中学二年の春の都大会緒戦。 試合後に金髪の桜上水のゴールキーパーと視線がぶつかった。 お互い更衣室兼控え室に戻る途中のことだった。 手招きをされるかの如く俺はそいつの後に続き、 使われていない部屋へと入った。向かいは審判の居る部屋だった。 そんなことは全く気には留めてはいなかったが。 俺が入るとそいつは手早く内側からロックした。 その金髪が俺に近づく。 そして近づく顔。 そいつの目が、俺が目を閉じるようにと催促している。 口唇が重なる。最初は浅く何度も角度を変えて、そしてそいつは俺の口唇を舐めた。 『んっ…』 鼻をついて甘い声が漏れる。 自分のそんな声は聞いたことが無かった。 その舌で俺の口唇を開かせると、舌を滑り込ませる。 歯列を少し舐め、舌を絡めてくる。 口腔内を攻められ、下半身が危うい。 それでなくても試合後でまだ興奮が収まっていないというのに、 (だからと言って勃っていた訳ではないが) こんな刺激的なキスに耐えられる訳がない。 がくがくと腰が震える。 もう、立っていられそうに無い。 するとそいつは俺を押し倒してきた。 『んっん…』 流石にすこし緊張したというか恐かったというか。 『大丈夫やって』 すると口唇を離し、そいつは微笑みながら言った。 ユニフォームのハーフパンツごとトランクスを下ろされる。 直に俺のそれに触れてくるそいつの手。 前を扱きつつ、後ろのアナに触れてくる指に、びくりと腰が揺れた。 『んっふっ…あっ…』 最初は入れる素振りもなかった指が、ゆっくりと俺の中に入ってくる。 ぞくぞくする程の悪寒と、異物感による排泄感と、そして僅かに感じる快感。 強くそこを締めてしまい後悔する。 『そんなに締めたら、慣らせへんやろ?』 悦の混じった笑みを浮かべそいつはいう。 『…っけど、こんなの初めてで…』 『せやったら、めっちゃ善くしたるわ』 『えっ…』 前を扱きつつ、後ろの指を忙しなく上下させる。 大分その質量になれた頃、そいつは自身のものを俺の中へ挿れた。 『んっ…はっ…やぁっ』 ゆっくりと蠕動するそいつ。 『やっ…はっ…あぁ…』 下半身をガクガクと揺さぶられ、脳天に突き抜けるような快感と悪寒の連続的な衝撃。 お互いが精を吐き出したのは、その行為を始めて然程時間はかかっていなかった。 初めてしたその行為は、意外と気持ちがよくて。 そいつが上手かったからなのかもしれないが。 たった十分程度で初めてのそれは終わった。 勿論、時間が限られていたこともあるが。 それから俺たちは数年肉体的な関係を続けていた。 でも、俺はそいつのこと本気で好きになっていた。 けれどそんなこと言える筈がない。 洒落で関係を持っただけなのに、 今更本気で好きだなんて言える訳が無い。 しかも俺たちは男同士で。 うざがられるに決まっている。 そんなことを思っていた時だった。 武蔵森のサッカー部更衣室で、藤代が声をかけてくる。 普段であれば、水野の方に矛先が行っていた筈だったが、 何故かしら今日はこちらに矢がたったようだ。 『なぁ、なぁ、間宮ってバックヴァージン喪失してる?』 藤代の言葉にこけ掛けている水野と笠井と ついでにキャプテンもとい、渋沢先輩がいた。 間髪入れずに、 『は?お前何不吉なこと言ってんだよ藤代』 と俺が何事かを発言するまえに三上が遮った。 藤代が渋沢先輩とそういう仲であることは周知の事実だったが、 誰も突っ込みはしない。但し三上を除いて。 『えー、けど先輩、間宮がバックヴァージン喪失してないとは言い切れないっしょ』 『あのな、お前。お前みたいなニュータイプを除いて、 普通男はバックヴァージン保ってるもんだろ。 しかも、間宮だぜ?誰が好き好んで、バック奪うんだよ?』 