撒かれざる純白の記憶

序章
[幸せな時] [エンポリウム到着] [幸せが壊れる時] [雪]


 ひとつのコンピュータの前に、一人の少女が居た。彼女の名前はニーチェ。アンドロイドである。そして、コンピュータも自我を持つ知覚機械である。名前はシーナ。
『いつまでも寝ていないで、さっさと仕事をしたらどうだ?』
 シーナは特に関心なさそうに言った。
「んふふ、いつまでも寝てるいの」
 二人がいるのは大きな町の一室で、窓の外には大空を忙しく飛行機が飛び回っている。その空を見上げながらニーチェは答えた。
『キミの所有者が聞いたら泣くぞ』
「さぁね?それはどうだろ」
 ニーチェの所有者は、彼女を残して旅に出ている。果てしなく続く宇宙へ。
 この時代、宇宙への冒険は珍しくも無かった。むしろ、何も考えていない人が惑星で一生を終えるのだ。

 ニーチェは、今この時が幸せだと思っていた。何も考えずにシーナと話をしているだけの時。空を見上げているだけの時。そして、所有者を待つ時。
 シーナも今この時が幸せだと思っていた。退屈ではあるが落ち着いている時。ニーチェを軽く叱る時。そして、平和な今。
 いつか自分は廃棄処分されるであろう。しかし、それまでの時間を楽しめればそれでいい。いつか壊れてしまうのは人間も同じだ。人間もアンドロイドも何も変わらない同じモノなのだ。
 ニーチェはそんなことを考えながら、何故か笑みがこぼれた。
「人間もアンドロイドも同じ…か」
『なんの話を?』
「ううん。こっちのこと」
『私は仲間はずれか…』
「へ?」
『冗談だよ』
 こんな話をしている時ニーチェは、いつまでもこのままの二人でいたい。そう願っていた。


幸せな時

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