だって、知らなかったんだ、そんなに大切なものだったなんて。

本当は、こんな関係、ならなきゃ良かったって、そう思って居たんだ。
別れたいとかそんなんじゃない。心の方は確かにあいつを求めてる。
でも、今はそんな場合(とき)じゃないのに。
サッカーだけ見てなきゃいけない。
夢を追ってなきゃ、絶対に掴むことなんて出来ない。
あいつも俺も、『恋』なんかで止まっている場合じゃないのに。
でも、好きなんだ。
本当は、きっと、比べられないなんて嘘。
優先順位はいつだって、佐藤だったのに。
何を差し置いても、サッカーすら、佐藤と比べたら。
いつだって、あいつが俺を望んでさえくれるなら。
そんなもの無くったって構わなかった。
そう、無くったって………。




八月の雨の日のことだった。佐藤の家の帰り道。
駅まで佐藤に送ってもらった。そう、そこまではよかった。
電車を降りて寮へ戻る手前、 暗がりの路地に雨で視界が悪い上、この上なく目立たない色の車。
そんなものが突っ込んできた。そう、俺の方に。
最後に聞いたのは金きり音のブレーキを踏む音とビーンという鈍いクラクションの音。
雨が俺を打ち付けて、いつの間にか傘は何処かへ行ってしまっていた。
そこで、俺は記憶を手放していた。






その事故から半月ほどたった頃、時期的には9月の二週目程度。
記憶の途切れたままの俺は、その後変わらず武蔵森学園の中等部に席を置くこととなった。
懐かしいような気もしなくはないが、殆ど此処で学んだ全てを俺は手放していた。
サッカーのルールもハンドブック無しではちょっと思い出せない。
記憶以外の事故の代償は何も無かった。
一から部員や先生、監督やコーチの名前を覚えなければいけないことは大変だったが、 それほど辛いとは露ほどにも思わなかった。苦ではなかった。
たとえそれが覚えなおしだとしても、俺にとっては新鮮な記憶だから。
少し遅れを取っていたが、色々な教科の先生が放課後も熱心に教えてくれた為、 何とか授業に差しさわりのない程度の学力にまで回復した。
ルールはよく解らないが、サッカー部の方も続ける事となった為、 毎日ハードな練習を行っていた。
身体の方が覚えているのか、勝手に動くことがあるが、特別注意を受けるでもない。
だからか、サッカーというスポーツがとても楽しく感じていた。
好きだったんだろうきっと。記憶を無くす以前も。俺はサッカーを。

そうこう過ごしているうちに、12日となった。
寮の部屋で青い光が点滅している自分の携帯電話に気付いた。
コレの遣い方も良く解らなかったから、説明書を一から読み直したくらいだ。
パチッと開くと画面に光が点る。
待ち受けの画像は誰だか解らない派手な金髪男と俺の映ったツーショットの写真だった。
病院から戻り、私物だと見せられた時、この携帯の写真を見て思ったが、 この男は何か特別俺の個人的なことを知っていそうな気がした。
メールフォルダを開けると、新着一件未読とある。
それを開いてみる。

件名 ハピバ!
----------------------------------
Happy Birthday! マムシ♥♥
14歳 おめでとさん
お前が生まれた大切な日ぃやからな。
プレゼントも用意してんねんで♪
は?珍しい思うてんちゃうやろな?
これでも、俺は恋人に尽くす方なんやで?
あ、その目は信じてへんな?

好きや、愛しとるで♥

ホンマ、冗談抜きで、
めっちゃお前に惚れとるんやからな?

P.S
フジにバレへんように抜け出して来てな!
あいつが来ると二人っきりになれひんやろ?
ほんなら、また後でな♪
めっちゃ、愛し合おうや♥♥
----------------------------------



