蜜と密。



>「結人、これから一馬の家に来れない?」
受話器の向こうから英士の声。
「ごめん、今日はちょっと無理なんだ…野暮用でさ」
野暮用というのは本当は嘘。だって、今一緒に居る人と離れたくないんだ。
>「えっ?」
驚いたような英士の声。
「ホント、ごめん。明日じゃダメ?」
猫なで声で訊いてみる。
>「…明日じゃ意味無いんだけど…。でも、用があるなら仕方ないでしょ?」
溜息を吐いたような英士の声。でも、俺のことを優先してくれる。
「ワリィ。明日な?」
なるべくすまなそうな声色を使って明るめにそういう。
>「うん。じゃあ、明日ね?」
確認するような英士の口調は何時も通り。どうやら怒ってはいないらしい。
「あぁ、じゃあ」
ピッ。ボタンを押して電話を切った。

「…なぁ、今の電話。郭たちじゃないのか?いいのか、行かなくて?」
俺の部屋のベッドの上に座って、雑誌を見ていた間宮がそう言う。
「いいの。だって、折角俺の誕生日なんだし。好きな人と一緒に居たいじゃん?」
俺が笑ってそういうと、間宮の片方の眉がピクリと動いた。
「…好きな人って……郭や真田もそうだろう?それに、多分誕生日を祝う企画してたんじゃないのか?」
なんていうか、気を遣ってくれるのは有難いんだけど恋人と二人きりの……。
しかも、俺の誕生日だぞ?
なのに、恋人より友人取れってな雰囲気の淡白な間宮に、心の内で涙していつもの顔を装うって言う。
「ん…、多分そうだと思う。けどさ、折角二人っきりだし…」
俺の言葉を遮るようにというか被さる様に言う。
「けど、友達に誕生日祝って貰えるのは今のうちだぞ?高校だって別になるんじゃないのか?
たとえ三人同じ高校に入るとしてもだサッカーに関係なく学業優先で高校選ぶなら郭に合わせることになるだろ?
だったら一番お前三人の中で頭弱そうじゃん?入れるかも危ういんだし。そういうレベル高そうなとこって。
それこそ、プロになったら代表とかでしか会えないんだし…。オフシーズンだからってそうそう会えるとも限らねぇんだから」
「…あのなぁ、今からそんな凹むようなことゆうなよな…。つか、頭弱そうって…。そりゃ、英士や一馬と比べたらちょっとは悪いけど…。
レベル高そうな進学校いったってあんまり意味ないし?ていうかさ…お前は何処行くわけ?やっぱり上行くの?武蔵森の」
「あぁ。そのつもりだが?」
しれっと是非も無くあっさりさっぱりきっぱりと即答してくれる。泣けるよマジで。
つか、俺と同じとこ行きたいとか言ってくれない辺り、自分中心なのかな…間宮って。
「武蔵森ってさ、文武両道っていうじゃん?やっぱ勉強のレベル高いの?」
「高いというか、進むペースとかは早いと思うぞ。課題とかの量も多いし、内申点70以上維持とか色々…。
あと、スポーツ特待生以外の一般入試生は平均点80以上取らないと部活禁止とかあるし」
「へー?割と大変なんだ…」
「まぁな。俺はそんなに苦手科目は無いからいいんだが…毎度のこと藤代が…」
…勉強の話になるのは流れ的に奇怪しくはないぞ。
うん。
けどさ、何でそこで藤代の名前が出てくるんだ?
でも取り敢えず答えるけどさ。
「あ、テスト前に慌てるタイプ?」
「あぁ。普通に授業聞いていれば、そんなに元々頭は悪くないんだが。
大概居眠りしているからな…。だから、三上とかにバカ代と呼ばれるんだ…はぁ」
そこの溜息はなんだよ!ってか、三上ってあのタレメの去年の選抜落ちの人だろ?
俺としてはちょっと楽しくないんですけど。
「ふーん?なぁ、間宮は武蔵森以外のとこ受ける気はないの?」
話題を変えるべく、先刻つっ込みそこねたことを言ってみる。
「無いけど?というか、中学受験したからな、高校は進級テストだけだぞ?勿論、内容は一般受験生と変わらんが…」
全くそんなこと考えてなかったという顔であっさりとそう返してくれた。
凹むなぁ。はぁ。
けど、気を取りなおして言った。
「へー。エスカレーター式なんだ。ってか、進級テストって名の受験はあるんだ?」
「あぁ。ある程度の学力が無いと武蔵森にはいられないからな」
「……一緒のとこ行きたかったんだけど…無理か」
「無理だな。それに、外部の所属チームのみで部活しない場合は一般生扱いだからな。
というか、スポーツ特待だったら、部活入らないと無理だし…」
つい本音が出てしまったが、間宮は即答で無理だと返す。もう、いいけどさ…。別に。諦めましたから。
「つか、間宮が俺に合わせるという選択肢は無いわけ?」
「それは無いな…というか、勉強しないのに高校行く必要ないだろう?」
……あぁ、間宮は勉強も重視って訳か。
「Jリーグは一応プロ試験合格すれば入れるだろうし…。
が、それを有利にする為ってなら、サッカー強豪校に入ればいいんだろうけど…。
でも、部活ってしたことないからなぁ。先輩後輩の関係がちょっとな」
ホントいうとそんなことあまり気にしていないけど…。でも、少しだけ…本当に少しだけは気にしていたりもする。
「ふーん。けど、人間関係得意そうだけどな、お前ってさ。他の二人に比べるとさ、人に嫌われることも無くなんつか…」
「あぁ、うんまぁ。それは慣れっていうか…。けど、でも上辺だけなんだよ俺の場合は。結局。
でも、英士とか一馬はさ本気でしか付き合わないから…。だから、ぶつかるっていうか嫌われたり敵も作ったりするけど。
そういうの羨ましいし。俺には出来ないから。英士と一馬にだけなんだよな。本気で付き合える友達って」
「そうだろうな。それは見てて思ったことあるぞ。幾ら藤代とか桜庭とか上原とかさ、
割と仲よさそうにしてても、なんかあの二人は特別な感じする」
「そうかも。俺にとっては特別な存在だから。どっちも絶対一生つるんでたい友達っていうか親友っていうか。
……でも、俺はさ、お前ともずっと一緒に居たいって思っているから」
「………そういうセリフ、よく面と向かって真顔で言えるなお前」
しらっとした物言いで間宮が俺を見て言う。
「そりゃあ、好きだから。こういうときじゃないと、言えないじゃん?」

