『人知れず向かいあう』

第十三話 言葉じゃ見えない

『好きだ』とそう言われても、お前のホントの心見えてこないんだ。
抱き締めてキスしてSEXして?そしたら信じてやるから。
なぁ、鳴海、お前、俺の何処が好きなの?
まだ死んでいないよな?俺より先に死んだら許さないから。
お前のこと一生「好き」なんて言ってやらないから。

まだ死にたくなかった。鳴海ともう一度逢うまで。
だから殺したんだ。死にたくなかった。ただ、それだけ。
虫けらを潰して殺すみたいにアッという間で。
簡単で。心なんて痛まなくて。
だって、ムカツいたから。
兄弟のくせにイチャついていた。
はっきり言ってキショイ。
兄弟だから番号も近くて、そして信頼しあっている。
俺が居ることにも気付かずにキスしていた。
こんな状況下で。だから余計にムカツイタんだ。
ホントは悔しかっただけかもしれない。
サイレンサー付きのトカレフ。兄の方を先に撃ち殺して。
おびえた色を見せる弟を見て少しだけ悦に入って。
俺は二人を殺した。
ただ「悔しかった」だって俺は鳴海に、
まだキスすらされたことなくて。
あいつ手早い癖に、俺にはまだ指一本触れてこないから。
「鳴海の馬鹿」
呟いた声は思っていたより小さくて、青い空に溶けた。

二日目の午後十二時に四度目の放送があった。
鳴海の名は呼ばれなくて、ほっとしたのと同時に力が抜けた。
残っているのは俺を含めあと25人…も居るんだ。
「鳴海の馬鹿」
もう一度そう呟き、俺は歩き出した。
大分禁止エリアがが増えた為、
回り道などしなければならない所が多くなってしまった。
俺の殺した二人、双子の様に似ていた。
でも双子ではないらしい。



「叔父さん、これからどうする?」
「……どうしようか。はっきり言って俺ら選抜の奴のこと知らないだろ?
だから仲間になるのは難しいんだよな…」
「そうだね…」
「…けどさ、取り敢えず休めるとこ探そうぜ。
夜寝れてないだろ?」
「うん」
二人が歩き始めた時だった、猫目の少年と出くわしてしまう。
「……仲、良さそうだね、あんたら」
設楽はそういうと、二人にトカレフを構える。
「なっ…」
「叔父さん…」
「へぇ、命掛かってんのに、それでもそいつ庇うんだ。そんなに大事?」
「こいつは俺の弟みたいなもんだ。誰にも傷つけさせねぇ!」
「叔父さん!」
「…ふーん、粋がっちゃって。けど、ムリだよ。お前、此処で死ぬんだから」
そういって設楽は、トカレフの引き金を引く。
「叔父さん!」
倒れる貴也を良治は受け止める。
「今度は、お前の番だよ?」
設楽は不敵に笑う。
貴也はうちどころが悪かったのか、一発即死でピクリとも動かない。
良治は『叔父さん!叔父さん!』と泣きながら呼びかけるが、
彼が目を開ける事は無かった。
「死ね!」
貴也をぎゅっと抱き締めきつく目を閉じる。
パン!と銃の音が森の中に響くこともなく、良治はあっさりと命を落とす。

だって、痛くなかったんだ。鳴海、お前じゃないなら。何人殺しても。
【残り23人】

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