渋沢視点でお送りしています。 三上が水野と付き合っていることに気付いたのは、つい先日のことだった。 中学の頃は何かとお互い衝突していたものだというのに。 ただ、俺にとってそれは好都合としかいいようがなく。 ずっと三上に懐いていた間宮が最近はあまり三上と一緒に居ることがないので、不信に思っていたのだが。 するとどうやら恋人が出来た三上に遠慮してのことだったらしい。 新歓の後に、間宮たちはサッカー部に顔見せにやってきた。 「おひさしぶりっス!キャプテン!」 藤代がはしゃいだ様子で俺にそう言ってくる。 「ごめんな、まだ俺がキャプテンやっているんだ」 そう言って現れたのは現主将の油崎さんだった。 同性から見ても、かなり見目麗しいというか…。 兎に角美形という表現がぴたりとはまる人だった。 「え…あ、すみません」 しょんぼりと肩をすぼめる藤代の仕草は相変わらず大型犬みたいで可愛い。 「いや、気にしていないよ。元気のいい君が藤代くんかな?」 「え?はい!」 それこそ、押忍っといいそうな勢いで藤代がこたえる。 「それから、笠井君に水野君だったかな?………あ、茂、久し振りだね」 水野たちを順に見てそう呼ぶ油崎さんの言葉が間宮のもとで少し砕けた感じに変貌する。 「タク兄ぃさんもお元気そうでなによりです」 そして、間宮も親しげに『タク兄ぃさん』と呼んだ。 「あの、油崎先輩、間宮とはどういったご関係で?」 俺はおずおずと口を挟んだ。 「あぁ、茂とは血縁だよ。茂の父親が俺の母の弟に当たるんだ」 「あ…だから苗字が違うんですか?」 「あ、いや、そういうわけでもないよ。母の元々の苗字は『美咲』だからね」 「え?」 問い返したが優しく微笑むだけで何も答えてくれる気配は無い。 間宮が引き継いだ形でその続きを語る。 「父が婿養子なので…。だから、タク兄ぃさんの所と苗字が違うんです。 勿論、タク兄ぃさんのお母上は父の姉ですので、それもありますけれど」 「あ、そうか…すまない」 「いいえ。別に訊かれて不味いことでしたら応えませんから」 「………」 「ところで、茂。姫はご健勝かい?」 「ええ。元気が良すぎて困っているくらいです。先日も、苅部さんが嘆いておられましたから」 「……誠一(よしかず)さんの雇われた執事さんだったかな?」 「はい。所で、龍子伯母さんはまだ海外に?」 「あぁ。研究所に詰めているらしい。何せ、ワシントン条約に引っ掛かる動物ばかりだから…」 「…龍子伯母さんらしいですね。父も似たようなものですけど」 「姉弟揃って動物学者ってのも面白いけどね」 「それもそうですね」 何だか話が弾んでいるふうで少々解せない。 間宮がこんなに楽しそうに話すことなんてそうそうあったものではない。 三上といる時でさえ、間宮はこんなに穏やかな口調だったことはない。 柔らかな表情と声と、親しげでいてきちんと敬語を遣っている。 少しだけ嫉妬したと言ったところで、罰はあたるまい。 俺は、会話が終わらないかと少しだけ焦れていた。 こんなに自分が嫉妬深いなんて知らなかった。 間宮にとって俺はただの部活の先輩でしかない。 でも、油崎先輩は違う。 彼は間宮の従兄。 間宮本人も無意識のうちに気を許していられる相手。 悔しいとは思うが、それだけは表情に出さないようにして。 平静を装う。 |