『そっかなー、でも間宮いつもいい匂いするし、肌白いし、 顔さえ見なきゃやりたい奴いそうじゃないっすか!』 『……っ、まぁ、言われてみりゃそうだけどよ』 顔さえみなければとは酷い言われようだが、 確かにそうなのかもしれない。 けれど、あいつは違ったから。 だから、きっと。 『でさ〜、本当のとこどうなの?間宮〜』 と猫撫で声で訊いてくる藤代。 『ロストヴァージンだったら悪いのか?』 その言葉に、藤代は兎も角、三上が固まった。 藤代は歓喜してしつこく訊いてくる。 『えっ、じゃ、やっぱ間宮ってヤったことあるんだ! へぇ〜。ねぇ、いつヤったんだ?俺は中3に上がってからだったけど』 『中2の春』 『へ?って俺より早いじゃん。相手は?俺の知ってる人?』 『知っているとは思うが…言う必要は無いだろう? それに、別に付き合っている訳じゃないし…』 『え?じゃあ、今は付き合ってないの?』 『付き合っていないというのは、恋人としてだ。 そっちの関係は続いてるけどな…』 『……じゃあさぁ、間宮、好きでもない人とヤってんの? それってあんま良く無くない?』 『そんなの俺の勝手だろうが。 大体、俺が誰と寝ようがお前には関係ないだろう?』 『まぁ、俺個人としては関係ないよ?そりゃ。 好奇心だってのも認めるし。けど、チームとしては関係あるぜ』 『程ほどにすればいいんだろう?そんなの弁えてる』 『…だよなぁ。けどさ、そういうんじゃなくてさ、 俺が言いたいのは』 『つまり体大事にしろってことだろう』 と三上が藤代の言葉を引っ手繰っていう。 そして俺の頭をぽんぽんと撫でる。 『大事にか…してはいるつもりだがな』 『けど、好きでもない奴と体だけの関係続けてるってんなら、大事にしてるとは…』 『……俺は好きだから…』 『え?』 『俺はあいつのこと好きだから。あいつは多分そんなんじゃないけど…』 だから、続けているんだ。 体だけの関係でもいいと。 好きなんだ。 佐藤のこと。 本当は。 でも、あいつはきっと、俺のことなんて好きじゃないから。 ぽたっぽたっと透明な雫が溢れた。 俺は好きだけど、きっとあいつは俺のことなんて好きじゃないから。 だから、体だけでもと、そう思って何が悪いんだと。 そんな感情が湧きあがってくる。 だからきっと耐えられなくて、こんなものが溢れたんだ。 涙なんて、らしくない。 『…解っているんだ、そんなこと、けど…』 好きなんだ。 佐藤のこと。 だから、辛くて。 本当は逃げ出したくて。 でも出来なくて。 好きだから、傍に居たくて。 でも、逃げられないから。 好きだから。 ずっと一緒に、傍に居られたらと、どんなに願っただろう。 『…間宮?』 恐る恐るという感じで藤代が声をかけてくる。 突然泣いた俺に吃驚したんだろう。 『間宮、そんなに、好きなんだ? だから、本当はさ恋人として付き合いたいんだろう?そいつと。 けど、無理だから? そう諦めるのは簡単だけどさ、 お前は確認したのか?相手の気持ち。 だって、中2から今も続いてるんだろう? ただの性欲処理ってんならとっくに終わってるんじゃないの? だったら多少は望み持ってもさ…』 『……違うんだ。そうじゃないんだ。 あいつが好きなの、誰か、知っているんだ。 本当は。けど、俺が終わりたくなかったんだ』 『間宮…』 だって、あいつはいつだって遠く彼方の人を見ている。 好きな人を多分俺に重ねて俺を抱くんだ。 俺を抱くことでその人を抱いてる気になっているんだ。 だから。 『…一体、そいつ誰なんだよ。 何かムカツイてきたから、とっちめてやりたい!』 藤代の言葉に何故か三上も軽く肯く。 涙を拭って、真っ直ぐ前を見よう。 これから訪れる悲劇に目を瞑らずに、しっかりと前を見て。 だって俺にはまだ仲間がいるから。 