逡巡したあと間宮がぽつりとそういった。
「………まぁ、そうかもな」
「で、間宮」
「ん?」
「折角、二人っきりなんだし、しよう?」
「…何を?」
あっさりとそう切り返された。
「いや、アレだよ。アレ」
「アレじゃわからんだろう?」
マジで真顔で問い返さないでくれ…ってか、ホントに解ってないのか?
「だから、セックスしようぜ」
「………いや、マジでムリだから」
俺の言葉に、多少眉根を寄せてそういう。
「何で?もう付き合って三ヶ月は経つじゃん。それに今日俺の誕生日だし」
「……えっと、あのさ、俺そういうのムリなんだ。別に、お前としたくないとかいうわけじゃないんだが。
だから、えっと…手伝うとかだけじゃダメか?その…手とか口とかで………」
尚も言い募ると、間宮は困ったようにそういった。
割と顔が赤い。
多少はってか、
やっぱり俺のことは好きでいてくれていると解釈していいんだよな?
えっと。
手伝う?ってことは、その、俺のイクのをってことか?
手とか口とかで?でも、なんで?
フェラとかのが普通は嫌なんじゃねぇの?
初めてなんだし。
つか、俺とするの嫌じゃないけど、ムリってどういうこと?
「…なぁ、その『ムリ』ってどういうこと?」
俺の問いに、一番触れられたくない所を触れられたという顔をして、間宮が目を逸らしつつ言う。
「…恐いんだ……その、後ろに…なんていうか…」
「間宮?」
なんというか、要領を得ていない感じで、でもちょっとだけ怯えが見え隠れしている。
「恐いって…?」
「だから、後ろに、男性器っていうか…それ突っ込まれると思うと、すげぇ恐いんだ」
間宮は何気に俺の股間部分を指差していう。
「………えっと、そんなにむちゃくちゃ俺のでかいって訳でもないし、
無理矢理突っ込むって訳でもないし…ちゃんと時間かけて慣らしてから…」
「いや、それは、解っているんだが…けど…ダメなんだ。恐いんだ…」
だから、なんでそんなに恐がるわけ?
いやまぁ確かに男同士だから、その俺が下でもいい訳だけどさ。
でも、やっぱ俺としては抱きたい訳で。
そりゃまぁ、後ろに入れられると思うと恐いのは解るんだ。
けど、そこまで怯えることなのか?
それに、嫌じゃないっていったのに恐いのか?


