第3章 Find one's grave in…


「よ・・・よぉ・・・・」
びくりと仁勲がその声に振り返る。
「炯・・・か?」
薄暗闇の中、仁勲は目を凝らしながら、相手の姿を凝視する。
「ああ・・・仁勲だよな?」
「そうだ・・・どうしたんだ?」
不信に思った仁勲がそういうと、
「俺・・・どうしよう・・・」
「え?」
「俺・・・・人を・・・殺し・・・・っ・・・・」
声が途切れ途切れに成って行く。
「炯!?」
訝しんで仁勲が名を呼ぶ。
「あ゛ぁ゛・・・・・」
尹の喘ぐような・・・すでに言葉を形成していない声がする。
「炯ーーーーんっっ!!」
仁勲が叫んだ時だった。尹は前のめりに倒れた。
背中に羽が生えたように、斧が深々と刺さっていた。
ぐいっ。それを引き抜いたのは、朴京三だった。
「炯?」
仁勲は、倒れて動かなくなった尹を見下ろし、呆然と呟いた。
「・・・・・えっと、崔とか言ったけ?悪いけど、あんたにも死んでもらうぜ!」
「何!?」
(ヤバ・・イ、こいつ・・・)
尹の血で濡れた斧を振り上げる。
「やめっ・・・」
言葉を言い終わらぬうちに、仁勲の目の前は、自らの血で真っ赤に染まる。
両の腕で、とっさに顔をかばったため、両腕からはおびただしい量の血が、
掌にまで流れてきていた。
そして、額から目許にかけて自分の血を浴びていた。
仁勲は痛みを堪えながら、慌てて民家を後にする。
朴は追って来ないようだった。
いや、正確には追ってこないように仁勲が感じただけであった。
地図を見ながら禁止エリアを回避してF−9エリアへと急ぐ。
しかし、後ろから誰かが追ってきていそうな恐怖と焦燥感が、より仁勲の心を急かせていた。
転校生とかつてのコーチが呼んでいた・・・いや、もはやこの狂ったゲームの教官だとかいう李晋遠は言っていた。
「・・・・・っくしょ・・・・・ぉ・・・・・!!」
仁勲は地面を叩いた。
さっき斬られたところからは尚も血が流れ続け、腕の感覚は麻痺していた。
地面を叩いても、その衝撃が体に響くだけで、既に痛みすら感じなくなっていた。
「どうすればいいんだ?潤慶・・・道漢・・・」
仁勲は天を仰いだ。
綺麗な満月がぽっかりと浮かぶばかりで、そこには何の啓示も与えてはくれない。
腕の感覚がまるでない。
全身の血の気がどんどん引いていく感じで、思考もまるでまとまらない。
近くの木に背中をもたれながら、意識が段々薄れていく感じだった。
先程だいぶ走った。
血が余計に流れてしまったのだった。
仁勲は静かに目を閉じた。
もう、ダメかも知れない。
そんな言葉が頭をもたげる。
自嘲気味な薄笑いが、仁勲の顔に浮かぶ。
「最後に・・・お前達に逢えないのが残念だな・・・・」
目を閉じたまま、そう呟く仁勲の脳裏には、幼い頃の潤慶、道漢、そして自分の三人の姿が浮かんでいた。
・・・こんなときでも・・・・自分は、サッカーを思うのか・・・・・
そう思うと、叶えたかった夢が儚く散って行く切なさに、涙が溢れてくるような気がした。
・・・もう・・・・ダメなんだろうな・・・・・俺は・・・・死ぬんだ・・・もう・・・じき・・・・
仁勲は自分の死期があと数分後なのだと感じていた。
しかし、その予想は裏切られ、目を閉じたままの仁勲の前に立った朴京三は
斧をおもいっきり仁勲の頭上へと振り下ろした。
今度こそ、仁勲の命の灯火は消えた。
予想よりも4・5分早い最期であった。
結局二人には再会できぬまま、仁勲は朴京三の手により惨殺されたのである。
[残り12人]

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