久し振りに降り立った日本の地は、何だか酷く懐かしかった。


【帰郷】



一年振りの日本。成田空港に、母と妹が迎えに来ていた。
「母さん、ただいま戻りました。葵、ただいま」
「お帰りなさい、茂」
「茂兄様、お帰りなさい」
学校の奴らには煩いので、今日帰るとは連絡を入れていなかった。
勿論、桐原監督を除いて。

母の運転する車の後部座席に座る。
荷物は隣に置いた。
本来なら寮に戻り、学校の方にも挨拶に行くべきであったが、
監督から今日・明日とゆっくり休養を取れと申し渡された為、
素直にそれに倣うことにした。


中学・高校と正月にだけ戻る我が家は、何となくいつ戻ってきても、既に懐かしいという感覚だった。
そして何より一年振りの日本への帰還。
イタリアへのサッカー留学の話を桐原監督に勧められ、二つ返事でそれに飛びついた。
海外でプレーできるようになるまで何年掛かるか解らない。
それならばプロになる前に経験を積んだ方がいいだろうと考えたからである。
イタリアに居る間に世話になったクリス・ガッティ宅には、
後ほどお礼に日本らしい何かを送るつもりだった。
クリスは俺と同い年でありながら、既にACミランユースのプロ選手だった。
U-17には当然のように選ばれ、活躍していた。
クリスのつてでACミランのクラブチーム内を見学させて貰ったのみならず、
練習にも参加させて貰い特別充実した一年だった。


実家は東京ではなく、神奈川県の川崎市。
郊外にある家はとてものどかで静かだった。
まぁ、所謂田舎というやつである。
母が喧騒を嫌って郊外へと引越ししたのは俺が小学生の時分だったか。
父は生物学者で海外を飛び回り、元々家には殆ど帰っては来ない為、
家がどこになろうと気にすることはないだろう。
のみならず、俺も寮生である為殆ど家にはもどらないので、
特に気にすることもなかった。
ただ、騒ぎ立てたのは親戚筋だった。
母の実家は資産家で、母自身、会社を幾つか経営している。
だからといって贅沢な暮らしを望む人ではなかった。
由緒ある間宮家の代々の豪邸とも言うべき家を手放し、
のみならず庶民的で平凡な家を購入したともなれば、
それはそれで親族からの批判は相次ぐことだろう。
そして母は自由奔放な人な為、自分の人生を他人の引いたレールの上を
走るのは絶対に嫌だといい、父と結婚したと聞く。
間宮家は代々女性が家督を継ぐ。
その為、家長となる嫡子の母は、本来親族筋の男性と結婚する筈であった。
だが、学生時代に知り合った父に一目惚れしたらしい母が、
猛アタックの末父を射止めたらしい。
ただ父の方は相変わらず母に興味は無いらしい。
そのためなのか、元々なのか生物学者となった父は、未だ見ぬ不思議な生物を求め世界各国を飛び回っている。
そして、父の影響で俺が爬虫類特にトカゲを好きになったとも言える。
家には図鑑にも載っていない珍しい爬虫類が、ちょくちょく送られてくる。
はっきり行って違法ではないのか?と思うようなルートの怪しい地名もある。
また、その世話の為だけに、生物学を学ぶ父の教え子たちを世話係として、雇っている。
学生にしては割りのいいバイトである。

と話がずれた。

サッカーを俺がやりたいと言い出したのは、従姉の片桐(旧姓・間宮)美央の影響である。
彼女にある時をきっかけにサッカーで勝ちたいと思ったからだった。
彼女は既に現役を退いてはいるが、今は少年サッカーのチームで監督をしている。
実は西園寺監督とはライバル同士だったのであるから、
性格も負けず劣らず性質が悪い。
ただ美央姉の方が監督より僅かに年上だったからかはよく解らないが、
結婚を機にさっさと辞めてしまった時は正直憤りを禁じえなかった。
なぜなら、俺がサッカーを始める切っ掛けを作った人であったから。
そのプレイスタイルにも憧れていたというのもある。

