【積年回路】






『何かを忘れている気がしていたんや』


何やったんやろ?
何を忘れているんやろ。

	
思い出せへんねん。
誰か…めっちゃ大切な人を。









U―15の練習日。
そのメンバーの中にシゲにとっては見知らぬ者が居た。
直ぐ隣に居た水野に話し掛ける。
「なぁ、タツボン。あれ、誰や?」
『は?』
シゲの指を指す方を見て水野は何を言っているんだこいつはという顔をして言った。
『間宮だろ?何言ってんだよ』
「間宮?誰やっけそれ…」


誰なんやろ?
俺知っとるん?
なんで思い出せひんのやろ……。
せやけど、ドキドキすんのは何故や。

相手男やん。
何考えてん俺。
正気にならんや。

あかん、何でやろ?
この鼓動の高鳴りが止まらへん。
こんな感覚ようわからん。
せやけど、これって『恋』なんやろか?
男相手に?
嘘やろ?
いきなり好きやゆうたら驚くやろか?
怪訝な顔されるんやろな。
気持ち悪いと言われるんちゃう?
それでもええの?
もしかするとチャンス逃してまうかもしれひんのに?



基礎トレーニングと一通りのシュート練習。
その後ポジションごとの練習。
そして昼飯に上がる前にちょっとしたミニゲーム。
変則的な入れ替え制で、監督が入れたり出したりする。
最初に入る時に味方だったものが、
一旦出て戻ると敵。
だからこそ臨機応変に対応する力や連携力が必要となる。
それも、瞬時に元敵チームの人間との信頼関係を築く力も必要となると
ミニゲームでも易々とそれをこなす者は中々現れない。
ただし、数名を除いて。



(ちょお、頭混乱してきよった…。ビブスでしか判断できひんのがシンドイわ)


パスを受けつつ混乱するシゲ。
どちらがどちらのゴールに入れるかは一応把握しているが、
こう入れ替わりが激しいと流石に記憶が追いついていかない。

敵チームのペナルティエリア前に先程名前を覚えた彼が居た。
本来はMFの筈であったが、ディフェンスラインまで下がって来ていた。
シゲが蹴ろうとするシュートコースを確実に潰してくれる。
(こいつ、案外上手いわ)
此処に居るのは選ばれた選手ばかりなので、
皆一様に上手いのは確かだが、その中でも群を抜いている。
相手の行動より早くに、ボールを蹴ろうとしたコースを狙われる。
ゴールキーパー並みの判断力と洞察力。
しかし、それは相手がシゲだったからというのも実際の所関係している。
間宮はシゲのことをいつもみていた。
それこそ、『穴が開くほど』にずっと陰から。
陰というのはまぁ、言葉の綾である部分も多いのだが、
少し離れた別の場所からということが大部分で。
だからこそシゲの思考パターンはある程度頭の中に入っていた。

傍で見ていた藤代は、
(いやいや、中々やるねお二人さん。くうー、俺もやりてー!)
などと思っていた。
自分のチームの人間と本気で遣り合いたいと思ったのは実は初めてかもしれなかった。
但し、相手が自分のチームメイトの間宮である以上、
声を出しては言ったりはしない。



午前の練習が終わり、それぞれ昼飯にと散っていく。
食堂にはバイキング形式に色々な品が用意され、
おかわりも自由で食べ盛りの彼らにはやはりこの形式の食事の方が受けが良い。

気に入った品をトレーに乗せ、少々浮かれた気分で間宮は空いている席に着いた。
まだ誰もかけていなかったテーブルを独り占めして、食事を開始しようとしたその時だった。
突然声が上から降って来た。
しかも独特な関西訛り。
『此処、空いてはる?ええかな、隣』
見上げると見事に染め抜かれた金髪。
整った顔立ちに陽気な笑みを乗せてシゲが言った。
「え?あぁ…うん」
間宮は多少逡巡してからそう答えた。
内心はかなり慌てふためいているが、表情にはおくびにも出さない。
(なんで藤村が、俺のテーブルに来るんだ?他も沢山空いてるのに…てか、
水野たちのテーブルに座ればいいじゃないか。
心臓に悪いって)
「ほなら、・・・しょっと」
トレーをテーブルに乗せ、シゲも食べ始める。
(うう…居た堪れない……。何か、三上の気持ちが解った気がする・・・意味合いはちょっと異なるが)

偶にちらちらとシゲを上目遣いで盗み見てくるのを、シゲは面白そうに見ていた。
割と顔が赤くなっていることを本人は気付いてないらしい。
(もしかせんでも、脈ありと見てもええんやろか?
うわぁ、殺人的に可愛いわ…あかんあかん…俺、目腐って気よったで)


2005.2.9→




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