ずっと、好きやってん。 あいつを試合中に見つけて。 初めて見た時ははっきりゆうて好みやなかったんやけど。 外見はな、全く好みやなかったんや。 けど、惚れててんやんか。 何時の間にか。 せやから、誘って、無理やり抱いた。 あいつは特に拒みはせぇへんやったけど、 きっとそれは試合後の興奮の所為や。 けど、それでも、その後、関係をなくした無かった。 それが本音や。 無理強いして、今の今まで続けている肉体関係。 ホンマはすまんって思おうとんねん。 せやけど、手放したくはないんや。 ずっと俺のもんにしときたいんや。 けど、無理やって解っとるから。 あいつは俺のことなんて好きやないって解っとるから。 せやから、体だけでも無理やり繋いで、 ずるずるこんな関係続けてんのや。 あいつを抱く度に、あぁ、こいつがホンマに俺のもんやったらなぁと、 何度思うたか知れへん。 その度に、窓の外見とった。 こいつが俺のものになったらええやなんて。 好きやのに、こんな好きやのに、 傍に居んのに、ずっと居んのに俺はあいつの一番にはなれひんねん。 あいつを何度抱いて、何度繋がったって、あいつは俺のものにはならんねん。 ずっと傍に居りたいねん、 ずっと俺のものにしておきたいねん。 せやけど、無理やから。 諦めるしかないやんなぁ。 好きになってやなんて、虫のええ話やって解っとるから。 せやから、抱いて、せめて体だけでもやなんて、 手前勝手もええところなことして。 それも許容してもろうとんねん。 けど、きっと好きにだけはなってはくれんのや。 俺は男であいつも男やから。 きっと、叶わぬ恋やったんや。 やけど諦めたないねん。 ホンマは。 きっと無理やって解っとるけど。 それでも。 好きなんや。 マムシが。 間宮のことが好きなんや。 そんなん、叶うわけないねんけどな。 お互いどれだけの長い時間をすれ違ってきたのだろうか。 いつも心は同じ所を求めていたと言うのに。 本当は両想いだったなんて笑ってしまう。 馬鹿みたいにもうずっと何年もすれ違っていた。 けれど、きっとそれはそれでよかったんだ。 相手に心を全て見せることが出来たならきっとこんな遠回りなんてしなかった。 けれど、それでも。 見せることができないからこそ、相手に惹かれてやまないんだ。 きっと。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++ あとがき シゲマミなのに微妙に空回り風味。 そしてお互いがお互いに片想いという、このサイトにしては珍しいものです。 (オリジナルならこんな設定しょっちゅうだけど) 何故こんなものになったかというと、 最近シゲマミがどうしても書けなくなくなっていたんです。 シゲマミが嫌いになったとかネタ切れというよりは、 シゲマミでのエッチに至るまでの過程がどうしても浮かばなくて。 何で好きあっているんだろうとか、どうやって他校なのに恋愛関係続いてんだろうとか、 U-17ネタで100のお題やっていて、 間宮んがある決意の元シゲと別れることを決めた時からなんかシゲマミが書けなくなった んですよ。ホンマに。 それと別キャラ間宮受けにも嵌ってしまったことも災いしてます。 一時期ワカマミフィーバーでした。 シゲマミより接点があるということと、 結人くんのが積極的だし。 あと本格的にミズマミに思考が行っていた時期があって。 やっぱミズマミも書きたいけれど…。先ずはシゲマミ書いてからでしょと。 シゲマミ欠乏してるのに、シゲマミ書けないから、 別キャラにいってしまっていた浮気者です・汗。 シゲはすっかり一人身が板についてしまっていました。 元々シゲ夕子ちゃんが好きだったんだよ私は…あはは。 2004.4.21 |