シブマミ 2004年7月1日 誰にも秘密の二人だけの関係。 渋沢克朗は間宮茂と所謂恋仲だった。 だからと言って特にどうしたということもなく、 表面上はなんら変化などなかった。 勿論、目敏い三上や藤代や笠井たちでさえ、 二人のその関係を知ることは無かった。 偶に間宮の部屋に渋沢が訪ねる程度だった。 (間宮は同室者が長く続かない為、 結局二人部屋を一人で使っていた) 特に何をするでもなく、ただ一緒に過ごすだけ。 恋人らしいことも特にはしていないし、 ただお互い好きだと確認しあっただけ。 それは言葉だけで、 キスをしただの抱擁しただのという甘い行為は一切無い。 まして手を握ったりや腕を組んだりなどもまた無かった。 それでも一応恋人である。 プラトニックな関係。 ただその今の関係に満足しているのは間宮だけで、 渋沢の方はそろそろ焦れてきていた。 渋沢は間宮より一つ年上の15歳。 いい加減恋人とキスの一つでもしたいお年頃。 例え周りに年齢詐称だと言われようとも、 渋沢は正真正銘十五歳の思春期少年だった。 「間宮…」 サッカー雑誌を捲っていた間宮に、 読んでいた小説から顔を上げた渋沢が名前を呼ぶ。 「なんですか?キャプテン」 雑誌から目を離し顔を上げた間宮に、 体一つ分前に出た渋沢から不意打ちのキス。 目を見開いて驚く間宮を他所に、 渋沢のその口付けは段々と深みを増していく。 「んっ…んっ…やはぁっ」 鼻をついた甘い声が漏れる。 そのまま渋沢は、間宮を床に押し倒した。 服を捲って、胸の突起を摘む。 「やっ…」 間宮が必死で渋沢の胸を押し返すが、 渋沢には全く効果が無い。 口唇を漸く離した渋沢は、間宮の首筋に舌を這わす。 尚も抵抗を試みるが効かない。 「やっ…キャプ…テン…やめっ」 先ほどのキスの所為で呂律が回らないらしく、 まともにやめてとは発音出来ない。 首筋から顔を上げて間宮の顔を覗き込むと、 目の端に涙を溜めている。 「間宮?」 吃驚して渋沢は間宮の名を呼ぶ。 「……」 間宮は無言でそっぽを向いた。 (しまった…いきなり、こんなこと…俺は…) 「ごめんな、間宮」 「知りません」 相当ご立腹らしく、渋沢の謝罪の言葉に背を向ける。 「すまん、間宮。本当に悪かった。 けど俺は、お前が好きだから…その…」 「好きだからって、していいことと悪いことがあります!」 起き上がった間宮は、服を正しながら、 背を向けたまま言った。 「それに、俺は嫌だと言ったのに…」 「…間宮」 「大体、キャプテンともあろう人が、 不純なことしていいんですか? それに、俺は男ですよ? こんなとこ触って楽しいですか?」 静かにけれども怒気を孕んだ声で間宮はぽつぽつという。 「…間宮の体だったら、全部触ってみたいし、 Hなこともしてみたい」 渋沢は間宮の言葉に真面目にそして実に正直にそう答えた。 間宮は振り返って吃驚した顔をした。 渋沢はそんなことを言うような人間には到底見えないからだ。 もしそれが三上の言葉だったら、 間宮はそんなに驚きはしなかっただろう。 実際にはそんなに女性慣れしてはいない、 純情な少年である三上だが、 外見的な見解からだとかなりそう見えてしまうのだ。 例えそれが間宮でなくてもそう思っただろう。 「嘘、信じられない… キャプテンがそんな不純なこと言うなんて!」 間宮にとっては天地がひっくり返ったと等しく、 衝撃的だった。 「…いや、俺だって一中学生で男だし、 好きな子を抱きたいって思うよ」 益々怪訝な顔になって間宮は渋沢を見る。 「そんな顔されたって…仕方ないだろう? 俺だって男だし聖人君子とはいかない…」 「……けど、 キャプテンはそんなこと言う人には見えないし…というか、 Hしたいなんて思ってるなんて知らなくて…。 俺は今のままで満足だから、 キャプテンがそんな風に俺のこと見てるなんて思わなくて」 「俺はそんなに聖人君子に見えるのか? というか性欲皆無に見える訳か?」 「ええ、まぁ」 「はぁ」 と渋沢は大げさに溜息を吐く。 「…今のままで満足? 間宮はそれでいいかも知れないけど、 俺はそれだけじゃ物足りないし、 我慢できそうもない…。 間宮とキスしたいし、できればHもしたい。 ダメかな?」 真摯な目でそう問われて間宮は困惑する。 「…キスまでは…その、構いませんけど…。 Hはまだムリです…」 間宮はやや赤面すると、小さな声でそれだけ言った。 その言葉に渋沢は間宮をぎゅっと抱きしめた。 |