『人知れず向かいあう』

第五話 いつまで待てばいいですか?




何時まで待てば、貴方は僕に気付いてくれますか?





探してたんだ。ずっと。でも、見つけた君は、既に冷たくなっていた。
「どうして?誰がこんなこと……」
首に付けられた痛々しい跡。
自分の愛しい人。誰かに殺された。
憎しみは募って、愛しさ全てが彼を殺した犯人への殺意へと変わる。
「一馬?」
うつむいてしまった自分のおさな馴染みで自分の想い人にそっと声をかける。
でもそれを隠したまま、偽りの自分で彼の親友面をしている自分を呪いながら、
それでも一馬の想いを知っている英士は自分の想いを伝えたりはしない。
「英士、結人…ごめん、けど一緒に来てくれるだろう?」
「勿論」「ああ」
内心臍を噛みながら、けれど英士は当然だと肯く。
結人は二人のすれ違う想いを客観的に見て、内心溜息を吐いていた。
英士は一馬を好きで、けれど一馬の心は英士をライバル視していた小さな少年に向かっている。
死して尚も一馬の心は杉原多紀という少年から離れない。
いや、死んでしまったからこそ余計想いが募ったとも思えなくもない。
友人でなければ、
もしも、一馬や英士でなかったなら、きっと自分は蔑視していたのではないかと結人は思う。
だって彼らは男同士で。多少顔が良くても、胸は無いし、下半身に余分なものが付いている。
でもどういうわけだろうか?彼等の想いは純粋で。
ましてや自分にとっては一番大切な部類に入る人間…二人のおさな馴染み。
そんな彼等だったから、例え同性相手に恋をしても気持ち悪いとは不思議と思わずに居られた。
彼等が同性を好きになってしまっても、けれど自分は彼等と一緒に居たいから。
それほど大切な友人達だから。だからホモだゲイだと差別意識は湧かない。
寧ろ素直に受け入れてしまっていた。
まぁ、それは自分に被害は(性的に)無いと解っているからだからかも知れないが。
優しげにけれど何処か寂しさの中に嫉妬をおり混ぜたような視線を一馬に送る英士に
心の中で結人は告白しちまえよと言いたくなる。
ずっと一緒だったのに。それでも一馬の想いはそちらに動いて。
だからこの三人の関係が微妙に辛く感じられる。
英士の想いは痛いほどよく解るから。
一馬に伝えずにはいられなくて。
けれど。
英士はそれを望んでは居ないから。
だから結人も英士の気持ちを無視してまで一馬にそれを告げることは出来なくて。
一馬は静に杉原を横たえ立ち上がった。これからそこを離れ様としている彼等の耳に
しゃりしゃりじゃりっと土を掘り返す音が響いてくる。
どうやらスコップではなく金属の長い棒のようなもので土を掘っていた。
金色の髪の毛が見えた。
「あんた、そこで何してんの?」
結人が問いかけると、彼は顔を上げて言った。
「見てわからへん?墓作っとるんや」
「誰の?」
見て解る。確かに誰か一人分は入るであろうスペースは空いていた。
「そいつのや」
直樹が指を指した場所には、今しがた一馬が横たえた杉原の遺体が有る。
「え?何であんたがそんこと…もしかして、見た死体の墓全部作ってるとか?」
「ちゃうちゃう。そいつ殺したの俺のおさな馴染みやねん。
俺はとめることようできひんやったからせめてものお詫びや」
直樹の返答に絶句する三人。
特に一馬なんかは気色ばみ、直樹の肩を掴んで問いただした。
「お前、多紀を殺した奴見たのか?」
「ああ。俺の目の前で起こった事やったからな。俺は何もできひんやってただ見てる事しか
出来んやったから。あいつを止められへんかったから」
「それは誰だ?!」
「…俺の幼馴染みや。そいつに恋人殺されて、せやから敵打ちっちゅうことになるんかも解らんけど」
「多紀が人を殺す筈…無い…」
一馬は力無くそういう。
「けど事実や。多紀っちゅうんか?そいつに恋人殺されたシゲは怒りで我を忘れとったみたいやから。
