【そんな関係】


 
 
「がっかりだぜ、まむし」

(………………………んだと?)
顔を真っ赤にして怒り心頭の間宮。
漸く本来のしつこさを生かすプレーに繋がる。
怒るくらいのテンションでなければ、本領を発揮出来ないのが間宮の欠点だったりする。
それが解っているからこその水野の言葉。
まんまとそれにのるのは癪だが、根は素直な間宮なので、そんなことは咄嗟には出てこない。

潤慶を徹底的にマンマークして、パサーである潤慶の動きを封じる。


結果はドロー(引き分け)。
いい試合だったと言われたがまだまだ課題は残るものとなった。




試合が終わって各自ホテルの自室に戻る途中。
桜庭と上原と藤代は、ホテルの自販機の前で争っているとも取れる水野と間宮を目撃した。


「嫌だ!」
「何でだよ」
間宮の腕を取り壁に押さえ付けている水野。
抗う間宮。
はっきり言って意外以外の何でもない取り合わせの上、
間宮の方が実は結構水野と比べると小さい為か、簡単に腕をまとめられている。
ましてあの生真面目な感は否めない水野が、暴力的であるのも意外でならない。
暴力的と言っても殴っているふうではなかったが。

荒げた間宮の大きな声が決して叫び声ではない冷静な声が、藤代たちの元にも聞こえてきた。
「嫌だって言っているだろう?大体こんな所で!人に見られたら不味いだろう!!?」
一瞬困ったふうな表情を打ち消し、水野はまた冷静でけれど不機嫌そうな顔をみせる。
「まぁ、それは…そうだな…」
「大体、お前試合中に俺に何言ったか覚えてるか?」
「あぁ。あれ、気にしてるのか?」
「そりゃあ…。それに、結構ムカツいたしな」
「あの場合は、ああでも言わなきゃお前エンジンかかんないし。最初っからああいう動き出来てりゃいわねぇよ」
水野の言葉に鼻を鳴らす間宮。
「ふん」
「けど、ホントお前が郭の従兄止めてなきゃ、試合結構キツかったんだぜ?」
「それは解っている…。ただそんなことより、ああいう人を怒らせること言っといて、
試合終わったからって切り替え早すぎるだろ?それに、こんな寒いとこでなんて絶対嫌だからな!」
「解ったよ」
漸く話のケリがついたのか、水野は掴んでいた間宮の腕を放した。

藤代たちが覗いてるのには露ほどにも気付かず、水野は口を開く。
「なぁ」
「なんだよ」
ぶっきらぼうに間宮は応じた。
「まだ、シゲのこと好きなのか?」
「………」
「答えろよ」
「好きだよ。そう簡単には忘れられねぇから…」
「だろうと思った」
「なら、何で訊くんだよ」
「何か悔しいじゃん。俺の方が、『近く』に居るのにさ」
「……はぁ。別にお前のことを嫌いだとは言ってないだろう?それに、嫌いな奴に足開くほど馬鹿じゃねぇし」

間宮の言葉に藤代たちは固まる。
『足を開く』イクォール『SEX』と解釈するのが普通である。
しかも、間宮も水野も男で。
ましてやあの水野と間宮が付き合っているなんて先程より衝撃的に意外すぎた。
「足開くって…そんな露骨な…」
「だって、本当だろ?俺、水野のこと好きだから。だから、お前に抱かれてるんだぜ。
そりゃあ、まだサトウのこと忘れられないけどさ…、嫌いな相手とSEXするほど酔狂じゃないつもりだ」
「………恥ずかしいセリフ連発するなよ」
「仕方ないだろう?言わせたのはお前だ」
「…あぁ、確かにそうだな…ごめん」
「俺、ちゃんと好きだから…。お前のこと。だから…」
背けていた目を今度はきっちりと水野の目線に合わせて間宮は言う。
「だから、心配しなくても大丈夫だ。もう、佐藤とのことは終わったんだ」
「べ…別に、そういうつもりじゃ…。ただ、ちょっとした嫉妬だ。お前とシゲのこと疑っているわけじゃない」
水野は幾分顔を赤らめて、そう言った。
「ならいいんだ。確かにまだあいつのことは好きだけど、きっちり別れたし、今はお前としかしてない」
「……ホントお前そういうことストレートに言うよな…」
「そうか?これでも言葉は選んでいるつもりだが?」
「…そうだけど。いちいち恥ずかしいことばかり言わなくてもいいだろ?」
「……好きって言うのが恥ずかしいことなのか?」
「え?あ、いや、別に…」
「それに、あたり構わず、ギャラリーが沢山いるところでこれ見よがしに言っているわけでも無いだろう?」
「まぁ、な」
水野の返答は煮え切らない。ただ、答えにくい事項であることは確かだ。
「話はそれるけど…お前さ、今は俺としかしてないって、前はシゲ以外にも誰かとしてたのか?」
「佐藤と別れて直ぐ、須釜とそういうことになったことはある。お前から丁度告白された時期とも重なるけどな」
「須釜ってあの関東選抜のキャプテンの?」
「そう。あの背がひょろ〜っと高いあの」
「須釜とそういうことにって、何でなったんだ?」
「あぁ、ただ試合後もちょっと気になって後をつけていたら、バレてたみたいで…」

