始まりは、ウーロンのそんな些細な一言だったような気がする。僕は久しぶりに訪ねてきた悪友のそんな一言に見え隠れする自慢が嫌だったが、出来ないものはできないのでしょうがない。僕は素直に、心を寛大にして言った。
「出来ないけど・・・」
「へえ、出来ないのか。俺はできるぜ」
ほらきた。昔からこうなのだ、この悪友は。
「どうやってやるんだ?」
「簡単だぜ、頭の中でなりたい姿を浮かべてくるんと一回転するんだ」
そう言ってウーロンはしばらく目を閉じて・・・、頭の中でなりたい姿を思い浮かべているのだろう・・・くるんと大きくジャンプしたかと思うと、あっというまにグラマスなお姉さんになった。今、ヤムチャ様が帰ってきたら卒倒するだろうと思われるほどの露出度の高い服、つまりは一般で言うボディコン・・・、今もそういうのかはわからないが、を着ていた。こいつの思考って、一体どうなっているんだろう・・・。
「お前もやってみろよ、絶対すぐできるぜ。俺なんか見ただけでできたんだぞ」
と、言って胸を張る。あーあー、そうですか。
「じゃあ、やってみようかな」
「どうせならすっごくきれいなお姉さんに化けろよ。野郎じゃ面白味ないからさ」
「一体どんな面白味だよ。えっと・・・・えいっ」
頭の中でおぼろげながら美人のお姉さんを思い浮かべた。・・・、こんなんでいいのかな? そうして空中で勢いをつけるとくるんと一回転。
ポン!
周りに煙が舞ったかと思うと、次の瞬間には自分の視界の高さが極端に変わっていることに気がついた。
「・・・・、プーアル、それがお前の思い浮かぶ美人なお姉さんかよ。ロリコンなんじゃねーの?」
ウーロンは呆れ顔で僕を見ている。そして、いきなり寄って来たかと思うと僕の胸のところをぽんぽんと叩いた。
「セ・・・セクハラ」
「何がセクハラだよ。こりゃ男じゃねーか。胸なんて全然ないぜ」
「へ!?え!?な、なんで!?」
慌てて胸元を触ってみる。ホントだ、全然無い。まさかと思い股間にまで手を伸ばしてみるが・・・、あ、あった。
「ショタコンか?お前」
「な、そんな・・・、もう一回やってみる!どうやって戻るの?」
「戻りたいと思うと戻るぜ」
・・・・・・・・・・
思うこと数10分。あれれれ、戻らないぞ?
「ウーロン!戻れないじゃないか!」
「なにがだよ、俺なんかとっくに戻ってるぜ」
そしてひょうひょうと僕のほうを見て含み笑いをする。
「そっれにしても、中途半端になったものだな。耳ありしっぽ有り肉球有りか」
僕の手に出てきた肉球をふにふにとつついてウーロンは言う。
「しょうがないじゃないか!どうしろっていうんだよ」
あまりにもの中途半端さに僕は癇癪を起こしその場に有ったクッションをウーロンに投げつける。
「いて、しょうがねえだろ、まあ、明日の朝には戻るって」
言ったままウーロンは麦茶をひと飲みし、さっさと家を出て行ってしまった。・・・・・逃げたな・・・(怒)

PM8:00すぎ、ヤムチャ様が学校から帰ってくる時間だ。遠くからバイクのエンジン音が聞こえてくる。ヤムチャ様は毎日ここから2時間かけて遠くの都の学校に通っているのだ。
「おい、プーアル、今帰ったぞ」
僕はその場にいても仕方ないのでとりあえず台所でご飯を作っていた。この格好のほうがいつもより食事は作りやすいのでこちらのほうがもしかしたらいいのかもしれない。
「ヤムチャ様、おかえりなさい」
それでもいちいち足で歩かなくてはならないのがもどかしい。今までは飛んですぐに行けたのに。
とたとたとた・・・
愚鈍な足音を立てて玄関へ向かう。
「誰か来ているの・・・・・・・・・・・・かぁ!?」
足音を聞いたヤムチャ様が僕の姿を見て悲鳴を上げた。
「ど、どう、ど、どうしたんだ、その姿は」
あわててヤムチャ様は玄関の扉に這いつくばる。
「ヤムチャ様っ、落ち着いてください!僕です、プーアルです」
「んなことはわかる、しかしその姿は一体!?」
「まあちょっと待ってください!話せば長くなるんです」
「お前・・・、男だよな?」
「へ?・・・、ええ、そうですが」
ヤムチャ様は僕の姿をまじまじと見て問う。
「なんだ、一瞬女かと思ったぞ、なんだその姿は?」
「へ・・・?あ、これはいま料理を作っていたのですが・・・」
そのままの姿で料理を作るわけにもいかずだぶだぶのTシャツにエプロンをつけた格好だが、何か変なのだろうか?
「・・・・そうなのか・・・。とにかく食事にしてくれ」
と、言ってヤムチャ様は台所にあるテーブルについてお茶をいっぱい飲んだ。
「はい!実を言うともうできてあるんです。この姿は料理がしやすいですから」
僕は作ってあった八宝菜をお皿に盛り、きれいに片づけてあるテーブルの上にならべていった。
「さ、食べましょう」
一通り並べ終わり、お茶を注ぐと僕も椅子に座りはしを取る。
「ふぅん・・・、あ、ああ、食べよう」