『………………』

なんだ?この内容は……。送信先間違って無いか?
いや、でも…この【マムシ】というのは、確か俺のあだ名みたいなのだよな?
それに、P.Sの【フジ】って言うのは、藤代のことだよな?
………それに、メモリーに登録の無い人間は、名前のとこメールアドレスになるんだよな?
佐藤って表示されるってことは、登録されてる…人ってことか?
でも、内容が明らかに奇怪しいんだが………?
【14歳 おめでとさん】までは、まだ解る。
けど、そのいくつか下の、【俺は恋人に…】のくだりは明らかに奇怪しい。
【好きや、愛しとるで♥】は、もう、お前頭沸いてるんじゃないのか? と小一時間問い質したいくらい有り得ない。
俺は、男だぞ?ましてや、お前も男だろと問いたい。
なんで?お前、何がしたい訳?
からかって遊ぶのが流行ってんのか?
でも、それにしては微妙に引っ掛かる。
藤代にはばれない様にとか…。
でも、この【愛し合う】ってのが言葉通りの意味だとしたら、 もしかして記憶無くす前の俺ってこいつと既にそういう関係だったってことなのか?
嘘だろ?おい。有り得ん。俺に恋人?しかも、男?何、それ。



悶々と一人メールに悩んでいた所に、藤代が戻ってきた。
『お、間宮、何してるの?メール?』
と楽しそうに訊いてきた。
「あ…あぁ。まぁ……」
俺は曖昧に返した。
「へぇ?誰から?」
「佐藤?とかいうやつ…でも、コレ、内容が奇怪しい」
「へ?」
少し迷ったが、メールを藤代に見せた。
「ぷっ」
藤代がいきなり笑い出した。
「何だ?何がおかしい?やっぱり、コレギャグなのか?」
「違うって…。ただ、そういや、佐藤、お前が記憶無いの知らないんだなーって思ってさ。
いきなり恋人が記憶喪失つーの知ったらあいつびびるだろうなーって思ったら笑えたんだよ」
「む?……じゃ、何か?やっぱり、俺はこいつと恋人関係にあると?」
「うん。まぁ、知ってるの俺くらいだけど。他の奴は多分知らないと思うぜ」
「そうか……」
「アレ?もしかして、落ち込んでる?」
「そりゃ、そうだろ?いきなり男が恋人とか言われて嬉しいやつがいるか?」
「あ、まぁ、そりゃそうか……」

「……その、なんだ…」
「ん?何?」
「俺と、この佐藤つーやつさ…」
「うん?」
「その…そういう関係ってあったのか?」
「そういう?…って、アレか!エッチしてたかつーこと?」
「あ、あぁ。まぁ、そうだ」
「俺そういうとこまでは知らないけど、多分、あったんじゃね?っていうのも、
お前さ、佐藤と付き合い出して、ナニしなくなったっぽいしさー」
「…ナニってなんだ?」
「ぶ…そっかー略語だとわかんねー?オナニーつったら解るか?」
「っ!…わ、解るが…」
「何かさ、付き合いだして、そういうことごそごそ一人でしてる感じしなくなったし。
前は何か『今やってるっぽいな』って時あったんだけどさ」
「うッ、そ、そうなのか。俺、男とエッチしてたのか……」
なんというか、実際はどうだか解らないが、多分だとしてもそういわれると激しくショックを感じる。
藤代が俺の肩にポンっと手を置き、
「まぁ、気を落とすなよ。……前のお前はさ、ホント、スゲーそいつ…佐藤に惚れてるって感じだったし、
もう、見てるこっちが中てられそうになるくらい、いい雰囲気だったんだからさぁ」
と言葉をかけてくるが、そんなことは今の俺には慰めにすらならない。
記憶を失くす前の俺は男を好きだったなんて…。何か信じたくないぞ。断固として否定したい。
けど、事実をまげられる筈も無く、また、過去の気持ちにきっと嘘なんて無いとホントは解るから。
だから、余計に信じたくなんてなかった。
こんな金髪のチャラチャラしてそうな男のどこを俺は好きだったんだろう?
体を許すことが出来るくらい?その表現は曖昧でいまいち解り難いなと自分でも思うが、
しかし、男が男相手に体を許すというのは、女が男にそうするよりも大変なことのような気がなんとなくする。
女の体は元々男を受け入れるように出来ている。子孫繁栄の為に。
けれど、男同士でそんなこと普通は出来る筈が無い。
というか、どこにどうするのか、ショックは受けたものの結局のところよく解っていない。
「で、間宮どうすんの?佐藤の所行くの?」
「なんで俺が?」
「なんでって……佐藤、待っているって書いてあるじゃん。
幾ら記憶無いったってさ、自分のこと祝ってくれようとしてる奴ないがしろにしちゃ不味いと思うんだけど。
いか無いならさ、ちゃんと断りの電話なりメールなりした方がいいんじゃね?」
「…む。けど、そうか。向こうは俺が記憶ないことも知らないわけか…」
「あ、そうだ。俺が電話してやるよ。途中までは俺が説明してやるからさー」
「何かお前が説明すると、この佐藤とか言う奴、ギャグにとらないか?」
「うわ。間宮ひど。記憶なくても前の性格はそのままかよ」
藤代は大仰にジェスチャーしてみせた。
「そんなことは、俺自身にわかると思うのか?」
「そりゃ、そうけど」
藤代は不服そうにそういう。
「結局、電話する?それとも直接、佐藤の所行く?」
「電話で話すよりも行った方が確実だとは思うけどな」
「じゃ、行こうぜ」
「あぁ。それはいいが、外出届けとかはどうするんだ?」
「平気、三上先輩がいつも抜け出すのに使っているいいところがあるから」
「へぇ?」



