『人知れず向かいあう』

第9話 ほんの僅かでもいいのです
将…どうかお前は生き残って…。
ただ、俺には此処から願うことしかできないけれど…。
結局は俺も捕われの身ってわけだ。
ただ安全な場所にいるかいないかの違い。

カタカタカタ…三上があれから3時間耐久で作業を続けていた。
水野が目を醒まし、ベッド代わりのソファから起き上がると、三上は上半身裸のままパソコンに向っていた。
声をかけるのもためらわれるほど三上は作業に没頭しているようだった。
「みかみ…」
かすれた声で水野が名を呼ぶ。
一糸纏うことなく水野はよろよろと三上の元へ歩いていく。
椅子の辺りまで来た所で三上が気付いたらしく椅子ごと反転する。
「…ん?どうした?まだ、寝てていいぞ。此処はまだ禁止エリアにならないみたいだからな」
そういう三上の首に抱きつくようにして水野がいった。
「いい。お前が頑張ってんのに俺だけ寝られないよ…」
「ふうん?とりあえず、服だけは着とけ。その格好じゃ万一の時に逃げらんねぇからな」
照れたのをごまかすように早口で三上が言う。
「うん…」
素直に肯いて、いそいそと服を身につけて行く。時折ちらりと三上の方を一瞥しながら。
本当のことを言えばまだ物足りないというのが水野の本音だった。
確かに自分達が生きて帰るためだ。
けれどもしも失敗したら、これが最後の交わりだったことになる。
それなら満足いくまで抱かれたかったというのが本音だ。
ただSEXというものはお互いが気持ち良くならなければその行為になんの意味も持たない。
何故なら彼等のその行為は種の保存の為では無いからだ。
お互いの気持ちを確認したいということもあるだろうが、本来それは建前とも言えることで。
気持ちというものはあやふやで形がはっきりとしていないもの。
それを確認というのは少々妄想入っている感もある。
ただ好きでなければ男同士でする行為でもない。
性欲処理をしたいならば女とする方がずっと簡単なことだから。
「なぁ…」
「ん?」
背を向けたまま三上は問い返す。
三上の自分より幾分か広い背中を見てどきどきしている。
水野はやっぱりまだやりたいんだと思っている自分を恥じつつもその衝動が押さえられない。
「まだやりたい…」
「は?」
「……だから、その、……」
真っ赤になってうつむき、水野はもごもごと口の中で言う。
何時の間に自分はこんなにその行為を求めて仕方なくなってしまったのか
真面目な彼には凄く恥ずかしい事だった。だが、本能的欲求は容易に止めれるモノでもない。
「あんたとHしたい…」
「って、お前、先刻もやっただろ?…つか、んなにお前それ好きじゃないって…」
慌てたのは三上の方だった。
普段ならば自分がしたい時でも彼がしたくないと言えばさせて貰えない事もしばしばあった。
だが、こんな積極的に水野の方から誘ってくるというのは微妙に奇怪しいことで。
それにほんの3時間前にやった訳で。
「解ってるけど、我慢できないんだ…俺、なんか変なんだ…」
泣きそうな顔で訴えるように言う水野は少し震えていて。
「体がいうこと利かなくて…あんたが欲しくて…」
「水野?」
睦ごとを呟くときと同じくらい甘い声で静に水野を呼ぶ。
「俺、不安なんだ…あんたとやってる時だけは恐くないけど…」
「え?」
つまりそれって…このプログラムの恐怖を紛らわしたいだけ?
まぁ、それなら合点が行くけど。
「…あとちょっと待ってくれる?もう少しで終わるからよ」
「うん」
うつむいた水野を下から口付けて。
軽く抱きしめてやる。
それからもう一度口付けて水野を離した。
パソコンに向いあう三上の背中を水野はじっと見ていた。
たった今キスされて少しだけ落ちついた気がする。
けれど、三上の言い方を少しだけ怪訝に感じた。
なんとなく冷めたようなそんな冷たい感じがして。
『好き、あんたが』
「俺も好きだぜ」




ほんの僅かでもいいから、俺の事思っていて下さい。
最期の時まで俺のこと好きでいてくれますか?
【残り38人】

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