『人知れず向かいあう』 第8話 今は涙はいらない
大 どこだろう?あいつは。どこに居るんだろう?大体、名前順なんて誰が考えたんだよ。 そうしたら間開いちゃうじゃないか。しかも、俺のこと待ってちゃくれなかったしな。 ったく。あいつのことだから、憤り感じて怒っていながら怯えてたりするのかな? まさか乗ってるなんてことないよなー。なんたって小鉄だし? 此処には居ないなー。地図地図っと。此処はバツ…バツばっか増えちゃったよ。 ふと顔を地図から上げ、少しだけ小高くなっている崖に小刻みに震え立っているのは日生が探していた人物。 とっさに呟いた声は、皮肉にも小岩に届いていた。 「え?小鉄?!」 日生がそう呼ぶと、びくりと肩を震わせ、小岩は日生の方を見た。 血にまみれた両手に鈍く光る同じく血にまみれたナイフ。 「光っ君…」 「小鉄どうしたの?それ、血?」 「あっ…いや、これは…」 「小鉄?」 「光っ君、ごめん。そこを退いてくれ。でないと、殺すかもしれない」 「へっ?」 小鉄が?俺を殺す?まさか…まさか、その血…人の? 「光っ君、早く逃げてくれ!俺から」 そう言いながら、ナイフを両手で握り日生に向かって突っ込んでくる。 「コテ…ツ」 嘘…小鉄が?そんなこと…… ずるりっ…日生の体が地面に沈む。 「はぁはぁはぁ…ごめん、光っ君でも……もう止められないんだ!」 もう、体がゆうことを利かないんだ。恐いから…俺自身も信じられないくらい恐いんだ。 だから、光宏。これ貰ってくな。皆を一発でしとめられる様に。 「三上、ほんとにこんなんで大丈夫なのか?」 「ああ。まかせとけって」 軽やかにキーボードパネルの上を滑る三上の指に関心しつつも、気がかりなことが残っていた。 此処は民家の中。何故だかあつらえられたように、新しいパソコンとそれに相当のネット環境。 ハッキングして下さいとでも言わんばかりの物の揃い様。 「逆探知とかされたりしねぇの?」 「んなヘマするかよ。0.5秒ごとにID書き換えてんだから。それに、此処がもし意図的に作られたとしたら 誰かが俺らを逃がすために用意してくれたか罠かのどちらか。どっちにしろ、バレてると元々想定はしているけど 取りあえず首輪解体しなきゃどうにもなんないだろ?」 「うん」 「あの発信スイッチを切断出来りゃ解体しなくてもいいんだけどよ」 「そうなのか?」 「考えてみろよ?俺らのコレ管理してんのは全部コンピュータだぜ?仮にバグがあったら関係無い奴の 首輪も速攻爆発している筈だしな。それがないようにってんなら、相当精巧なの使ってるってことだろ。 禁止エリアや心臓パルスを探知して首輪内臓の爆弾が爆発って、相当な技術者がいるってことだとしたら。 こっちもコレで対抗するしかないだろう。とはいえ、簡単なウィルスのプログラムなら今からでも作れるんだが 情報を引き出しながらってのが無理っぽいから、仲間が居るな。お前はパソコン使える?」 「ネット見れる程度だけ…ハッキングなんてやったことも無いよ」 「だろうな」 はぁ、と溜息を吐くと横にあと2台並んでいるデスクトップ型のパソコンを見る。 水野もつられてそちらを見る。 此処に居るのは二人だけ。しんと静まり返った部屋に、パソコンの起動音がヴーンと響いている。 「あんたもさ、恐いって言っただろう?」 「ああ」 そうは返したものの三上には竜也の言う意図が見えない。 「もし、失敗してこれきりなんて俺ヤダから」 「わーてっるって」 三上が心配するなと言いたげに、パソコンに向き直ったまま言った。 「……やっぱ解ってない。俺が言ってんのは…」 「何だよ?」 訝しんで三上が言う。 少しだけ赤く色づいた頬をした竜也。 「おまっ…まさか…」 「あんた、鈍いよ」 真っ赤になってそっぽを向く竜也に、にやりと意地悪く笑って───勿論竜也には見えない位置で─── 三上は言った。 「何、して欲しいの?」 ニヤニヤと尚も意地悪く笑っていると、竜也が思いきり嫌そうな顔をして───でもまだ顔は赤い─── 「……じゃなきゃ、こんな恥ずかしいことわざわざ言うかよ」 と言った。やはりそっぽを向いたまま。怒ったような照れたような口調で。 三度ニヤリと笑って、三上は席を立つ。ソファの背もたれに寄りかかってぶすくれている竜也に歩み寄る。 「…可愛いのな。お前って」 「え?」 ボソっと呟いた三上の言葉を質したが、三上はそれには答える事は無く、竜也をぎゅっと抱きしめた。 軽く音を立てて、三上は竜也の口唇にくちづける。 「「くすっ…」」 二人で見合わせて笑いあって。 三上は、水野の体をソファにそっと押し倒した。 あとは本能の趣くまま。二人は体を重ねる。 三上が先にソファから起き上がると、けだるい体でふらふらとパソコンの前に座る。 回転式のその椅子にぐったりと体を沈める。 そういう行為ははっきり言ってやる方が余計疲れる訳で。 だからと言って珍しく竜也の方から誘ってきたというのに、断りたくもなかったというのは本音で。 それに彼が怯えきっていたのは、その行為を誘ってくる様子から伺い知れたことで。 出口で待っていた時からそうだった。竜也は泣きそうな顔で、怯えていた。 人一倍自尊心の高い一つ年下の恋人。その竜也がこんなことになって初めて、自分にやっと 弱みをみせたのだから皮肉なものである。 首や手首や肩を回して、深く息を吸い込む。次の瞬間、三上の目は真剣なものに変わっていた。 (絶対、こんな狂ったプログラム潰してやる。 帰ろうぜ、二人揃って。な、竜也。だから今はぐっすり眠っとけ) (あの部屋は…いや、あの民家には、もう誰か来たんだろうか?) 功は一人、モニターの前で溜息をついていた。幸いなことに自分の弟の名はまだ呼ばれては居ない。 いや、自分は呼んではいない。誰にも死んで欲しくは無い。大切な弟とサッカーというもので結ばれた仲間。 そんな彼等が殺し合いをしなければならない通りなんて本当はない。 けれど、どうしたことか皮肉な事に自分は自分の弟が選ばれてしまったこの最悪な法律によって、 教官という立場を強いられた。断れば自分は死ぬ。一瞬でも自分の命の方が大切だと思ってしまった功は 本来なら心配などできる立場ではなかった。だが、それでも。矛盾していると解っていても、どうしても心配 せずには居られなかった。 もう時期、自分は第1回目の放送で死者を伝えなければならない。 既に数人死亡者が出ている事は、モニターから解る。 点滅せずに沈黙して灯っている赤い光り。それは確実に死者を表すもので。 そして、密かにしかけられている首輪の盗聴器から幾度目かの死に逝く者の声も聞いた。 その上、傍にいた残された者の声も。 何人だろうか。同性愛はともかく、恋人を殺された彼らは一体どうなるのだろう? +++++++++++++++ 途中です…汗 |