間宮は藤代の後をついて、大浴場の小窓から外へでた。勿論、靴は持参済みだ。
藤代の案内で、草晴寺まで難無く行くことができた。
呼び鈴を鳴らすと、シゲが待っていましたとばかりに出てきたが、 隣にいる藤代を見て、ガックリとオーバーに肩を落とした。

「何で、藤代がいてるんや?」
あくまで間宮に話し掛けつつ、視線は藤代を睨めつけている。
「間宮、記憶喪失なんだよ。そんで、お前そのこと知らなかったなぁってことで俺がついてきたって訳」
藤代は困った顔で間宮をちらりと見つつ、そんなことを言った。
「記憶喪失?!」
何でお前が答えんねんと顔に書きつつ、シゲは間宮をマジマジと見た。
「あぁ。だから、実の所、お前のことを誰だか覚えて居ないんだ。 あのメールもいたずらかと思ってこいつに見せたら、俺とお前が恋人とか言うんで吃驚したんだ」
「………はぁ」
盛大に溜め息を吐(つ)くと、シゲは言った。
「まぁ、詳しくは上がってから聞くわ」
二人を上がるように促し、シゲは戸を閉めた。


「あの日にそんなことがあったやなんて…」
シゲは神妙な面持ちで藤代の話を聞いていた。その間、間宮は何も言わずじっとしていた。
「まぁ、そん時、俺らの所には連絡きたんだけどさ、間宮の家族以外に知らせる人思い浮かばなかったからなぁ。 ほら、サッカー部のメンバーとか桐原監督やコーチん所には連絡ついてたしさ。 俺もそん時シゲのこと気付けばよかったんだけどさすっかり忘れてたんだよね」
とえへへと笑う藤代。
「ほんで、俺からのメールに間宮が?マーク飛んでたときにようやっと思い出したちゅうことか?」
「まぁ、そうかなぁ」
一通りシゲと藤代の話が済むと、間宮が口を開いた。
「で、俺とお前が恋人だというのは本当なのか?」
神妙な面持ちでそう訊いてくる恋人に半ば絶望しつつ、シゲは答えた。 本来なら甘い時間を過ごせる筈だったのだが、それが恋人の記憶喪失によって阻止されてしまったのだから。
「あぁ、せや」
『……あぁ、やっぱりそうなのか』 というちょっと絶望の色を滲ませた表情を間宮が一瞬したことを、シゲは見逃さなかった。
「もう一つ、聞きたいことがある」
「ん?なんや?」
気を取り直して、シゲは間宮を見て言った。
「…その、なんだ…えっと…」
間宮にしては歯切れが悪いと言うか、言い難くそうにシゲを上目遣いでちらりと見つつ言う。
「その、俺とお前って…あの、なんていうか…」
「ん?」
シゲは辛抱強く、優しく笑いかけ先を促すが、間宮の視線は定まらず下を向き、 顔はうっすらと赤みが差している。
「…っと、その、キス以上のことも、したのかなって…」
やっと言えたといった感じで間宮がゆっくりと息を吐く。
『あぁ』と納得したようにシゲは肯く。本当に訊きたかったのはそちらなのかと。 恋人だと言う言葉を聞いて、絶望感を一瞬とはいえ漂わせたのは、そういう意味だったのかと。
「まぁ、あったで?」
「そ、そうか……」
間宮は多少がっかりしたように肩を落とした。
「その、俺…っ」
「ん?」
切羽詰まった感じでシゲに何事かを間宮は切り出そうとしたが、 横に居る藤代を見て結局続きを発しようとしないので、藤代は気をきかせて言った。
「あぁ、俺暫く外してようか?」
「ん、頼む」
間宮が言うと、藤代はスッと立ち上がり、衾を開け出て行く。 衾が閉まり、藤代が去ったのを確認すると間宮は改めてシゲに向き直った。

