【しあわせになれ】
愛してくれなくてもいい。
ただ、その声で私の名前を呼んでください。
愛しい貴方のその声で。
私の名前を。
私は貴方に何もしてあげられなかったけれど、
私は貴方から色々な気持ち(もの)貰ってきた。
『サッカーと生きてくって決めたから…』
あの言葉を言えたのは貴方のお蔭です。
貴方とぶつかって時に励ましあって。
落ち込んでいた。恨んでいた。全てのモノにやつあたりしていた。何で自分は女なのだろうと。
どうして男に産まれて来れなかったのだろうと。
そうしたら、大好きな兄のようにサッカーを続ける事が出来たのに。
女であるということでマイナスの方向に思考は行って。
『女』という呪縛の所為で思うように出来なかった私を叱って、そして教えてくれた。
それは貴方だった。
サッカーをすることサッカーがもう既に呼吸をするように極自然にあったから。
だから、サッカーをできなくなってしまった環境や親の転勤を恨んだ。
母は貴方は女の子なのだからとサッカーをやめろと言った。
でも、やめられる訳なんて無い。
だって私にとっては、サッカーだけが全てだったの。
年の離れた兄と小さい頃からやっていたモノ。
初めて行ったLリーグの試合で見た西園寺玲というトップストライカーに憧れて。
その時、本気でサッカーをしたいと思った。プロになりたいと。
恨まずには、絶望せずにはいられなかった。
口惜しかった。自分が男だったら苦労せずに与えられたであろう欲しかった場所。
サッカー部もサッカークラブも、当時はあまり多くなくて。
特に桜上水周辺は。
ねぇ、水野。
一度だけでいい。
もう一度私の名前を呼んで。
血にまみれた水野。私をかばって撃たれた彼。
女の子扱いされても、それはあんたならもう口惜しくなんて無かった。
かばってくれなくてよかったのに、死んで欲しくなんて無いのに。
ゴメンね、水野。
私絶対許せないから。
あんたを撃った奴を。
シゲのこと、絶対、一生許さない。
『こ…じま…ぶ、じか?』
切れ切れな声で水野は血まみれな手を伸ばして私の頬を触れてくる。
その手はもう冷たくて。涙が出た。水野はもう死ぬんだと思うとやりきれなくて。
『ゴメン…な。でも、あいつを恨まないでくれ…』
え?何を言っているの?水野。
シゲは裏切ったのよ。私もあんたも。なのに…。あんたを撃たれて恨まないなんて出きるわけない!
『好き…だった……ユキ』
『水野?』
「もうええやろ?」
パンパンとニ発の銃声が森の中に響いた。
嘘…。
『水野! いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
「おお、こわっ…小島ちゃん。なんや凄い目やな…俺んこと憎い?殺したい?」
『シゲ、わたしはあんたを一生許さないから!』
「かまへんよ。それでも、忘れられるよりはましやから」
『え?』
「ほなな、有希ちゃん」
パーン。
届いた銃声はシゲ自身の頭を撃ち抜いて……。
最初からタツボン狙ったんや。
好きやったんや。小島ちゃんのこと。
せやけど、タツボンのこと小島ちゃん好きやろ?
せやからちょっとした嫌がらせや。
堪忍な。恨んでくれてもかまへんから。
忘れないでいてくれるんやったら。
小島ちゃんはしあわせになってな。
タツボンはもうおらへんから無理かも解らんけど。
【優勝者 小島有希】
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