軽い沈黙が落ちて、間宮が重い口を開いた。
「俺…レイプされたことあるんだ。そん時さ、無理矢理慣らしもせずに突っ込まれて。
中で出されて…。それから、すげぇ恐くて……。
だから本当はお前が俺としたいみたいなの気付いてたけど、敢えて考えないようにしてたし。
先刻も咄嗟のことでホント意味解らなくて。
でも、意味が解って、お前が俺のこと抱きたいって思ってるって直接聞いて嬉しいかった。
嬉しかったけど、同時にあの時のこと思い出して、恐くなった。

今、すげぇ震えてんの解る?」
悔しそうに笑って間宮がそういう。

見ると本当に可哀想なくらい膝が笑って、肩も小刻みに震えている。

「……ごめん。そんなこと、知らなくて…」
そんなことした奴が、凄く憎いと思った。
でも、同時にショックでもあった。
多分きっと何倍も間宮の方がショックで。
俺にこのこと言うのも、正直凄く勇気がいったんだと思う。

けど、解っているのに俺の口から出たのは、そんな陳腐な言葉で。

「本当は言いたくなかったんだ。でも、言わないとお前納得しなさそうだったし。
………だけどさ、本当はお前にだけは言いたくなかったんだ。
お前にだけは、出来ればずっと隠しておきたかったんだ…………」

「え?」
俺にだけ?




「だって……言ったら、お前、もう、俺のこと好きじゃなくなるかも知れないだろ?」


間宮は震えながらも、でもまっすぐと俺の目を見て言った。
薄っすらと涙が浮かんでいる。




うそ。

そんなの、有り得ないって。
だって、いつも淡白で。
一喜一憂しているのはいつだって俺の方で。
俺ばかりが好きだと言っていて。
間宮はいつだって、『うん』とか『あぁ』とかしか言わないし。
キスしたって反応薄いし。
つかキスする時は全然何も言わなかった。
嫌だとも嬉しいとも。
告白したのだって俺の方で。
間宮の返事は結構大柄な態度で『別にいいけど』という悲しいくらい色気の無い言葉で。
だから、いつだって本当に俺のこと好きなのか解らなかった。
実は意外とこれでも、凄く不安だった。
だから、いつも好きだと言っていた。
抱き締めても嫌だとは言わなかった。
多少身動ぎしたけど、でも直ぐに静に俺の腕の中に納まってくれて。
キスしてもいつも反応薄いけど、ただ舌入れた時はちゃんと応じてくれた。
でも、それでも、やっぱり間宮が俺のことどれくらい好きなのか解らなくて。
だから、少しでも早く繋がって、俺のものにしておきたかった。
好きな子を抱きたいって思うのは男の性だろ?
まぁ、間宮も男だけどさ。



でも、信じられないくらい嬉しい言葉を俺は今初めて間宮の口から聞いた。
それって、物凄い口説き文句だって解って言っている?
マジで襲っちゃいたいくらい、可愛いセリフ。


「あのさ、間宮」

「?」

「今のセリフ、マジでヤバイんだけど…」

「?」

「間宮、そんなに俺のこと好き?」

「!!」
俺のセリフに自分が何を言ったのか漸く理解して、みるみる真っ赤になっていく。





「悔しいけど、凄く好き……」
そう言って、間宮の方からキスしてくれた。


いや、マジで襲っちゃうから………。
ヤバイって。
そろそろ理性限界なんですけど。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
あとがきというかお詫び?
すみません、多分私だけが楽しい内容になっているのではないでしょうか?
つか私の誕生日にアップになりそうですごめんなさい。
内容というより、間宮の乙女度に突っ込みが来そうな話でごめんなさい。
間宮も大変な目に毎回遭っていてごめんなさい。

間宮のレイプ事件はオフでもオンでも何種類か書いていますが、大概犯人はシゲです。両想いでもそうでなくても。
あと、間宮が一年の時の三年の先輩たちとか。小学の時の同級とか。しかも輪姦ばかり…汗。
マジでごめんなさい。レイプものって本当は物凄く嫌いなジャンルなんですが……。
でもなんつか、精神的に陰険ないじめっていうと性的虐待かなと思うわけです。
バ○ナフ○ィ○シュ読んでいてそう思った記憶があります。
間宮んって精神的に強く見られがちなんですが、表情に出ないだけなんだと思うわけです。
というか出せないというか。あと、強く見られがちだから、何気に気にしていない風を装ったりとか。
だから、暴力的な殴る蹴るとかの苛め+性的虐待のコンボでオンには載っけていない話も沢山ありますが。
先輩とか同級とかに…の時はシゲ相手にHができない話が殆どですが。
シゲが犯人の時は、ギャグものが割りと多いんですが、
これはシゲが間宮好き過ぎて15歳の激情が!みたいなコンセプト?で書いたシゲ犯人の結果シゲマミになるかな?
どうかな?というやつのイメージで書いています。
されたあとおもいっきし、シゲの頬をぐーで殴っていますが。
シゲも避けずに食らっています。一応悪いとは思っていたので、あえて殴られました。
でも、やっぱり恐怖は植え付けられちゃった訳です。
本当はシゲの話もする予定が、学校の話が長引いて入りませんでした。
2006/06/06 AM0:??〜 2006.6.8 AM2:49

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