081:ハイヒール 2003/08/23 (土) ハイヒールを履いているような足…というか、 そういうのが似合う奴があいつはきっと好きなわけで。 大人の女性。年上で飛び切りの美女。 そんな人物と街中歩いてたって、あいつには違和感なんて無いから。 街の賑わいに溶け込むような今風の洒落た服装に、派手な金髪とピアス。 美女と居たって見劣りしないような整った顔立ちに陽気な雰囲気の男。 それが俺の恋人。 今はまだ俺の恋人…。 いつか、別れなきゃいけないと思っていて、 けれど桐原監督の進めでイタリアにサッカー留学の話を貰って そういうことゆっくりと話し合う暇もなく渡伊した。 だから別れたわけでもなく、そのことは宙に浮いたまま、 こっちで今サッカーしている。 勿論、あいつもU-17とかに呼ばれて今はサッカー浸けの毎日だろうから、 俺のことなんて多分頭の中の隅っこの方に追いやられているんだろうけれど。 留学の話を結局あいつにしないまま、こっちに来たことに少し罪悪感があって。 でも熱心にサッカーに入れ込んでいるあいつに水を注すのも悪い気がしたから。 だから結局手紙すら書いていない。 まぁ、特に重要な事柄でもないから、このまま一年過ぎるまで連絡しなくても いいようなきがする。 お互いプロを目指しているんだから、余計なこと考えてないでこのままの方が打ち込める って…けれど、俺の方は気になって仕方なかったりする。 桐原監督の教えも悪くないけれど、やはりサッカー先進国のこっちに来て 良かったと思った。そう、サッカーをやる環境といっては申し分なくて。 そして街中に自然にありふれたものとしてサッカーは生活に溶け込んでいる。 子供たちが街中でサッカーボールを蹴る姿は珍しくない。 いい所に来たと思った。 まぁ、スラム化の激しい北側であったならこういう感想にならなかったかも知れないが。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++ 数ヶ月経つというのにあいつの携帯に電話しても出ない。 気になって寮の方に電話したら、あいつは今イタリアにサッカー留学中やと来た。 何にも聞かされてへんよ。俺、そんなん。 しゃあないから、連絡先聞いて国際電話なるものしてみたんやけど…。 イタリア語なんて解るかい。英語も勘弁。 せやけど、片言の英単語を並べてあいつに代わってもらう。 「Hello?Thank you for calling.」 とまたまた英語。中一程度やったんやけど…。 「もしもし、マムシちゃうん?」 「!…え、もしかして藤村?」 「せや」 「てっきり、クラブチームの誰かからかと思ったから…。けど、よく解ったなココの電話番号」 「寮のおばちゃんに聞いてん。せやけど、水臭いやん?俺になんもいわんと」 「ごめん、けど急だったし…。それにお前もサッカー頑張ってるからいらぬ心配とか かけたらやだったから…」 「ふーん?ホンマにそれだけなん?」 「そうだよ」 と電話の向こう側から英語らしき言葉が聞こえてくる。 それに間宮の声で英語で答えているのが聞こえる。 「マムシ?誰か傍にいてるん?」 「ああ、ホームステイさせて貰っている家の。クリスって言うんだ。 かなりサッカー巧いぜ」 「……」 電話の向こうで沈黙するシゲの気配に、間宮は 「どうした?」 と訊く。 「クリス…ねぇ。そいつと仲ええん?」 「…もしかして、妬いてる?」 「…そうや。妬いてもしゃあないやん?お前、連絡もよこさんと」 「でもクリスとはなんも無いよ。良いライバルって感じで」 「そんならええんやけど…」 どうも腑に落ちへんのやけど、納得しとくしかないんやろうな。 これ以上疑ったらこいつのことやから怒って電話切られそうやし。 「藤村…あのさ、」 「ん?」 「やっぱいいや、電話ありがと。じゃあな」 とどこか焦った感じに電話が切れた。 なんやそれ? 次の日、U-17で会った水野にシゲは昨日の国際電話の経緯を話す。 「タツボン、どう思う?」 「…何か言いたいことあったけど、家の人が呼んだんじゃないのか? そのクリスって奴が電話中に話し掛けてきてたんだろ?」 「せやけど…」 (珍しいな、シゲがこんな不安気なんて…) |