『人知れず向かいあう』

第十五話 気味の笑顔が心の支えになる



彼──…大塚兼太郎は途方も無く森の中を彷徨っていた。
いよいよもって禁止エリアの増えたこの辺は、
解り辛い上におどろおどろしくて、一人で彷徨うには恐い場所でもある。
仲間だった人間の名前が呼ばれ、残っているのは殆ど顔見知り程度の人間。
出逢ったら敵と思わなければいけないにも拘らず、彼の武器はサイコロだった。
何の役にもたちはしないこの殺し合いの場では。
ガサッ…ガサッガサッガサ…。
「……」
びくりと肩を驚かせて、大塚が振り返る。
落葉樹を突っ切って出てきたのは、関西選抜の吉田光徳だった。
「ぷっはっ…。なんや、けったいな。…ホンマ、シンドイわ…」
「…!?」
吃驚して声も出ずに居る大塚を見てノリックは言う。
「自分、これ乗っとるん?」
大塚は辛うじて「違う」とだけ呟く。
「そっか。ほんなら安心やわ…。自分一人なん?やったら、
僕と行動せぇへん?一人で心細かってんやんか」
「いいけど…。あんた、武器は?」
了承して置きながらも用心深くノリックの武器は何か問う。
「僕はこれや。毒薬。せやけど、直接殺せるもんやないし、
勿論自分の食べ物の中に入れるつもりもあらへんから安心し。
…せや、自分武器は?」
「…これ」
掌に乗せたサイコロを見せるとノリックは笑い出した。
「…あ、堪忍。僕、笑いくせ酷いねん」
目の端に溜まった涙を拭いながらノリックが言う。
「…いいけど、別に」
憮然とした表情で大塚が言うと、
「ホンマ、すまんって。堪忍。そう、気分悪うせんと、許したってや」
堪忍なと繰り返す吉田に、殺伐とした空気を相殺されてしまう。
「別にもう気にしてないから」
「ほっ。ほんなら良かったわ」
二人で森の中を進むと、ピリピリとした雰囲気が伝わってくる。
ガサッ。
落葉樹を掻き分けて出た先に居たのは、
ノリックの見知った金髪と横たえられた誰かの遺体。
「ふ…藤村やん!無事やったん?」
と話し掛けるノリックに、異変をいち早く察知した大塚が止める。
「よせ、そいつを良く見ろ!」
「へ?」
大塚に肩を掴まれ、引き戻されたノリックは、目をぱちくりしながら、
呆気に取られた顔をする。
振り返ったシゲのカッターシャツは、血で真っ黒に染まっていた。
「ノリック…それから…。ま、ええわ。どうせ、お前ら死んでまうからなぁ」
ニヤリと歪んだ笑みを口元にだけ浮かべる。
「どういう意味やねん?藤村?」
「こういう意味や」
シゲは拳銃の銃口をノリックに向けた。
「!!?」
「ほなな、ノリック。あっちでまた逢おうや」
「ふじむら!」
ノリックの悲痛な叫びは聞こえなかったかのように、シゲはトリガーを引いた。
大塚は慌てて走り出した。だが、シゲに足を撃ち抜かれる。
「うぁっっ!!」
大塚は撃たれた方の右足を押さえて蹲った。
「これで、終いや…」
そう見下してくるシゲを大塚は心底恐いと思った。
自分に向いている銃口。
それは先刻自分のチームメイトだった吉田を殺した時に使ったものだった。
「何で?…お前、何であいつを殺して…」
大塚は、シゲを見上げやっとそう言った。
「…そんなん、決まっとるやろ?此処に居る奴全部殺して、俺も逝くんや。
あいつの所に。あいつや無いなら、痛ないねん。此処が痛くはないんや」
シゲは心臓を指してそう言った。
('あいつや無いなら痛ないねん'そうか、こいつ…好きな奴誰かに殺されたのか…。
だから、乗ったのか?…)
「……痛く無いから、痛いんだろう?」
「!」
一瞬驚いた顔をしたシゲは、大塚の左足を撃つ。
「うぁっっ!!」
「…そ、…そんなん」
パンパンパンパンパン…。
大塚が死んだ後も、弾が切れるまで引き金を引いていた。
気付いたら、死んでいた。
(痛くは無い。誰を殺しても。だから、苦しい…。だから、痛いやなんて…。
そんなん、何でお前に解るんや?奇怪しいやろ?)
「そんなん、……何で解んねん。お前に…」
そう語散、シゲはその場を後にした。
【残り17人】

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