『ん?そこに居るのは誰ですか?』
須釜は振り向き無人の廊下に問いかける。
仕方なく姿を現した間宮を見て『おや?』と言う顔をすると、間宮の方へと近付いてきた。
『いい試合でしたね』
ニコリと微笑む須釜に間宮は薄ら寒いものを感じて逃げようとしたが、返り討ちに遭う。

「…で、その後、気付いたら須釜の部屋のベッドに全裸で寝かされてて…みたいな?」
「おい、それって…」
真っ青になる水野をよそに間宮は続ける。
「でも、気がついた時はその状態だったけど、そん時はまだ別にされてなかったんだよ」
「はぁ?!」
「ただ服を脱がされただけだった。まぁ、その後はやったんだけど……」
「やったのかよ!?」
「うん」
「何で拒むとかしないんだお前は!?」
「別に特に拒む理由がなかったし。佐藤と別れてからつーか、
別れるちょっと前からなかったからな。溜まってたからいいかみたいなノリというか?
まぁ、寧ろ、忘れさせてくれるんなら誰でも良かったみたいな感じ?」
「それで、好きでも無い相手としたって?」
「あぁ。今はちょっと後悔してるけどな…。
その時は満たされて良かったとしても、時間が経つほどに軽率なことしたなって思いも強くなった」
「へぇ?」
「お前を好きになったからだよ。水野」
「……」
思わず赤面する水野。
「だから、今はちょっと後悔してる。やっぱ、SEXは好きな人としなきゃなぁって」

間宮と水野の会話をずっと拝聴していた藤代たちは固まるを通りこしてわたわたしていた。
衝撃的過ぎる事実がどんどん出てくる。
間宮が水野と付き合う前は実は藤村と付き合っていたらしいということ、
また関東選抜の須釜とも関係を持ったこともあるというらしいこと。
自分たちの感覚では普通に女子を好きになって付き合ってというのならまだ理解できる。
しかし、男同士で付き合って別れ、肉体関係を持ち…という状況が普通であればありえないのではないか?
そして、水野は藤代たちから見てもかなり女子にモテルという印象があるだけに、
あの間宮と付き合っているなんてことは到底ありえないことであった。
気にはなるがいい加減このディープな会話を拝聴するのは憚られる為、藤代たちはこっそりとその場を後にした。


「なぁ、場所変えないか?いい加減寒いし此処」
間宮が自分の両腕をさすりながら言った。
「そうだな。ここじゃ、どうせできないしな?」
「お前、まだ諦めてないのか」
はぁと小さくため息をついて間宮がいう。
「俺とヤルのいやなのか?」
「そうは言って無いだろう?つか寧ろお前とするのは好きだし…」