「その、俺って、お前に抱かれていたのか?……その、多分俺が女役だったと思うんだけど…。 ぶっちゃけ、ホントのところ男同士で恋人とかエッチとかって言われても良く解らねぇし… その多少ショックではあるんだけど」
「ん、抱いたで?お前のバックに俺のを突っ込んだ。 せやけど、お前は別に嫌がらんかったし、俺もムリヤリ抱いたんちゃうで?」
「バック?」
「尻の穴ちゅうたら解るか?」
「!!」
「えっと、ココにそんなもん入るのか?」
少し怯えたように間宮は言った。指はなんとなくシゲの股間あたりをさしていた。
「あぁ、潤滑剤とか使うてよう慣らしたら入るで?勿論、ムリヤリ突っ込んだら裂けるやろけど」
(……こんな所に、あんなの突っ込まれてたのか、俺…けど、興味が無いと言ったら嘘になる)
「………ムリヤリじゃなかったら、大丈夫なのか?」
「まぁ、お前の身体が今現在、平気なんやから大丈夫なんちゃう?」
「(本当に気持ちいいのか)試してみたいんだが、いいだろうか?」
男同士でエッチして、ましてや排泄器官に生殖器を突っ込まれて気持ちいいのかというのは、 ある意味怖いがある意味興味があるし、知りたいと思うのはちょっとした好奇心が疼くからだけだろうか? と間宮は思いつつ、けれども口にしてしまっていた。
「へ?つまり、俺とエッチしたいちゅうこと?」
こくこくと肯く間宮に、シゲは複雑そうな顔をした。
「別に俺はかめへん(願ったりかなったりや)けど、お前は後悔せぇへん言えるん? 前の(記憶のある)お前は、俺んこと好きや言うてくれてたし、俺もお前を好きやからそういうことしてたんや。 せやけど、今のお前はホンマに俺のこと好きなん?俺が入れようとして拒まへん自信あるん?」
シゲの最もな言い分に、間宮は俯いた。 興味本位でしてくれと言った自分に、 けれどシゲは真面目に今の自分のことを心配してくれていることに気恥ずかしくなった。
「バカなこと言ってるのは解っているし、前、恋人だったからってエッチしてくれなんて虫のいい話だとは解っている。 ただ、けど、なんていうか…その、興味本位だし実際お前のこと思い出したわけでもない。ホントに好きなのかも解らない。 けど、何かお前としたら思い出しそうな気がするんだ…」
「思い出す?」
「うん…上手く言えないけど…。その、一番俺にとって身近で、『いつもしていたこと』をすれば思い出すってのを医学書で読んだ。 俺にとってはお前とのことがきっと一番深いことだった気がするんだ…… 恋人ってだけで、俺にとっては物凄いことだと今の俺でも思うくらいだから」

これだけは、はっきりと言える。
今の記憶の無い自分にはとても不思議だった。
記憶のある自分に恋人が居たこと。
今の自分だったら絶対に大学生になったってプロのサッカー選手になってさえ、 恋人なんてきっと作らなかったと思う。
いや、作れなかったと思う。
けれど、記憶を失くす前の自分には、同性だったけれど、恋人が居た。
いや、同性にも関わらず、自分を好きで居てくれる人を捕まえていた。
病院から戻り携帯を初めて見た時は、チャラチャラとしたダラシナイ男だと思っていた。
でも、実際に会ったら、記憶のあった自分が彼のどこを好きになったのかなんとなく解ったような気がした。

