『人知れず向かいあう』 第三話 勇気を下さい 「はぁ〜」 溜息を吐くこと本日5回目。城野は自分の支給武器に目をやると、6度目の溜息を吐きかけたが止める。 ディバッグを開けたのはいいが、直に目に飛び込んできたのはビール瓶3本だった。勿論中身は空。 良く漫才などでビール瓶で頭を殴る所をTVで見たことはあるが、その時死んだりなどしていなかった。 無残にもビール瓶は粉々に砕け散っていたが。つまり、人を殺すための武器としては役不足である。 身を守る分には良いかもしれないが。 ただ、相手がもし拳銃なんてものを持っていたら太刀打ちなど絶対に不可能だが。 がさっ。草音がする。勿論、自分以外の。 びくっ。城野は恐る恐るといった風体で、座っていた丸太から腰を上げると、そちらに近づいた。 そうっと覗いて見る。そこに居たのは、自分の叔父である鮫島貴也だった。 「叔父さん!」 城野は思わずそこから飛び出していた。 そう、鮫島が今どんな状況にいるのかも知らないまま。 「バカ!良治出てくるな!!」 ぎくっ。 誰かは解らないが、とてつもなく長身のにこにこ顔の男が、 貴也に銃───S&Wとかいうらしい───を向けたままこちらを見てくる。 「……へぇ、お知り合いですか?」 須釜はゆっくりとそう呟く。 そして貴也が手にしているのはどう見てもゴルフに使うパターとかいうものだった。 「……叔父さん…」 「…てめぇ、良治には絶対手だすなよ!」 情けないがそれしかないため、パターを振り上げて威嚇する。 最も脅しにすら成りえない武器であったが。 「出しませんよ。素直に教えてくれさえすれば。……圭介くん…いえ、山口くんを知りませんか?」 銃を突きつけているにしては不似合いな笑顔で───まるで殺気も邪気もない───彼らにそう訊く。 「……知らねぇ。大体、俺らは選抜には関係有る奴らの殆どを知らないんだ!例え見かけてたとしても知るかよ!」 「そう、ですか…」 目に見えてがっかりした様子の須釜に、城野は言う。 「その山口?って奴?かは知らないけれど、馬顔の奴と一緒に居たのは見たよ? 黒髪のちょっと可愛い系入った男前な子…だろ?」 「それです!多分小田くんと圭介くんです。何処で見ました?」 「ここに来る十分前くらいに西の民家付近に居たような?」 「西の民家ですね?有難う。行ってみます。銃を向けてすみませんでした」 そういうと、背の高い男は西の方へと消えて行った。 須釜が完全に居なくなると、二人はへなへなと地面に膝をついた。 「はぁ〜寿命が十年縮んだ……」 「バーカ。それはこっちのセリフだっての。お前が出てくるから、冷や汗ものだったじゃねぇか」 「だってさ……この中で信用できる人なんて叔父さんくらいだし。 こんな状況下でさ、ホント叔父さん居なかったら、俺今ごろ泣きだしてた」 そういって鮫島の背中に抱きつく。同い年の叔父と甥。 良治の母親の実の弟である鮫島貴也とは、生まれた時から一緒でそれこそ兄弟のように育った。 生まれた日は1日違いで、貴也の方が先に生まれた。 貴也と良治の母親の母親が高齢だった為、良治の母親から ───貴也にとっては姉なのだが───に育てられた。 兄弟の居ない良治にとって、貴也は同い年の叔父であり兄であった。 ほんの1日違いだが、良治は兄として慕っていたし、貴也も弟として可愛がっていた。 自分の本当の兄と弟と言っても過言ではないほど、二人は一緒に時を刻んできた。 選抜の者たちに知り合いの無い二人にとって、このプログラムの中で唯一の知り合いで信頼の置けるものは互いを置いて他に無くて。 だからこそ、二人にとって互いが裏切るなどということは、絶対にあり得ないことの一つだった。 兄ではないと知ってはいるけれども、兄だと信じて疑わない心がある。 戸籍上は叔父でも、良治にとってはたった一人の頼れる兄に違いは無かった。 「……はぁ。けど、叔父さんも外れだったんだ……。俺もだよ」 「へぇ。そりゃ良かった」 「なんで?」 「乗りたくなっても乗れないだろ?」 「ああ……って、俺絶対乗らないよ?叔父さんが乗るなら話は別だけどね」 「……良治、お前……」 「……俺、叔父さんのことホントに兄貴だと思ってるから。だから…」 くしゃっ。良治の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でて、 「ああ、俺もホントの弟だと思ってるよ」 そして最高の笑顔を見せた。 「木田さん…」 「ん?」 あまりにも落胆した声でそう問いかける。 「木田さんの支給武器は何でした?」 申し訳無さそうにそういうと、 「俺はこれ……」 そういってすっと差し出されたのは、細工が綺麗な可愛らしい柘植の櫛。 はっきり言って、それは髪をとくためのものであって、殺しに使える代物ではない。 外れ武器だった訳である。 「随分可愛らしいものだったんですね」 「ああ。…風祭のは重そうだな」 「ええ。鈍器に使えなくも無いですけれど、でも人を殺すつもりはないです」 「そうだな。外れ武器で良かったのかも知れないな」 「はい」 小岩鉄平は肩で息をしていた。はぁはぁはぁ…… 誰も居なくなった民家の中で、彼の立てる呼吸の音だけがやけに大きく響いていた。 真っ赤に染まった己が両手。握りしめていたサバイバルナイフの柄が、手に食い込むほど きつく握りしめていたのか、その痛みで小岩は現実に引き戻された。 胸部…それも心臓付近を紅にして倒れているのは、選抜のキャプテンで武蔵森でもキャプテンを 努めている渋沢だった。何度も何度もナイフで刺された胸部からはおびただしい量の血液が流れだしていた。 渋沢の何気ない一言、それも希望的観念により発せられた小岩を気遣った言葉が、だが逆に小岩の我を 忘れさせる結果に至った。逆上し、恐怖に怯えていた小岩にとってそのセリフは禁句であった。 カラン。 ナイフが床に落ちる。小岩はガタガタと震えだし、渋沢の死体の前で一人泣いていた。 自分のしたこと…動かなくなった心優しき人。 「何で……俺は…」 自分の手を真っ赤に染めている彼の血。まだちっとも乾きそうに無い。 床に落ちたサバイバルナイフを持つと、それ以外に手荷物も持たず、その場からふらふらと歩き出した。 【残り41人】 ───────────────────────────────────── あとがき はい、三話目でやっと死亡者一名(汗) しかも何か閑散としている…。 私の書く話って殆ど感覚で書いてる為に背景描写手薄です(苦笑) 想像しながら読んで下さい(勝手な) 渋沢さんって一番書きにくくて……最後まで生きていても一言くらいしかセリフ無いこと多いし。 まぁ、小岩も喋ってないけどな。 今回オリキャラでばってます。 城野(キノ)良治(ヨシハル)くんと鮫島(サメジマ)貴也(タカヤ)くんはオリキャラです。 サポブにて判明したキャラでは無いのであしからず。 今回、当り武器が少ない所為で話が進みません。 もっと当り武器が多いと恐怖なんですが。 でも強いキャラは今回皆外れ武器(汗)(スガさんとタッキーは特例) |