2004/10/20 20:43
壊さないで、僕を。




絡まないで、構わないで。
あなたの優しさが痛いから。

遠い背中は見ないようにした。
だって、辛いから。
俺から離れていくあなたの後ろ姿なんて。
追わないようにした。
だって、正面からあなたにウザイと言われたら立ち直れないから。


ずっとそれだけ追っていればいい。
あなたはずっとサッカーだけを。
夢だけ見ていればそれでいい。
現実はもうあなたの味方だから。
夢はあなたの生きる全てだから。
だからずっと、サッカーだけみていて。
もう、俺のこと振り返らないで。

そうずっと祈りながら、
俺は今また同じピッチの上に同胞として立っている。
日本代表としてブルーのユニフォームを着て。
今此処に、あなたと。


試合後に目が合う。
でも直ぐに逸らしたら、あなたは不審そうに俺を見た。
そうでもしなければ押さえられないんだ。
まだ諦めた訳ではないから。

あなたが好きだと。
こころが痛む。
あなたが欲しいと泣いている。
でも、そんなこと言わないから。
だからもう忘れていいよ。
俺は1人でも大丈夫だから。

あなたは1人じゃダメでしょう?
だから。
あなたは誰かが居ないと生きられない人だから。
素敵な女性と一からやり直せばいい。
あなたに今必要なのは家族だよ。
解っていないんだろねきっと。
でも。
俺にはわかるから。


「なぁ、マムシ…ちょお、二人で話さへん?」
そう藤村が言ったのは就寝ちょい前の自由時間。
ホテルの外をプラプラと1人歩いていたときだった。
不意にかかった声に振り返るとそう言われた。
好きなんだ、お前が。
まだ忘れたわけじゃないんだ。
だから、もう絡まないで。
「何の用だ?」
爆発しそうな感情を抑えてそれだけ言うのが精一杯で。
「んー、大したことちゃうんやけど、あの時なんで目逸らしたん?」
ぶっきらぼうに言われたのは先程の些細なこと。
でも、藤村は気にしていたのか。
「今日の試合後のことか?」
「せや」
「見たくないから」
「へ?」
「お前のこと、もう見たくないから」
そう、もう見たくないんだ。
もう構わないで、俺の心掻き乱さないで。
「なんや、それ」
引き攣った声で藤村が言った。
「別れよう…って言われた訳じゃないけど、俺はそのつもりだったし、
今更お前と話したくない。まだ、諦めつかないし」
「別れた?俺はそんなつもりないで。勝手に決めんなや」
そう静かに怒った。
「…勝手に?」
「勝手やんかそんなん。俺は別れる気なんてないし、
別れらなあかんとも思うてひん。俺らなんか間違うたことしてる?
付き合うてるだけやん…。好きなんが偶々男だっただけやんか」
「でも、お前は…」

「んっ」
ムリヤリ口を塞がれて。
悔しかった。
あっさりと抱きすくめられてしまう自分が。
藤村との身長差の分、俺の方が不利で。
もがいても適わなくて。

もう、俺を壊さないで。
これ以上侵さないで。
俺を。

好きなんだ。
だから。



「マムシ…」
「っ…何で?」
嫌だと言ったのに。
もう別れると決めたのに。
諦めると。
あなたを忘れると。
でなきゃ、もう同じピッチに立てないから。



「好きや。お前が…お前しかいらんねん。
せやから、別れるなんていいひんなや。な?」
なんでそんなに優しいんだ?


構わないで、俺の心、お願いだから壊さないで。

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