バーチャルプレイ2(完全な続きではありません)




本当は別れるつもりだった。別れた方がお互いに良いことだと思っていた。
でも、あんな切な気な目をされたら……。放ってなんかおけない。
やっぱりあいつが一番好きなんだと、自分の心がはっきりと解った。
好きだと言って、優しくあの腕に抱かれたら、逃れることなんて出来ない。
だって本当はあの腕を一人占めにしておきたいのだから。

お互いに同じ夢が追えると思うと嬉しくて。
でも同時に忙しくて逢えない時間は必然と増えて。
同じ夢を持っている。それだけが今俺達を結んでいるそうも思った。
風祭に勝つこと。あいつの目に映るものがそれだとしても。
緑のピッチに、一つの風が目には見えない砂塵を巻き上げて、空へと溶けていく。
その風がきっとあいつと風祭の間には多分、もうずっと吹いていた。
ライバルになるには時間は要ったのかも知れない。
でも、俺には何時まで経ってもあいつの恋人というポジションでしかなくて。
それだけで良いはずなのに。一緒にサッカーの夢を道は違えど追えると思ったのに。
疎外感が拭えない。あいつと風祭を包んでいる風が、俺と佐藤との間を開く。

知っていた。
俺が我慢すればいいんだと。
やっとあいつが過去から解き放たれたのに。
俺が佐藤の心の拠り所であれば嬉しいとは思う筈なのに。
それでも……俺では無理だったことをした風祭に幾分かの劣等感と嫉妬感をきっと感じている。
好きな人を取られたとそう思わなくもない。けれど、恨むのはおかど違いだと解っているから。
恨むことも怨むことも憎むことも妬むこともできない。
佐藤のことを潔く諦めることなんて出来ない。
どうしようもなく好き過ぎて自分の心を押さえられないくらい好きで。
でもだからこそ別れた方が良いとそう思った。
どこまで行っても、俺達が男同士であるという事実は覆せない現実だから。
本当に相手の幸せを考えるなら、きっと別れた方がいいんだと…けど違っていた。
あいつは俺のこと好きだと、必要だとそう言った。
例えそれが嘘でも、あいつが寂しいのはきっと本当だから。
だから離れるなんて…別れるなんてやっぱり出来なくて。
だってあいつ、泣きそうな顔で微笑うから。

あいつの笑顔を見ると、たまに泣きたくなる。
あいつは見ているこっちが悲しくなるくらい、切な気に微笑うから。
なんて切ない顔で笑うんだろうって、見ている方が辛くなるような笑い方をするから。
だから俺は放っておけないんだ。
一度離れてしまったら、きっと誰も佐藤を救えない。
俺が救える訳ではないけれど。
それでも俺はあいつから逃げてはいけないんだきっと。

あいつはきっと『愛』なんて信じていない。
あいつはきっと『恋』なんて錯覚だと思っている。
『好き』だとのたまっても、心の何処かは冷めていて何処か自分自身を罵倒し蔑んでいる。
けど、誰よりあいつは誰かに『愛』されたがっている。
あいつは過去を辛いものだと認識していない。
けれどあいつの『心』は『過去』を無意識下で恐れている。
両の親に捨てられた。
幼い頃に、自分は要らないものだとレッテルを貼られた。
それでもあいつは億尾にもそんな辛さを感じさせず、明るく陽気で自分の力で地に足を付けて立っている。
信じられるか?そんなこと。小学のいくら高学年でも。親に捨てられて…それでも自分を保って生きているなんて。
あいつ自身はきっと気付いていない。
自分の心が過去に捕われて悲鳴を上げている事を。
だから俺が『別れよう』って言った時、捨て犬か捨て猫のようにすがる目をして俺を見た事。
きっとあいつは知らない。
自分の心の瑕を。どれだけ心が癒されたがっているかなんて。
けれど俺も教えてなんてやらない。
教えてしまったら、きっと今度は本当に俺なんて必要なくなるから。