「そこまで、ゆうんやったら…。後悔しても知らんで?」
「解ってる」
こくりと肯く間宮をシゲはゆっくりと押し倒した。


口唇が静に優しく重ねられた。
間宮は目を閉じて身体をかたくしていたが、やがて警戒を解くように力を抜いた。

初めての相手にするようにシゲは優しく肌に触れた。
ビクリと間宮の体がはねると、『大丈夫や心配ない』と耳元で優しく囁く。

こくりと肯くものの、間宮は逃げ出したい衝動に駆られていた。
自分から申し出たとはいえ、男に身体をまさぐられて楽しいわけが無い。
怖いし、気持ち悪い。口唇が触れ合った感触はそんなに嫌なものではなかったが、
うっすらと目を開けて視界に入ったその顔が紛れも無い男のものであることに嫌悪が拭えない。
その為か恐怖と嫌悪とに襲われ、抜いた筈の力がまた全身に入っていた。

胸元の飾りに触れられ、咄嗟にシゲの髪の毛を掴む。
『っ!…痛いやん。手はなしてぇな?』
何本か見事に染め抜かれたシゲの金髪が間宮の指の間に絡まって抜けていた。
「ご…ごめん…つい」

シゲの指は尚も自分の突起をもてあそび、いじり回している。

気持ち悪い…全身あわだつような嫌な感じが駆け巡る。

けれど、ここで拒否は出来ない。
解っていて頼んだのは自分だからだ。

そんなことを考えている時だった。
「んっ……」
思わず息を詰める。
自分でも解らない感覚が全身にめぐっていた。
甘くとろけるような、不思議な感覚。

「ココ、ええのん?」
シゲが少しだけ楽しそうに訊いてくる。
「…わからな、い」
でも、上手く言葉を発することが出来ないくらいには、自分は感じているようで。


う、そっ。
何だ、コレ?


シゲの手で弄られている部分から広がっていく甘い感覚。
どうしようも無くなってくる。
何も考えられないくらい甘く甘く、甘い…。

「サト、ウ…」
漸く搾り出した声は変なところで途切れて再生する。
「ん?なんや?」
不思議そうに一時手を休めて、間宮の顔をじっとみるシゲ。
「……なん、か、変、だ…」
間宮は顔を赤くして、言い辛そうに言った。
幾分、息も乱れている。
「へ?」
余計に不思議そうにシゲはそう発した。
「何か、変なんだ…甘い、感じがする」
「甘い?」
「甘いっていうか…コレって、気持ちいいってことなのか、な?」
あぁ、と合点がいったようにシゲは肯くと、
「多分、そうやで?元々、お前、感度がええし」
「感度?」
「あぁ、せや。直ぐ気持ちようなって、ええちゅうてたもんな。イクのも早かったんやで?」
「イクって…」
「せやから、オーガズムっちゅうん?そういうのに達するちゅうか?」
「……」
間宮は言葉を失った。
シゲは自分がしらない自分の身体の特性を全て余すことなく知っている様子だからだ。
本来ならもっと手早くいいところばかりを攻め立てるのも可能の筈であるが、
シゲは自分を気遣ってか急いてことを仕損じるようなことはしないようだ。


こいつ、俺の体のこと、熟知してやがる!!
けど、ありえねぇ、何で俺が知らない俺の体のことそんなに知っているんだ?!


思っていたことが顔に出ていたのか、
「当たり前やん?お前と何度したと思うてるん?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてシゲは楽しそうに言った。
「……何度って何度だよ?!」
「まぁ、数え切れないくらいや」
「…うそ、だろ?」


こいつ、もしかしなくても、見た目通りの奴なんじゃないのか?
さっき、一瞬でもいい奴だと思ったのは間違いだったんだ!
ただのスケベ野郎じゃねぇか!!
……とは言え、興味本位で頼んだのは俺…なんだよな……。
まぁ、もともとそういうこと自体、Hなことなんだし仕方ないけど…けど…


「何で俺、お前とそんなにしてたんだろうな。信じらんねぇ」
「そりゃ、『気持ちいいこと』やからなんちゃう?」
「……それだけで、俺がお前に抱かれていたなんて思えねぇよ」