俺は止めることさえ憚られてな。いや、何が起きとるんか理解できとらんやってん」
「恋人って?これに参加してたってことは…」
結人が横から訊く。
「あぁ、せや。男同士で奇怪しいかも知れへんけど、あいつが初めて本気で好きになった相手やから。
俺はそれでもええと思うたんや。あいつかて、もう幸せになってもええ筈やのに…何で失わなあかんやったんかって。
……あんたらそいつの敵打つつもりやったら止めといたがええで。シゲ何するか解らひんからな」
直樹はそれだけいうと土を掘る事を再開した。
「なんだよ!それ?そんなことで納得いくとでも思ってんのかよ?」
ふざけるなと一馬は直樹の胸ぐらを掴む。
「それはちゃう。自分が納得いくとは思ってへんよ。せやけど、ムヤミに死んで欲しくないねん。
幾らこれが殺人ゲームやとしても。政府の手駒になって上手く踊らされとるシゲみたくなって欲し無いねん。
シゲには、あいつが全てやったから…もう止める事などできひんけど。自分なら、まだ二人居るんやろ?
大切な人が。シゲはな、例え生き残っても、もう誰も好きにはなれひんのや。アイツが唯一無二の存在やってん」
そんなの俺だって…と一馬が口にしかけたが、直樹の次の言葉に遮られる。
「あいつな、初めてやたっんや。ホンマに好きになってくれる相手に出逢ったんわ。
あいつのこと命も惜しくないと平気で……全身全霊かけてアイツ…シゲんこと好きになってくれる相手なんて
多分もうおらんのや。シゲは『恋』も『愛』も信じられひん奴やった。愛された事が無いからや。
実の親に捨てられてたった一人で生きてきた奴や。こんな世知辛い世の中であいつは自分自身すら
信じられんで何も本気になれん奴やった…けどな、そんなシゲの心埋めてくれる相手にようやっと巡りおうて
……でも、そんなん束の間やった…もう赦されてもええ筈やのに…シゲかて幸せに…人並みの幸せくらい
もろうても罰当らへん筈やのに……何でやねん?何で、シゲが自分より大切にしとった相手殺されて
復讐したくらいで責められなあかんのや??シゲはもう戻って来ぃへん。心を死神に囚われたんやから」
直樹は涙をこぼしていた。一馬も結人も英士もはっとした。
「……俺な、嬉しかったんや。シゲに好きおうた相手出来た時。シゲもやっと幸せになれるんや
思うたら自分の事のように嬉しかったんや。せやのに。何でシゲばかりがこんな酷い目ぇに遭わなあかんの?
あいつは幸せなったらあかんの?って……対等やないアイツと仕合うたって楽しないやん。
今までの分埋められる相手なんてアイツしか居ぃひんのに…。せやから、止められひんやった俺も、
赦せんのや。シゲもあいつもそれにそいつも誰も助けられひんで、俺一人生きとるんが。
せめて丁重に葬るんが俺に出来る精一杯の償いや」
涙をぐっと袖で拭うと、直樹は一馬たちを一瞥する。
「手伝うたってくれるやろ?大切な人なんやったら…」
「あぁ…。俺の一番大切な人だ」
一馬が天を仰ぎ呟いた。
英士はそんな一馬を思い詰めた顔で見つめていた。
(…一馬、やっぱり……俺じゃダメなんだね)
結人はそんな英士を盗み見てこっそり溜息を吐いた。
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後書き
最初書いた奴が気に入っていて何度読み返していると泣いちゃって
たら途中パソフリーズで全消しになってもって…なのでこれはイマイチです(汗)
けど全部は思い出せませんでした。
シゲは自我が無いみたく直樹に言われてますが一応まだあります。
ただ、もうシゲはきっと出逢った相手全てを殺すかも知れません。
けれど直樹だけは自分の手で殺すなんて出来なかったのでああ言ったのです。

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