「そうなのか?」
水野は意外そうに間宮に訊ねてくる。
「あぁ。好きな相手と身体を繋げることは気持ちいいことだからな」
「そういう意味か…」
何故だか水野はがっくりと項垂れていた。
間宮は不思議そうにその様子を見ていたが、やがてすたすたと歩き出した。
「お、おい、間宮!」
「あ?部屋に戻るだけだが?」
くるりと水野を振り返り、そう淡白に返す。
はぁと小さくため息を吐くと、水野は間宮のあとをとぼとぼとついて行く。
部屋に戻ると、間宮は自分のベッドにダイブした。
「はぁ〜、気持ちイイ〜」
どちらかというと、きもちリラックスモードで、水野とHすることは完全に忘れているっぽい間宮。
「間宮…」
水野が所在なさげに間宮と呼ぶと、
「ん?何だ?」
何処吹く風と言った体で間宮は顔だけ捻って水野を見る。
「襲っても可?」
「おい…水野、そういう問いはないだろ?」
と笑いをかみ殺した声で間宮が言う。
とても楽しそうだった。

「お前、俺をからかってんのか…?」
「別にそういうわけではないけど、そうともいうかもな?」
本当に楽しそうに間宮が言うので、水野は怒ることも出来ずに佇む。
「そんなに俺とSEXしたいのか?」
「…あぁ」
「いいぜ、来いよ?」
間宮はベッドに寝そべっていた体制を変えて、
肘をついて頭を支え横向きに寝ている姿はいかにも『誘っています』といった感じだ。
間宮〜と叫びだしそうな勢いで水野がダイブすると、お決まりの通り横に避けた。
ばふっと枕に顔が埋もれる水野をやはり楽しそうに間宮は見ている。
『ま、みや〜ぁ』
うらめしそうに水野が言うのを、腹を抱えて間宮は笑っている。
何気に酷いが、いつの間にか水野も一緒に笑っていた。
ゆっくりと顔が近付いて、どちらともなく口付けた。
「水野…」
真っ直ぐに見てくる間宮にドキッとする。
「間宮、いいのか?」
「うん」
間宮は小さく肯く。
水野は間宮の上着の裾から手を差し入れる。
「っ……冷たいぞ、水野」
「お前に温めてもらうからいい」
「あのな…」
呆れたように間宮が呟く。
水野の手が間宮の突起に触れる。
「冷たいって言ってるだろ?」
と言って間宮が水野の手をムリヤリ外すと手を上着から引き抜いて、身体の位置を水野と入れ替える。
「間宮?」
間宮が自分の上に乗ってくることは先ず無いので、幾分怪訝そうに名前を呼ぶ。
「ま、さっきからかったからな。お詫びだ」
そう言って、水野のジャージに手を掛ける。
「おいおい…まみ…や?」
水野の体に口唇を這わせる。
「うっ…」
「…気持ちいい?」
(…っは、ヤバイ…嘘だろ?何、コレ…)
水野は初めての感覚に戸惑いつつ、変な声を出しそうになって、慌てて両手で口を塞ぐ。
段々と下腹部へと間宮の口唇は降りていく。
「ちょっ…間宮!そこは…」
慌てる水野を他所に、間宮は水野自身を咥え込んだ。
「…うっ…!」
未だ感じたことのない快感に悶えるような声を出す水野。
「はぁはぁはぁ…も、いいから…」
水野がそういうと、間宮は口唇を離す。
「気持ち良かった?」
「あぁ、でも、こっちのがいい…」
そういうと、水野は間宮のジャージを脱がしにかかる。
下着も一緒に引き摺り下ろすと、双丘の終点を指で解す。
「あっ……」
先程、間宮が咥えていたものをソコに宛がうと、間宮は嬉しそうに身体を捩った。
「も、入れるぞ?」
「うん…」
水野が沈み込むと、間宮はぽつりと呟いた。
「…なぁ、何で子供もできないのに、こういうことしたいんだろうな?」
ベッドに背を預けるようにして寝ている間宮の視線は水野ではなく天井だけを見ている。
確かに繋がっている筈なのに、意識だけは凄く離れているような切ない気分を水野は味わった。


(子供はできないのに…か。まぁ、確かにそうだな…でも)
「そんなの、好きだからに決まっているだろ?」
「そうだな」
そういうと間宮はにこりと笑みを見せた。


ただ、好きなだけ。
それだけ。
でも、それが俺らにとって一番重要なこと。
一番、失くしてはいけないこと。
それを確かめるにはこういう方法しかないんだよな?


間宮は上体を起こすと、水野の背をかき抱いてこういった。
「好き…大好き」
「あぁ、俺も」
水野は強く間宮を抱き返した。






2005.8.18→2008.7.30

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