だって、変なとこいっぱい触られたり、あんなものココにいれられたりとか…。


「まぁ、それだけちゃうやろけどな?」
「え?」
「お前が俺を好きで、俺がお前を好きだからや」
「……って、何を根拠にそんな自信たっぷりに言ってるんだよ」
「せやけど、そやろ?記憶の無いお前にゆうてもしゃあないことやとは思うんやけど、
好きやからお互いに繋がりたい思うんは自然なことなんちゃう?」
「お互いに繋がりたい?」

「せや。お互い繋がって、心も体も一つになりたい…そういうん今のお前にはわからへんやろけど」
少しだけ寂しそうに笑ってシゲはいった。


心も体も一つに?
佐藤と、体を繋いだら満たされるとでもいうのだろうか?
身体を繋ぐことで一つに?

好きって、そんなふうに思うことなのか?
相手と一つになりたいということ?

だから、するのか?


「それで、満たされるのか?一つになれるのか?お前は、本当に俺と一つになれたと思ったことはあるのか?
そんなの結局は幻想じゃねぇの?だって、相手の気持ちなんて本当に解るわけないのに!!」
「だからや」
「え?」
「せやから、俺は、お前は、一つになりたいと身体を繋げるんや。相手のホンマの気持ちやなんて所詮解るわけないやろ?
繋がることでお互いの気持ち確かめて、相手の気持ち少しでも繋ぎとめておきたくて……せやから、セックスする。
心やなんて、気持ちやなんて魂に惹かれたやなんて奇麗事ゆうても、結局入れものが無い状態で愛し合うやなんて不可能に近いやろ?
死んだ相手とずっと一緒やなんてムリやろ?それと同じや。
どんなに好きでも体があって、心がそれにあるゆうこと知らなお互いずっと好きなままでおられるわけないやろ。
せやけど、人間は万能やない。心があるから傷つくし、心があるから癒すこともできる。けど、そんなんどうだってええ。
なんぼ好きでも相手が自分のことどう思うてるやなんて、ホンマにわかるわけないやろ?体いつも繋いでないと不安やろ?」

「………」


あぁ、そうか。
『不安』なんだ。
ずっと、こいつも不安だったんだ。
自信過剰なんかじゃない。
寧ろ逆だ。

不安だったから、相手の気持ちがずっと自分に向いたままでいるかなんて解らないから。
だから、お互いに繋がっていた。
それこそ数を数えるのも煩わしくなるくらいに。

ずっと、一緒に在りたいと願うから。
ずっと、好きだと思っているから。

その人でなければと……。


『前の俺を、そんなに好きでいてくれて有難う。でも、ごめんな?俺には記憶がない…ごめん、な』


お前が好きだった俺はいない。
あるのは、ただ肉体だけ。

「ええって、気にせぇへん。お前が生きとってくれたんや。記憶がなかろうが関係ないやろ?」
おどけたようにシゲは笑っていった。
「でも、お前が好きだった俺はもういないだろ?ここにいる俺は…」
「大丈夫や。俺は記憶がのうなってもお前が好きやから」
そう言って、シゲは間宮を抱き締めた。
「記憶がのうなっても、お前はお前や。俺が好きな」
「佐藤…、俺でいいのか?記憶がなくて、俺はお前のこと好きかも解らないのに…」
「あぁ」
間宮は複雑な顔をした後、小さく息を吐くと、シゲに口づけた。
「マムシ?」
「続き、しようぜ?な?」
苦笑いしながら間宮がいうが、シゲは吃驚した表情のままかたまっていた。
「せやけど、お前、俺が体さわっとる間、めっちゃ嫌そうに顔しかめとったし、鳥肌立ててたやん?」
「あ、いや、その、だって…やっぱ、男に体触られたら気持ち悪いし…」
間宮は困ったようにそういった。
「お前、それやのに続きしようやなんてありえへんやろ?」
「俺はやっぱお前のこと思い出せないし、自分のことも解らない。
けど、お前が寂しそうだから、俺とすることで紛れるんなら、って思って…。
そりゃ、男にどうこうされるのは興味はあるけど不本意だし、やっぱお前に触れられて鳥肌立つし…でも、でもさ」
「もう、ええて」
ふうとため息を吐き出すと、シゲは困ったように笑いそう言った。
「ムリせえへんでええよ?」
「ム…ムリじゃねぇって!!だって、お前、泣いてるしさ…」
「へ?」
シゲは自分の頬を伝う雫を掬い取った。
指についたそれは、紛れもなく涙。

