺が定期的に買うサッカー雑誌が目当てだというのは 解る。けれど、こう頻繁にこられたのではゆっくり できない。 それにあいつの家に寮抜け出していくのも 余計困難になるし。 かしゃんかしょんかひょん… 乾いたはさみの音。 好きじゃない。 はさみが悲鳴を上げているようで。 こんな雨の日は思い出すんだ。 あの空の音。 乾いたはさみの音。 悲鳴を上げているようで。 好きじゃないんだ。 |