そっと、このままで。 『好きなんや』ってこの間言われた。 俺だって同じだけど…。 なんて答えればいいのかわからなくて。 初めて、お前と出会ったときに気づいてた。 俺たち本当は両想いなんだって。 でも、『恋』ってそういうもの? 付き合うとか付き合わないとか、そんなの関係なく『恋』なんじゃないのか? ただ、傍にいるだけでドキドキして、お前のこと意識してる時が『恋』なんだと思う。 お前を好きだと思っている気持ちそのものが恋なんだよなぁって。 付き合うってなった途端にお互いに冷めてしまうんじゃないかとか、 本当は俺じゃなくてもよかったんじゃないかって思うくらいなら、 このままの関係でいた方がいいんじゃないかって思う。 けどそれをどうやって上手く佐藤に伝えればいいんだろう? 答えを保留したまま半年が経っていて、けれどあいつはいつもと変わらず。 だから俺もこのままでいいかな?なんて思ってた。 「な?ちょっとええか?」 U-16の休憩時間。 佐藤が…いや、藤村が俺に声をかけて来た。 「あぁ、うん」 何だろうと思っていると、こう言葉が降ってきた。 「あの返事、いつになったらもらえるんかと思うて…」 藤村は幾分照れくさそうにそういった。 「え、あ…えと…」 俺は言葉に詰まらざるを得ない。 ずっとこのままでいいかな?なんて思ってた。 藤村は俺にこっそり優しいし、手のぬくもりを感じられる微妙な位置で、 けれど深くは求めないこの関係が一番俺たちにはあっているんじゃないかって。 「その、このままじゃダメかな?」 「このまま?」 「うん…ダメかな?」 「俺やと、やっぱあかんの?」 「そうじゃないけど…今のままの距離が丁度いいと思うから」 「丁度ええって……」 藤村の不満そうな顔の理由はなんとなくわかる。 「俺も同じだから、藤村と。けど、今はまだ壊したくないつーか…」 「今の関係を ってことなん?」 「うん。藤村が俺のこと特別だと思ってくれるの嬉しいし、俺もそうだけど…今はこのままでいたいっていうか…」 「あと何年か待てちゅうこと?」 「そうじゃない。別に待っててくれなくてもいいんだ…俺の我侭だし。 だから他に好きな人できたらそっちにいったって別に構わないんだ」 「ちょっ、それはないやろ?」 焦ったように藤村がそういう。何でなのかよくわからなかった。 「え?」 「わーった。お前の言いたいことは。せやから、俺に待っとけってゆうてくれひん?」 (なんちゅうか、それやったら俺、告った意味ないやん?一方通行のまんまやし…) 「藤村の気持ちは嬉しいけど、束縛するみたいで俺が嫌だからさ」 「はぁ、わーった」 (なんちゅうかこれ以上意地張ると俺のが子供みたいやしなぁ) 「ありがと」 「ええって」 (こんな顔されてこんなん言われたら、もうなんもゆえへんし) 俺はずっと、マムシだけやと思うてる。 せやから、男と承知で告白なんちゅうアホらしい真似したんやで? もしかしたら、マムシも俺に気ぃあるんちゃうか?ってちらっと思うてたこともあるけど。 まぁ、男が男になんてホンマあほらしぃて思うてるけど。 恋人になりたい思うたから、なりふりかまってられへんやって。 男と承知で恋愛の好きなんやと認識した時から、ずっと欲しいおもうてた。 これから女を好きにならんとかそんなんやなしに、一生もんの恋愛はマムシだけやとおもうた。 せやのに今のままでいさせぇなんて、あんまりやないのん? 俺やってずっと我慢しとったんやで? 女にも興味津々な思春期 真っ只中や。それで禁欲生活って、かなり厳しいんやで? いや、まぁ、別にヌイてないとかそういうんやなしに。 好きな相手と深い関係になりたいとか、まぁ、なりたいんは深い関係ちゅうよりも、保障が欲しいんやろな。 もちろん、マムシとヤリたいちゅうんもあるけど。 相手との…マムシが俺の恋人やって証ちゅうかそんなんが欲しいんや。 俺のモノやと、束縛できる理由が欲しいんや。 なんでやろ、断られたよりも保留にされとる方が落ち込むわ。 ずっとこのままやったらどないしょう。 手を伸ばせば届く位置におって、せやのに我慢せぇってどんな拷問や? 『他に好きな人ができたら別にそっちにいっても構わないから』 って何気にショックやった。 まるで俺がお前んこと好きでいることなんて無いみたいにいうんやもん。 俺がお前んことずっと好きやったらあかんの? なぁ、ずっと、好きやったらあかんの? それから更に半年が経ち、俺はイタリアへサッカー留学することが決まった。 高校にあがって直ぐのU-16の時に既に打診があった。 でも、まだすぐには答えが出せていなかった。 藤村の時みたいに。 けれどやっと決心がついた。 サッカーと共に歩むと決めた時から、海外の地で上を目指したプレイを経験するのもアリだなと。 そして、藤村にそれを伝えると、『会いたい』と言われた。 だからこうして藤村の泊まっているホテルまできたわけだけど。 安い料金で泊まれるところだから、安っぽいのかな?と失礼ながら思っていたけれど、 意外と綺麗で思ったよりも広かった。 「マムシ、待っとったで」 「あ、うん」 藤村に笑顔で迎え入れられながら、なんとなく予感はしていた。 「暫く、会えひんのやろ?」 「うん、そうなるな…俺も出来る限り向こうに馴染みたいから、そうそう帰ってこれないと思う」 「なぁ、今日だけでええねん。俺のモノになってくれひん?」 「え?」 「俺、お前のこと諦めた訳やないんや。せやから、お前があっちに行く前に俺の匂いつけときたいちゅうか…」 「えと、俺を…その、抱きたいってこと?」 なんとなく藤村の目をまっすぐ見れなくて、そっぽを向いてそういった。 「せや」 「けど、付き合ってもないのに…」 「嫌なん?」 「ううん、いいよ…」 こうなる予感はしていたし、俺も嫌ではなかったから。 |