なぁ、佐藤知ってるか?
俺はお前の為なら、この命なんて惜しくないって。
お前になら一生を奉げても構わない。
だから、もう『幸せ』になって。
誰よりも『幸せ』になってくれ。
お前はもう『赦されても』いいんだ。

誰より幸せになって欲しいのはお前だけだから。
お前だけをこの心が破裂して無くなりそうなくらい想っている……。

迷惑ではないのなら、俺にお前をくれないか?
嘘でも構わないから、好きだといってくれるよな?
本心はそうだとしても。
でもお前がそうなれるのなら構わない俺の幸せを全て否定しても。

俺に優しくしなくていいから、もう少しだけ自分のこと大事にして。
俺の事気にしなくていいから。
誰か他に好きな人出来たらそっちに行っても構わないから。
ただ幸せに……幸せになって。
それだけが望みだから。
だってお前はもう赦されていいんだから。
たとえお前が不義の子でも、それでも幸せになる権利はあるんだ。
でも俺は望まない。お前が幸せになれるのなら、自身のそれを。

だって俺はもう………………お前以上に好きになれる奴なんてきっと居ないから。











「よぉ、間宮」
にやりといつもの意地の悪そうな笑みをたたえて三上が俺の部屋へ入ってくる。
「三上…何の用だ?」
「決まってるだろ?やらせろ」
はぁと溜息を吐く。
「俺は今日はそういう気分じゃない」
「ふーん。けど、こっちはそういう気分なんだよ。いいからやらせろ」
「言ってることめちゃくちゃだぞお前」
言いながら三上は俺を押し倒す。
軽く押し返しながらそう言ってみるが効果は伺えない。
「……ところで、佐藤とやらとは別れたのか?」
「いや…別れてない」
「あっそ」
俺がそういうと顔は凄くイヤそうなのに、そっけなく答えが降ってくる。
「…ちょっと…ヤメ…今日はホントに…」
「バーカ。そっちの都合ばっかり構ってられるかよ。こっちは溜まってんの。
その気が無いなら、その気にさせてやるぜ?」
にやりと不敵に微笑むと、キスしてきた。しかも濃厚な。
「んっ……」
はっきり言ってキスは弱い。口腔内もまさぐられるのならことさら。
体中が熱を帯び、下半身が反応してくる。
「お、こっちはしたいらしいぜ?」
そういう三上は、俺のソレを握りしめる。
「はっん……ダ…」
ダメだという前に、ソレをやんわりと扱かれる。
「イヤ……」
「あのなー、そういう声出されると余計やりたくなるんですけど(笑)」
可笑しそうに三上は言う。
そんな軽口に応酬も出来ないほど、三上の手によって与えられる快感に翻弄され逃れられない。
終いには結局自分から早くしてと言ってしまった始末だ。
俺…の体、相当淫乱に成ってないか??
少し泣きたい気分に陥る。






「お前、笠井はどうした?」
呂烈が回復した所で、三上に訊く。
「……フラレタ……渋沢の奴がいいとかぬかすし。逆に藤代からは好きだとか言われるし散々だ」
「そうか。藤代は確かに前からそんな感じではあったが……無理だな」
「ああ。無理だ」
やれやれと疲れた口調で答えてくる。
「お前もあいつも男役タイプだからな」
「…あのな。お前、突っ込み何処ろはそこじゃねぇだろうが!!」
「そうか?」
「そうだよ。バカ代といるとマジ疲れるし、全く好みじゃねぇからな」
(はっきりいってあのタイプは苦手なんだよなーマジ)
「だろうな……お前は基本的に女は年上でちょっと性格きつそうだけど
ベタベタしない自立したようなのが好みだよな。キャーキャー騒ぐタイプは嫌いなはずだったな。
男だったら笠井みたいなの……はて?じゃあなんで俺とこんなことするんだ?」
「お前、何でそんな詳しいんだよ?お前とやってんのは……都合が良かったからだろ」
(まさかこいつに彼氏がいるとは万に一つも思わなかったが…)
*1999年3月のトレセンちょい前*