はっきりと言って、おどろいた。いきなり帰ってきたら自分の僕(オイ)が人の姿になっているのだから。しかもそれがなかなかかわいいのである。
「なんだ、一瞬女かと思ったぞ、なんだその姿は?」
動揺を悟られない様にいつもどうり横柄な口振りで言う。
「へ・・・?あ、これはいま料理を作っていたのですが・・・」
たしかに、そういう格好をしている。が、だぼだぼのシャツ、しかも下は太股まで出ている、その上エプロン・・・・。セミロングの髪と加えてとてつもなくオンナノコらしい・・・、と、言うかえっちくさい格好なのである。まあ、俺の言いたいことはそう言うことじゃないんだ。どうして、人の格好になっているかと言うことだ。話せば長いと言っていたがどう長いんだ?
「・・・・そうなのか・・・。とにかく食事にしてくれ」
腹も減ったので食事をしながらそのことを聞くことにしよう。
「はい!実を言うともうできてあるんです。この姿は料理がしやすいですから」
そりゃ手足の長さがいつもの何倍も違うのだからあたりまえだ。
まるで新妻みたいにてきぱきと用意をしてくれる。もしも俺に妻がいたらこんな感じだろうか・・・・、まあ、その前に女性恐怖症を克服しなくてはならないのだが。それにしても、本当にやわらかくて、肌なんかうすく桃色で本当にオンナノコみたいだ。
「さ、食べましょう」
「ふぅん・・・、あ、ああ、食べよう」
はっ!お、俺は今いったい何を考えていたんだ!?一体何プーアルに欲情してんだよ(汗)
「・・・ヤムチャ様?」
いぶかしげに俺の顔を覗き込むプーアル。
「い、いや!なんでもないんだ!」
「そうですか・・・?」
言って再び八宝菜をスプーンにのせて口に運ぶ。ぱくっと言う音が聞こえてきそうな感じでおいしそうに食べている。・・・・か、かわいい!ああっ!くそ!違う!断じて違うんだ!俺は欲情しているわけじゃないんだ!
「・・・・・ヤムチャ様・・・・・」
目の前でにやけたりあせったりといろいろしている俺の顔を再びいぶかしげにのぞきこんできた。
「いや、そ、そう!この八宝菜はいつにもましてうまいなぁって・・・、なぁ・・・は、はは・・・」
やばい・・・・・、完全に周りを白い空気が覆っている(ような気がする)。
しばらくして、そんな俺を見かねたのだろう、プーアルは柔らかく微笑んで
「そうですか?ありがとうございます」と、言う。
どきぃぃぃぃぃ!!!!
あああっ!くそう!なんてかわいいんだぁぁ!!そうか!わかった!顔だ!
顔が完全に俺の好みなんだ!あと2、3年育てば俺の好みの子になる・・・。
ぶしゅうぅぅ!・・・・。
そこまで考えて、俺の思考は闇の中に消えて言った。大量の血しぶきと共に・・・。

ヤムチャ様の様子がおかしい。
僕はちょっと塩味のきつい八宝菜を食べながら上目使いに見る。さっきから僕のほうを見ながら顔をにやけさせたり、急に焦ったようになってひきしめたり・・・・。はっ!まさか今日の八宝菜が好みじゃなかったとか!?だからああやって顔がおかしくなっているんだ!?そうなんだ!そうにちがいない!!
「・・・・・・ヤムチャ様・・・?」
僕はびくびくとヤムチャ様を見る。いったいどうしてしまったのだろう。と、さっきまでにやけていたのに急に焦ったような感じになった。
「いや、そ、そう!この八宝菜はいつにもましてうまいなぁって・・・、なぁ・・・は、はは・・・」
・・・・・・・・・・・やっぱりそうなんだ。八宝菜が原因なんだ・・・。それでも無理に食べてくださる・・・。なんってやさしいんだ!ヤムチャ様・・・・。
「そうですか?ありがとうございます」
僕は満面の笑みを浮かべる。

