『人知れず向かいあう』

第十四話 ただ瞬間の喜びを求めて



「空、ホントにこっちで道あっとるん?」
「あってるやろ?なん、自分が方向音痴やからって、俺まで疑うんよせよ」
「ごめん。や、けどさ、自分も偶に間違えたりするやんか?
だけん、聞いただけやけん気にせんといて。空ってホント、細かいよな」
「細かくて悪かったな…。そういう剣だって、変なとこで細かいじゃん」
「そうや?」
「そうだよ。俺が自転車乗るん安びょう無いってゆうて、自転車貸してくれんかったやん。
そりゃスピード出しすぎて車とぶつかったことあるけどさ…」
「ま、昔のことはいいじゃん。それより空、お前の武器ってホントにこれだけ?」
そういって、剣はカバンから落ちかかっている造花を指す。
「うん。ってこれ武器じゃないけどさ。つかこんなんでどうやって人殺せって感じ」
「まぁな。俺はこれだけど…」
「剣に剣ってうけるんだけど…」
「それいうなっての…。なんなら刀の錆にしてやろうか?」
「遠慮します…」
そう言って身を竦める空。ちょっとだけ青ざめている。
「冗談やって…。ホントに殺す気あったら、逢った瞬間やってるし…」
「…お前な…。にしても、俺らって結構暢気だよな…殺し合いしてるってのに
冗談言い合ってさ…」
うつむく空に剣が言う。
「仕方ないやん?俺らまだ人死んだん、ホントに見てないし。
それに俺ら以外の奴に逢ってないやん」
「うん…」
その時、ガサガサと音がする。
ばっとその場に現れたのは、例えるなら大型犬の風体の男。
しかし、二人にはその人物に見覚えが合った。
「「…昭栄…?」」『うわぁ…めっちゃたまがった…』
空と剣の声がハモル。
「あれ…もしかせんでも、空と剣なん?」
こちらも一応驚いたようにいう昭栄。
「ああ」「そうだ」とそれぞれ言う。
「それはそうと、カズさん見らんやった?」
「へ?カズ?…あ、あの細まい釣り目のGKの?」
「細まいって…剣、カズさんに跳び蹴り食らうよ…」
よこで突っ込みを入れる空を他所に、剣はいけしゃあしゃあという。
「いいやん。ここにはおらんし…。そうだ、ちまいとかゆうてたら出てくるんじゃねぇ?」
「…けど、お前ら殺されるぜ?」
「……お前ら、カズさんのことどげん思うとぉと?」
「「…どうって…小っさいGKの人。結構自己中な感じで怒りんぼの怪力男」」
二人はハモって言う。
「…あのな…」
流石の昭栄も飽きれた様に言う。
「あ、けどな、凄い人やとは思っとぉよ。でも、なんかちょっと俺は苦手」
「俺も…。同じ学校やなくて良かった気ぃしてるし。
お前みたいにどつかれてたら、体もたねぇもん」
「そうそう」
「…カズさんのあれは愛の鞭っちゃけん、そげん言い方は無いやん」
と少々憤慨気味に昭栄がいう。
「ごめん、ごめん。悪気は無いっちゃん」
「それより、カズさん探さんでいいとぉ?」

「あ、そうやった…。じゃあな、俺もう行くけん」
「ああ。禁止エリアとかひっかかんなよ」
「おう」
そういって昭栄はまた去っていた。
「…はぁ…。あれが昭栄じゃなかったらヤバかったよな…」
「ああ。まともな武器は俺の剣くらいだしな…」
二人は昭栄が居なくなると盛大にため息を吐いた。
その時はまたガサガサと葉のなる音がした。
現れたのは、目の色が微妙にいつもと違う城光だった。
二人はピンと来た。これは逃げなければヤバイと。
城光が抜き身の刀を振りかぶってくる。
危ないと空が思った瞬間、
剣が自分の支給武器であるこちらも同じく刀を抜いて応酬した。
「…城光さん、何で?」
慌てて城光の刀を慌てて受け止めた剣はそう言う。
「…俺は死にたくないけんね。あんなふうに死ぬんは嫌なんよ。
…カズみたいに、あんな死に方俺にはようできんから」
「城光さん、カズさんが死んだって…嘘でしょう?
たった今昭栄に逢うたとですよ?」
『昭栄』という単語に少しだけ反応するが、
重なり合った刃がキィィンという音を立てて離れまたカチ合う。
力と力の応酬。ただお互いに一歩も引かない。
「カズは死んだ。他の奴を庇って…金髪の奴にやられたったい」
「「金髪…?」」
二人の頭の中に、二人の金髪の人物が浮かぶが、そのどちらもが
陽気そうな関西人でこれに乗りそうもない人物だった。
「…生きて、帰る…」そう呟く城光に剣ははっとなる。

どうしようもない力技に、細身な剣は押され気味で、受け止めるだけで精一杯だった。
空にはどうすることも出来ず、見守っていることしか出来なかった。
「空!」
「なんだよ?」焦った感じで空が言う。
「逃げろ!お前だけでも!」
「できないよ!そんなの!」
「いいから!空!」
叫ぶ剣の声に、けれども空は逃げようとしない。
「剣が死ぬなら、俺も一緒に死ぬから…。
そうじゃなきゃ、不公平だろ?」
「空!?何いって…」
一瞬の隙に、城光の刀が剣の脇腹を切り裂く。
「剣!!!」
叫んだ空の耳に届いてきた銃声。パンパン。と二発続けて。
見ると目の前の二人が崩折れる。
「うそ…剣?城光さん?」
殺し合いをしていたはずの二人が突然目の前で倒れた。
駆け寄る空の目の前に金髪の男が立っていて、こう告げた。
「残念やったな。けど安心し、お前も直ぐ同しところ逝かせたるさかい…」
そう告げたこの金髪の男がどうしようもなく恐くて。
けれど一瞬だった。空がその恐怖を感じたのは。
折り重なった三つの死体を冷ややかな目でみてシゲはくるりと踵を返す。

せやな、マムシ。
せやけどすまんな約束守れそうに無いわ。
俺、もう血に汚すぎてん。

【残り19人】

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