シゲは月一若しくは週一くらいで関西選抜の練習に行っていた。
選抜練習中ともなると考えることは打倒風祭!といった感じで、サッカーのことに熱中する。
けれどもたまにフと恋人のことを思い出す。
別れてくれと突然言ってきた自分の恋人。
相当気の許した者にさえも、おいそれと口にできるような相手ではない。
男同士で、本気で好きあってるなどと言って一体どれくらいのものが理解してくれるというのか。
だから知っている者も限られてくる。
そんな相手と人目を忍んだ恋を続けていた。
けれどつい先日…三日程前に、別れてくれとそう言われた。
頭では解っている。確かに自分たちの関係は、これからの人生に深く影響を及ぼすものであることも、
お互いの利益にはなりえない事も。それでも心は追いついて行かない。
好きで好きで仕方ないから、だからこそ無理にでも付き合う事にさせた。
別れるくらいならサッカーを捨ててもいいと一瞬でも思ってしまった自分は、
けれど本気で間宮のことが好きなのだと自覚していた。
確かに今はサッカーが一番になってきて、面白く感じていて…強い相手になりつつある風祭と
試合をすることばかり考えて幻影にすら怯えるほど、彼に畏怖を感じるくらいのサッカーの才能を見出していた。
だから、間宮の別れの理由はどちらかと言うと、正当な理由で。
けれどだからこそ自分は認めたくなかった。
別れることを。
風祭はあくまでライバル…サッカーに対してのことであり、恋人である間宮と比べる方が変である。
恋人はいつまでも大切な人で、傍に居て欲しい人で、間宮でなくては代わりなど居ない。
もちろんライバルである風祭の代わりもそうそう居ないであろうが、ライバルとは複数居たって奇怪しくは無い。
けれども恋人は常に基本的に一人である。日本人的な恋愛感覚では。
好きな相手と別れてまで風祭と闘う必要は無いと、そう心が言った。
だから幾ら夢でも捨ててしまおうと思った。
けれど間宮は夢を追えという。自分のことを捨ててでも追えと。
けれどそこまでして夢を追う勇気がシゲには無かった。
大切なものをカケガエノ無い人と別れてまで、自分の夢を追える程まだその時は完全に
サッカーだけにのめり込めては居なくて。
きっと今ココでどちらかを選べとその時間宮に言われていたら、
迷うことなく自分はきっと間宮を選んでいた。
サッカーは暇と場所さえ有れば実際プロにならずともやれる。
でも。
間宮は?
一度手放してしまったら、きっともう二度と自分のものには成り得ないから。
楽しいサッカーが面白くてわくわくするサッカーが……満足の行くサッカーができたなら、
プロではなくても構わないとそう言っている自分がいる。
だから他のどの選抜のメンバーよりもあっさりと捨ててしまえる危うさをシゲは内包している。
どちらにも真剣になってしまった故に、過去と未来の狭間でシゲは自分の心を初めて優先したいと思った。
それが『そんなことあらへん。こんなに好きやのに、何でそないなことゆうん?』だった。

好きなんや。せやから絶対何を捨てても、あいつを取る。
あいつやないならあかんねん。
俺んこと本気で好きで居てくれる奴なんて。
ホンマノ俺ヲスキダトユウテクレルンハアイツダケナンヤ。
…キット俺自身ガキライナトコロモアイツダケハスキダトソウユウテクレルから……。
せやからきっとあいつじゃなきゃダメなんや。あいつが居てくれらなあかんねん。
いつも俺の傍に。




リリリリーンリリリリーン……。
けたたましく寮の公衆電話が鳴り響く。たまたま取ったのは渋沢だった。
「はい、松葉寮ですが…」
「お、その声は渋沢の旦那やな」
「…どちらさまですか?」
名乗りもせず親しげに話しかけてくるぶしつけな関西訛りの声。
何処かで聞いたような気もするが思い出せず、怪訝に思った渋沢はそう問うた。
「俺や俺。桜上水の佐藤成樹や」
「…佐藤?何でお前がここに電話を?」
益々怪訝に思い問う。
すると、シゲは
「間宮に用があんねん。代わってくれひん?」
「え、あ、間宮に?」
とまどった声で反芻する渋沢に電話口から笑い声が微かに聞こえてくる。
「せや、間宮や」
「解った、ちょっと待っててくれ。呼んで来る」
「ほな頼みます」