美央姉には俺と同い年の弟が居る。
つまりはそいつも俺の従弟であるが。
美央姉の結婚の時に、そいつからめちゃくちゃ文句を言われたのをよく覚えている。
大切な姉を俺の所為で他の男に取られたと思っているらしかったからだ。
そもそも、美央姉の結婚相手というのが、
俺を通して知り合ったというのだから恨まれても致し方ないことではあるが、
元々俺はそいつに嫌われていたようなのでその時は一際だった。








「そういえば、もうじきだよな〜」
練習中に藤代が呟いた。
「何がだ?」
俺が聞くと笑ってそいつは言った。
「間宮だよ。もうじきイタリアから帰ってくるよなー。
いいなーイタリア。俺も行きたかったのに…。
あー、そうすると水野、お前もう一人部屋でいられないねぇ」
アハハと軽く笑ってくる。
そうだ。そういえば今まで一人だったからそんなに気にならなかったが、
俺の部屋は間宮と同室だったんだ。
藤代の言葉を聞くまですっかり忘れていた。
これから間宮と一年も同じ部屋なのかと思うと、内心億劫である。
別に藤代程煩いわけでもないだろうし、三上ほど嫌味を言うわけでもないだろう。
普段はどちらかというとあいつは寡黙だった。
ただ部屋の雰囲気にげんなりしそうなイメージがある。
しかも一年も同じ部屋。慣れる頃には卒業だ。勿論、間宮は違うが。
「けど、間宮の場合は今年から二年だろう?だったら、部屋は別にならないか?」
そう言った俺に、藤代がこう言った。
「それは無いんじゃないか?だって、間宮多分三年からだと思うし」
「は?」
「あっちの高校で単位きちんと取ってて、
且つこっちの中間期末とちゃんと受けてたぜ?
水野廊下の貼り出し見てなかったのか?間宮の名前ちゃんとあったぞ」
「え?そうなのか?」
「ああ。確か中間期末を受ける換わりに、
留学分の単位も貰えるように桐原監督が手配してた筈だし。
それにああ見えて間宮実は頭いいからなー」
「…そんなの初耳だけど?」
「まぁ、水野は自分の成績しか見てないかも知れないけどさ。
いつも十番内に間宮中学の時から入ってたし…」
藤代から驚きの事実を知らされる。
プロでは敵チームだけれども、高校ではチームメイトな藤代は、
意外と誰のことでも気にかけているようで感心する。
藤代はヴェルディ1969、俺はFマリノス。
そして三上と渋沢さんは今年からアントラーズ。
渋沢さんはらしいというかなんと言うか、
大学に行きながらという勉強熱心さに感服するし、
サッカーを辞めるのではと一部から囁かれていた三上は晴れてプロ入りを果した。

つづく?
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取り敢えず後書き
クリス・ガッティはオリキャラです。
笛本館サイトの方で書いているU-17パロに出ています。
まみやんのイタリア留学についてめっちゃ書きたくて、
U-17を本館ではやっています。
近々U-14の三人組版のU-17話をやりたいわけですが。
えと、【クリス】も【ガッティ】もイタリアでは割とホピュラーな名前の筈です。
ガッティとは子猫の複数形らしいです。
イタリア人ってファーストネームで呼び合うらしいので、
滅多に苗字が出ない…かなりコマリモノです。
しかもスパゲッティとかの食品関係の笑える苗字が多い…不思議です。はい。
海外の男性、女性の苗字や名前の資料サイトのアドレスを紛失したので、
綴り(スペル)はよく解りません・汗。そこ検索避けされてるし。
補足ですが、水野たちは原作設定のプロチームです。
マイ設定では藤代くんたちは17歳からプロ入りということに。
渋沢さんと三上氏は卒業後となっています。
シゲも17歳辺りのイメージですが、学年では一年時からというイメージで。
2004.4.10→11

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