2005/12/14 23:50 |
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久し振りに中学時代から知っている顔ぶれが一堂に会した。
子供や奥さんを連れている奴らも少なくない。
俺もそれに漏れず子連れだった。
緑色の人工芝の上に小さな子供たち。
同窓会もかねているような、サッカー大会。
たかがミニゲームと侮る無かれ。
メンバーは現役のJリーガーばかりなのだから。
その後に子供たちにサッカーを教えたり、
ただ単に旧友と話したりしている者も少なくない。
U-14では知らない者が居ない位有名なかの三人組も、
今では子を持つ親。
何故かそろいも揃って子供は皆女の子。
ただ若菜に限って言うのなら双子であったが。
『間宮』
そう笑って呼びかけるのは、藤代。
こいつは結婚していない方の人間だった。
しなかったわけじゃないのは良く知っている。
ただ、出来なかったのだ。
相手を水野に取られたから。
いや、元々水野と彼女が何となくそんな感じになりそうだった。
藤代の方が横恋慕な感は否めない。
彼女を想って未だに結婚できないんだと、そう思っていたのはついこの間だった気がする。
でも…。
藤代は俺の傍に居た二人に声をかける。
「一くん、勇くん久し振りだね!元気にしてた?」
にこにこしていう藤代につられて、一樹も勇樹もにこにこと笑顔で返事をする。
「あ、お久し振りです。藤代さん」
ぺこりとお辞儀する一樹を真似て、勇樹もぺこりとお辞儀をする。
「おしたしぶり〜。せいじくん!」
藤代が抱き抱えるとぎゅっと抱きついている。
何故だか勇樹は藤代に懐いていた。
「勇くん、オジさんの子供にならない?」
「おい、何言い出すんだ!」
「いいじゃん。うち兄貴のとこは女の子だし、俺は子供いないし。
だから、勇くん俺の養子にくれない?」
「ダメだ」
「えーっなんで!俺大切に育てるからさ!」
そう言って勇樹をぎゅっと抱き締める。
「お前が育てたらろくな育ち方しないだろ!」
「えー、ひどっ」
「それに、それ以前にお前、解っているだろう?
俺と誰の子供か…」
「うん。けど、そんなの関係ないよ。間宮の子だし、いい子に決まってるだろ。
自分に似ないとかは仕方ないの解ってるから…」
「変なヤツ」
「うわ、本気でひでぇ」
「間宮の子供ってさ、なんか間宮に似てなくね?」
真田が若菜と郭にそう言う。
「そりゃ、まぁそうだな。つか何か物凄くよく見知っているやつに似ている気がするんだけど…。誰だっけ?」
「藤村に似てるんじゃない?まぁ、だとしても変なはなしだけど。
それに、あの子どう見ても小学校高学年か中学生くらいじゃない?」
「だな…」
それが聞こえていたシゲがそちらを向く。
藤代とじゃれている自分の娘の秋樹と同じ位の年の男の子も、
間宮の隣に立っている中学生くらいの男の子も、どちらとも自分にそっくりで。
「俺に似てる?」
(なんでや?マムシの子やのに…。そんなん奇怪しいやん?)
秋樹を抱き締めてシゲは思う。
シゲは自然と間宮たちの方に歩いて行った。
「マムシ、フジ、久し振りやな」
「あぁ」
「あ、藤村、ひさしぶりぃ〜。秋樹ちゃんも久し振りだね」
「あ、せいじくん。おひさしぶり」
腕の中の娘と藤代の会話は無視したまま、
隣の間宮に話しかける。
「なぁ、マムシ、聞きたいことあんねやけど…」
「?」
「何で、お前の子供、二人とも俺に似てるん?」
それまで無関心を決め込んで子供たちと遊んでいた藤代。
それを聞くと勇樹を抱いたまま、話に割り込んでくる。
「だって、当たり前じゃん?フジ…もがっ」
慌てて間宮が口を後ろから塞ぐ。
「おいっ!」
間宮が怒鳴るのと同時に、「もがっ…はっ…ぐぇっ」と変な声がするので、
取り敢えず藤代の口を塞いでいた手を離した。
「ハァ…ってか、酷い!いきなり!」
「お前が勝手に話しに割り込んでくるからだろうが!」
「だって、藤村には本当のこと言った方がいいんじゃないの?
自分からじゃ言い難いだろうと思ったから、お節介だけど俺が言ってやろうと思ったのに…」
「本当にお節介だな!大体、今更言うことでもないだろう?藤村には藤村で妻子があるんだし…」
「でも!後になって知る方が、藤村にも子供にもよくないと思うんだけど…」
「………」
藤代の言葉は核心を突いていて、間宮は返す言葉も無かった。
「なぁ、結局のとこ、どうなん?」
二人のやり取りを静観していたが、痺れを切らしてシゲが口を開く。
「……本当は、墓場まで持っていくつもりだったんだがな…。仕方ないか…。藤村、お前に似ているのは当然だ」
「へ?」
「お前の、子供だからな」
「は?」
「此処で詳しいことは言えないが、まぁそういうことだ」
そういい終えた間宮の腕を掴んで、藤代が爆弾を投下する。
「そうそう、いい忘れるとこだったけど、俺と間宮もうじき結婚すんの」
「はぁ!?お前、何言ってんだ!誰がお前と結婚するって?」
「間宮と俺が」
「アホだろ!お前」
「だって、間宮もうじき戸籍女になるんだろ?だったら、牽制しとこうと思ってさ。
まぁ、藤村はもう結婚してるけど…。でも、元恋人ってことはやっぱりライバルじゃん?」
「………話が、見えへんのやけど?」
「間宮、今季いっぱいでJ辞めて、俺と結婚すんの!」
「は?何ゆうてん?マムシは男やろ?」
「だから、今季終了後に戸籍の決着がつくから、来季からは間宮戸籍女だし結婚には問題ないじゃん?」
「ちょお待て!戸籍が女になるってどういうことや?」
「先天性の遺伝子異常で細胞分裂の際に、女性特有の器官も持って生まれたんだ。
で、子供のことがあるから病院側から戸籍を女に変えた方がいいだろうってことで、
病院の資料を今民事裁判所に提出して戸籍変更の手続きしている最中なんだ」
間宮はきぃっと目を吊り上げて藤代を振り返る。
「だけどな、お前と結婚するとは一言も言ってないぞ」
「え〜そうだっけ?」
「ああ。一度もな」
「なぁ、ほんなら、俺とは?」
「は?お前は結婚しているだろう?」
「んー、それなんやけどな。誤解があるようやからゆうとくけど…。
今結婚はしてへん。独身や戸籍だけの話するんなら。
せやけどまぁ、一緒に住んでるから法律上は内縁の妻っちゅうことやな。
それとな、子供は…秋樹は俺の子ちゃうねん」
「え?」
藤代と間宮の声がハモル。
「字こそ俺の名前からなんやけど、ホンマは別の男の子供なんや。
大体時期的に逆算しても俺の子やないのは明らかやしな…」
「…そう、だったのか。俺はてっきり秋樹ちゃんって藤村の子供なんだと思っていたんだけど」
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