ぶしゅうぅぅ!・・・・。
ヤムチャ様は大量の鼻血とともに椅子から転げ落ちて気絶してしまった。
やっぱり、八宝菜おいしくなかったんだ・・・・。砂糖と塩まちがえたからなぁ・・・・。

「ムチャ様・・・ヤムチャ様ぁ・・・」
気がつくと、心配そうにこちらを見下ろしているプーアルの顔があった。
さっきは気がつかなかったが、よくみると薄く蒼い髪の中から獣の耳が顔を覗かせている。
「・・・、あ、ああ、プーアルか・・・」
「ヤムチャ様、お加減はいかがですか・・・?あの・・大丈夫でしょうか?」
言って俺の頭にのせていたおしぼりを取ると洗面器にはいった水に浸け、固く絞ると再び俺の頭にのせる。
「う、うむ。大丈夫だ、貧血を起こしただけだ」
「貧血じゃないでしょう、大量の血を吹いておいて・・・。どうせまた街で見掛けたオンナノコのことでも考えていたんじゃないんですか?」
咎めるような口調で言う。
「べ、別にそんなわけじゃない・・・」
そんなわけじゃなくてプーアルのことを考えていた、と言えばこいつはどうするだろう・・・。
「たまたま僕が人間の姿だったからよかったものの、いつもの姿だったらきっと、もちきれなかったですよ」
ふたたび柔らかく笑って言った。あああああ〜〜〜!!くっそう、そこらにいる街の女よりも何倍もかわいいぜ!
「・・・・・ヤムチャ様?」
にやけた俺を見ていぶかしげに問うプーアル。そりゃいぶかしいだろうよ。
「あのっ、もしかして今日の八宝菜・・・」
「え?あ、ああ、おいしいかったぞ・・・」本当は八宝菜の味なんか分かりもしなかったが・・・・。
「・・・・本当ですか・・・?」怯えたような顔をしている。こういう顔もまたかわいいんだよなぁ・・・、もう。
「ああ」
「そうですか、よかったぁ・・・・」
安堵の息をつき再び微笑んだ。と、その時である。
どろん
いきなり膨大な煙が部屋中を覆った。一体何があったのかわからずに煙が収まるのを待つと、そこにはいつもどうり元どおりのプーアルの姿があった。
「プー・・・アル?もとにもどったのか?」
「へ?あ、本当だ!元に戻っている!」そうして急に大喜びをするプーアル。そしてそれとは逆に顔で笑って心で泣いている自分がいた。
せめてもう一日・・・・

どろん・・・
急に膨大な量の煙が自分の体から出るのと共に体中が縮んでいくのがわかる。煙が収まり、周囲の状況が見えてくると、少し顔の引き攣ったヤムチャ様の顔があるのがわかった。
「プー・・・アル?もとにもどったのか?」
そういって僕のほうを指差す。
僕も久しぶりに味わう宙を漂っている感覚と手足のふわふわさから自分が元の姿に戻っているのが分かった。
「へ?あ、本当だ!元に戻っている!」
久しぶりの自由な感覚にもどれて大喜びする僕。今までの人間の体は食事を作るぶんには申し分なかったがいかんせん重かったのだ。
「よかった・・・な・・・。ははは・・・」
どこかひきつったような笑いを浮かべるヤムチャ様。
「あ・・・、ああ、でもさ、また人間のお前が作った八宝菜、たべたいなー、なんて・・・・」
「食べたいんですか?」
ついついいぶかしげにとってしまう。まさかヤムチャ様、味覚がおかしいのでは・・・。
「い、いや、無理にとは言わないが・・・」
僕から目をそらしつつヤムチャ様は言う。
・・・・・・・
ふいに、笑みが零れた。
ヤムチャ様が喜ぶなら、また人間の姿になって砂糖と塩をまちがえて八宝菜でもなんでも作ってあげよう・・・。
「いいですよ、ヤムチャ様がそう望むなら」


注釈>>>この話は悟空とヤムチャ達が出会う前の話です

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