「だから、なぁ、佐藤?していいからさ、俺嫌がったりしねぇから、だから、泣かないで…」
今度は間宮からぎゅうっとシゲを抱き締める。
「マムシ…俺、何で泣いとるんやろ?なんで、止まらへんのや?」
シゲが顔を上げ見やると、間宮も泣きそうな顔で自分を抱き締めていた。
「お前が泣くと俺も悲しくなる…何でなのか解らないけど」


心が痛い。
何か、覚えている。
この痛みを。


「マムシ…」
涙が頬を伝って、畳の上にいくつもの染みを作る。
シゲは間宮の腕をやんわりと解いて、畳の上に押したおす。
さっきまでとは打って変わって、余裕もいたわりもなく、間宮の体に触れてくる。
シゲは器用に間宮の服を剥がすと、脱がすではなく本当に剥ぎ取るといった感じで取り去ると、 胸の突起にむしゃぶりつく。
「うっ…あっぁっ…ちょっ…と、ま、て」
性急に舌を這わし吸われたので、敏感な部分からありえない感覚が一ぺんに押し寄せる。
間宮の制止の言葉も聞かず、シゲはそのまま舌を這わせ段々と下腹部に降りていく。
「ダメ!…ダメ!そこは、ダメだっ!」
シゲは間宮のナニに舌を這わせた。そのまま口腔内に咥えこんでしまった。
「あっ、あっっ…ダメ、そんなとこ……」
口では嫌がっている間宮だったが、体の方はそうでも無いらしく、シゲのされるままに反応していた。
歯や舌で上手い具合に扱かれると、言いようのない快感が全身を占めていく。
鈴口を舌先で割れ入るように舐めまわされると、どうしようもなく射精感が強くなっていく。
一旦、口の中から解放されたかと思うと、奥まで咥えこまれる。
間宮は今まで体験したことのない未知の快感に、翻弄されるがままになっていた。
けれども、抗う術など間宮は持たない。
最初は自分からして欲しいといい、今度はしてもいいよとシゲに同情してしまったのだから。


痛みを伴わない快感だけならば、きっとすぐに折れてしまうのかもしれない。
けれども、そう簡単なことではなかった。
問題はシゲのモノが間宮の中に軽快に入って行かないからで。
「痛っ…も、ムリだって…」
「大丈夫やって」
シゲはそういうが、なかなか間宮の入口は開かない。
久し振りということもあるんだろうが、今の間宮にとっては初めてのことで、怖くてついきつく閉じてしまう。
その為、うまくシゲ自身が入れずにいた。
「久し振りやから、堅いだけやって」
「……久し振りって…俺にとっては初めてだぞ?」
「まぁ、今のお前にはそやろけどな?お前の体は久し振りっちゅう意味や」
半分ほどは間宮の中に入っているが、その後が中々入りきらない。
「…しゃあない、こっちを使えば……」
そういって、シゲは間宮のモノを握り込んだ。
「えっ?!ちょっと、おい…あっ…」
シゲが上下に扱くと、不意に間宮の体の力が抜けた。
「コレで入るやろ?」
シゲは前を弄りながら自身を間宮の中に進めた。
「んっ…あっあっ…」
「まだ痛い?」
「…だ、大丈夫…んっ…」
シゲが心配そうに訊くと、間宮は荒い息を吐きながらそういう。
「やっ…あっはぁっ」
「ん?なんや、めちゃめちゃ感じとるんちゃう?」
「ちがっ…」
思わず恥ずかしくて、間宮は違うと言ってしまうが、体の方は素直に反応していた。


ヤバイ…なんだ、コレ。
さっきは気持ち悪くて仕方なかったのに…。
何で、今はこんなに気持ちいいんだ?
男に突っ込まれて、気持ちいいなんて…変だ俺。


「あっ、佐藤…も、ムリっこんな…っ」
「大丈夫や」
そう言って、漸く全て飲み込んだ間宮の中を出入りする。
「はっ…あっ…ヤダ、そんな…」
「動かさなセックスできひんやろ?」
面白そうにシゲは言うが、間宮はそれどころではない。
体の中をかなりの体積が増えたり減ったりするのだから。
「そんなに…したら、俺、壊れる…」
と口では言いつつ、間宮はシゲの首にしがみつく。
反応的には、もっとして欲しいといった感じである。
「ほんなら、そうしよ」
激しく腰を動かし、外近く引き出し、また突き入れる。
「うっ…あっ…そんな、出し入れしたら…んっ」
「ん?」
「…よく、わかんないけど、も、もう…うっ」


