052:真昼の月 選抜選考合宿が終わり、夏休みの宿題を、 まだ完全に仕上げていなかった藤代を手伝うという名目で連れ出された渋沢と間宮。 普段であれば、渋沢・三上・笠井という面子なのだが、 笠井は三上のお守りで忙しいとのたまい、 (三上は選抜落ちのショックが覚めやらぬ時でもあり今回は見送り) 人の良い渋沢と選抜の流れ的に無理矢理な感は否めない間宮の二人が借り出された訳である。 宿題といってもあらかた済ませてはいたらしく、残っているのは数学のプリント数枚と 読書感想文である。 指定図書を借りようと、藤代が向った武蔵森の立派な図書館は、 旧・新の入れ替えや貸し出しの少ない本を倉庫にしまうという作業の為、 ちょうど閉館していた。 その為、都立図書館まで態々足を運ぶことになった訳である。 読書感想文の手伝いなど基本的には本人が読書後でなければ手伝えるものでも ない為、結局は付き添いという形で自分たちの好きな本を探しにきた訳だった。 三人は思い思いの棚で、好きに本を選んでいたのだが、 面倒見の良い渋沢は藤代がきちんと指定図書を選んだのか気になり、 そちらの方へと行ってみた。 すると、なにやら間宮と揉めている藤代の姿があった。 慌てて止めに入るが間に合わず、本棚から洋書がバラバラと床に散らばった。 幸い、この二階のフロアーの洋書棚には翻訳物よりも原本ものが多いため あまり人が居なかったので被害者が最小限に抑えられた。 はぁと溜息を吐いたあと、渋沢が問う。 「一体、何を揉めていたんだ?」 「藤代がこれを試そうとか言うもので…」 間宮が差し出した古めかしい一冊の洋書は、 とある魔法陣らしき図面と説明の英文がつらつらと書かれたページが開かれていた。 「これは、何だ?」 「読めば解りますよ。まぁ、手っ取り早くいうと、 本の中身を読まずに内容を理解できる魔法らしいんですけどね。 所詮、眉唾物だからと止めたんですが、 藤代の奴面白そうだから試そうとか言うんですよ」 「だって、本読むのめんどいじゃん?それに、間宮なら魔法とか使えそうだし」 「どういう理屈だ…それは」 ギロリと藤代を睨みすえながら間宮が言う。 「まぁ、間宮も藤代もその辺にしろ。それより、これ片付けるぞ」 「そうっすね」「解りました」 渋々と言った体で二人は返事をする。 三人で許の棚に手分けして洋書を直している時だった。 床の上に散らばった本の一つが、目映いばかりの青白い光を放った。 三人は、その光に飲み込まれていった。 ぱちくりと目を醒ます間宮。 けれどもどうも様子が奇怪しい。 天蓋付のベッドに寝ていた自分。 起き上がると見えた自分の服は、 淡いピンク色のフリルの沢山付いたドレス風な寝着。 本来なら、今自分が着ているべき服は、 図書館に言った時に着ていた夏服の武蔵森の制服の筈だった。 「なっ…なんだこれ?」と呟く間宮。 「姫、気が付かれたのですね!」 そう間宮に声を掛けてきたのは、桜上水中のサッカー部キャプテンで、 今は選抜でチームメイトとなっている筈の水野だった。 彼のいでたちは、どちらかというと中世の騎士というとぴったりとくるような コスプレめいた服装で、 間宮のことを姫と呼びあまつさえ、安堵の表情まで見せた。 「は?水野、姫って誰がだ?」 (つか、その格好なんだ?俺もだけど…) 「何を仰います!姫は貴方でしょう。マミヤ姫」 「まさか、このヒラヒラの服お前が着せたのか?」 (悪趣味だな…) 「滅相も無い。私の役目は姫をお守りすること。まして、帝国の皇女に そのような不埒な真似をするわけないでしょう!女官たちが召し替えました」 「お…おまもりって…。先程から訊きたかったんだが、水野、何でそんな格好してるんだ? コスプレか?それは兎も角、この服スースーするんだが脱いでもいいか?」 「なっ!仮にも姫は嫁入り前の身。 いくら私が近衛といえど、男の前で脱ぐなど破廉恥な!」 (なんか、この水野プッツンきてるな…) 「……………えっと、俺、男だけど?」 「!…姫、いい加減になさらないと私も怒りますよ! 召し替えたいのでしたら、女官を呼びますので!」 (最初から怒ってんのに?) 「……あの、水野」 「なんですか?」 「此処って…この国ってなんていう国だ?」 「ムッ……此処は貴方が生まれ育ったグレイタ大陸北部の ユエルベ帝国です!木から落ちられたショックで、 どこか奇怪しくなったとのことでしたら、 ナルミ皇子になんと詫びればいいと思ってるんです?」 「は?鳴海が皇子だって?」 (…というか俺、木から落ちたことになってたのか?) つづく。 ++++++++++++++++++++++++++ この話読みきりの筈なのに長すぎだ…。 大学ノートに13pでまだ完結していない・汗。 |