渋沢は間宮の部屋の前に居た。コンコンとノックする……が、反応は無い。
渋沢はそっとドアを開ける。すると、三上の後ろ姿が見えた。
「三上?」
渋沢は不審気に三上を呼ぶ。
「……ん?し…渋沢!」
体ごと向き直るように振り返った三上は少し焦った様子で呟く。
「間宮に電話なんだが……間宮は?」
「ここにいるけど?」
三上は間宮が居るといった場所を何故か背中で隠す。
「一体どうしたんだ?」
渋沢は不思議そうに首を傾げる。
「いや…」
(間宮まだかよ?)
「……キャプテン、俺に電話って誰からですか?」
突然目の前に現れた間宮に一瞬酷く驚いたが、気を取りなおして渋沢は言った。
「確か、桜上水の佐藤だ」
「え?佐藤が」
「ああ、そうだが…」
佐藤の名を聞くと間宮は電話の方へと走って行った。



三台ほど並んだ寮に据えつけの公衆電話の一つが、受話器を外した状態に成っていた。
『これだな…』
間宮は呟くと受話器を耳に当てた。
>「もしもし?佐藤?」
「マムシか?」
>「ああ。で?何のようだ?短的に話せ」
「相変わらずやなー。まあええわ。実は特に要件ないんやホンマは。せやけど急に声聞きとうなって」
などとシゲが間宮に言っていると後ろからノリックと直樹がからかうように聞いてくる。
『誰や?シゲのこれか?』
直樹が小指を立ててにやにやと下卑た笑いをしながら聞いてくる。
『声聞きたいやなんて熱いなぁ藤村も』
今度はノリックが左側からシゲの肩に顎を乗せながら面白そうに聞いてくる。
「わっアホ、黙ってろや。聞こえるやろ」
>「……佐藤、後ろに誰かいるのか?うるさくて良く聞こえないんだが…」
「あぁ。大丈夫や今黙らせてん」
後ろの二人の頭を押さえつけながらシゲがそう言う。
>「ふーん。…って、もしかしてお前今関西に居るのか?」
場所の特定は出来ないため、間宮はまとめて関西と言った。
「ああ。せやけど何で?」
「だって何か聞こえる声がお前以外にも関西弁っぽいから」
「……まあ、せやな」
「あのさ、佐藤」
「ん?何?」
「好きだからな」
「ああ、俺も好きやで」
「じゃあな…明日も朝練あるんだ」
「ああ。ほなな」
「うん」
がちゃり。
じーっとこちらを見る二人の視線に、シゲは
「なんなんやうっとおしいな」
「……俺らおるんに、よう憚り無く『好き』やなんてゆえるなお前」
と直樹。
それをうんうんと肯いているノリック。
「……は?ホンマに好きな相手に照れてどうすんねん?まして遠距離やっちゅうのに」
「いや、そうやなくてな…も、ええわ」
直樹は言いかけて疲れた顔でそう言った。
シゲに幾ら言ってもかわされるのが落ちだということは遠の昔に解っている。
「ほなまぁせいぜいお幸せに」
顔を引きつらせつつ愛想笑いをしながらノリックは疲れたようにそう言った。
「おおきに」
あとには満面の笑みのシゲが居たとか。


+++++++++++++++++++++++++
あとがき

えっと……なんか続きそうになってしまいましたが……多分終わりです(汗)
ホントはやってるシーン渋沢さんに見られて慌てるって風にしたかったんですが
ちょっとやめました。それだとギャグになってしまうので(苦笑)
シゲは希望としては好きな相手に人目も憚り無く好きだと言って欲しいのですよ。
しかしこんなことなら直樹達中途半端に出すんではなかった(笑)
02.10.5

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