100:貴方というひと 2003/09/11 (木) そう、最初っから解っていた。 間宮が誰を見ているかなんて。 こっそり、盗み見た彼の人の横顔。 視線の先には金髪の派手な頭がある。 藤村成樹、元関西選抜のFWでその上マルチに色々なポジションをこなすことから、 金髪のフリーマンとも呼ばれていた奴。 現U-19でもFWのスタメンレギュラーの座を獲得しているこの世代では文句なしにNo.1のストライカー。 偶に藤村と間宮の視線が絡む。 けれど、決してそれは甘い雰囲気を伴うようなものではなかった。 そっけなく外される視線はお互いに何を確認し合うようなそんな感じで。 ある意味、好敵手(ライバル)に対してお互いに激を飛ばすようなそんな雰囲気。 けれど、間宮が一方的に藤村に投げかける視線はやはり甘さを含んでいる。 ロッカールームで間宮と一緒になった俺は、一馬や結人には気付かれないように、 間宮に話し掛けた。 「間宮」 「ん?」 シャワーを浴びた後きちんと拭かなかったのか、髪から幾分かの水分がぽたりと滴り落ちているが、 それを気にも留めずにそのまま替えのTシャツを被っていた。 襟首から頭を出したところで、俺の方に振り返る。 それが妙に色っぽくて、はっとした。 気を取り直して、訊きたかったことを口にする。 「練習中、ずっと藤村のこと見てたでしょ?」 「ああ…。けど、何でお前がそれを知っている?」 訝るように間宮が俺を見て言う。 「俺もずっとお前のこと見てたから。…間宮って、藤村のこと好きなの?」 「だったら、何だよ?男同士だから気味悪いってんだったら態々言ってくる必要ないだろ?」 「そうじゃなくて…。俺じゃ、ダメかな?」 「は?」 間宮があからさまに驚愕の色を前面に出しつつ、短く疑問の言葉を口にする。 いいけどね別に。 「…あのな、お前何いってんのか解ってんのか?」 まだ驚きを隠せないのか、間宮が目を見開いたまま俺に訊いてくる。 「解ってるよ。俺、間宮が好きなんだ」 「は?…って、お前、嘘だろ…?」 今度は酷く焦るというか狼狽した感じで、俺を見る。 「俺と付き合ってくれない?」 「………………」 俺のその言葉に間宮は固まって沈黙する。 「冗談…だろ?幾らなんでも、お前…」 「冗談でこんなこと、俺が言うと思う?」 「いや、それは無いだろうけど…けど、奇怪しいだろ?何で俺なんだよ?」 「そんなの俺だって解らないよ。けど、冗談なんかじゃないから。 返事は近いうちに出来たら欲しいんだけど………」 「……俺、藤村と付き合ってるから、だから無理だ」 (藤村のことが好きで。郭のこと嫌いじゃないけれど… そういう意味では好きになんてなれない……) 「……何だ、既に付き合ってたんだ。ま、仕方ないか。解ってたけど」 「え?解ってたって…知ってて言ったのか?」 「ダメもとだけど、言わないまま終わるのもなんか嫌だったからさ」 「……ごめんな。俺、お前のこと嫌いじゃないけど…… あいつ以上に好きな相手なんてきっとこの先も現れないと思う」 「そう」 俺は俯き加減に言った。 知らぬまに人っていうのは落ち込むと俯き加減になってしまうらしい。 気をつけないと。 解っていたことだから。 最初から。 間宮が誰を好きかなんて。 だから、もう次の恋を探しにいける。 これが恋だったかなんて解らないけれど。 でも、好きだった思いは偽りではないから。 |