何か、くる。
そう、何かが来る。
そんな感覚。


熔けそうなほどに熱く、蕩けそうなほどに甘い。
シゲの首にまわしていた手は、いつの間にかシゲの背中にツメをたてていた。
「っ…」
小さくシゲが息を詰めるのが解った。
気持ちよくて、甘くて、けれど多少の痛みを伴う行為。
「イきそうなん?」
「…はぁ…はぁ…わ、かんな、い…でも、もう、何か…く、る」
そんなつもりはなくても、つい痛みでシゲの背中にツメを立ててしまう。
無意識のうちに、間宮はシゲの名前を何度も繰り返し呼んでいた。
「トウ…サトウ…んっ」
不意に口唇をシゲに塞がれる。
「んっ……」
このまま時が止まればいいのに、と二人は祈りながら口付けを交わしていた。
「はっ はぁ。はぁはぁ……」
口唇が離れると、間宮は大きく息を吐き出した。


「マムシ…」
「サトウ…」

二人は見つめあいお互いの名前を呼び合う。
間宮はシゲの背中に腕を回した。
「あー、何かこういうの、スゲー久し振りだよなぁ」
いとおしそうに間宮はシゲの胸の辺りに顔を沿わせる。
「あぁ、せやな」
シゲも間宮の頭を包み込むように腕を回す。

「んー、何か変やな?」
思い至ったようにシゲは呟く。
「佐藤?どうしたんだ?」
「お前、俺のことどう思うてる?」
急に真面目な顔をしてシゲはそう問う。
「なんだよ?今更?好きに決まってるだろ?」
間宮は薄く笑うとそうきっぱりと言い切った。
「………お前、記憶が…戻ったん?」
「は?記憶?何のことだ?」
きょとんとした顔で間宮はシゲを不思議そうにみつめる。
「お前、記憶喪失やったんやで?」
「ハァ?なんだよそれ、何の冗談だ?俺、記憶喪失になった覚えないけど?
それよりさ、続きしよう?繋がったままで何もしないなんて拷問にちかいんだけど……」
それはどう見てもいつもの間宮だった。
「ま、ええわ。せやな、俺も動きたかったんや」
「今夜は寝かせないからな?」
「へ?お前、泊まって行くん?せやけど藤代もきてんで?」
「は?藤代?何で?」
不思議そうに言う間宮に、シゲは思った。
(もしかして、記憶喪失だった時の記憶がないんやろか?)
「せやから、お前が、記憶喪失やったから一緒についてきたんや」
「……なんだよ、それ。兎に角、俺は泊まっていくからな?それと今夜、頑張らないと許さないぞ?」
「まぁ、それは頑張らせて頂きます。…けど、藤代はどうすんねん?」
「藤代は勝手に帰らせればいいだろ?」
「ぷっ…まぁ、せやな」


「佐藤、俺、少しだけ覚えていることがあるんだ。
自分が記憶を失くしていたなんて自覚はないけど。

初めてお前の弱い部分、俺に見せてくれたこと。
それだけは、凄く覚えてる。

だから、今日は沢山、愛し合おうな?」

「あぁ、好きやでマムシ」
「俺もだ。サトウのこと大好きだからな?浮気したら許さないぞ?」
「するわけないやろ?」
「ホントに?」
「ホンマ、ホンマ」
「あー、ホントの時は一回しか言わないもんなんだぞ!」
「せぇへんって、堪忍してぇなぁ。もう…」

それでも幸せな二人だった。




所変わって、一方藤代はというと……。
ちゃっかりと食堂?となっている広間で、居候のみなさんと仲良く食卓にありついていたりする。
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※ナニは基本的には俗語で男性器のことです……。藤代くんの言っている意味あいは上の参照で。

2006.9.12 PM23:05〜2008.7.21了

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