いつもと同じ風景。
いつもと同じ学校。
だけど、一つだけ昨日と違う事……。
「おはようさん! 碇!」
私の心臓が大きく鼓動を打った。
「朝から惣流といちゃついてくれるねぇ、センセ」
嫉妬の入り混じったからかうような無邪気な声、その声に泣き出したくなる衝動。
―これは……なに? ―
「あ、おはよう綾波」
後から碇君の声。
「……おはよう。相変わらず……仲、良いのね」
締め付けられる胸。泣き出しそうな気持ち。平静を装い言葉を返す。
―この感じ……胸の奥がもやもやする……これはなに? ―
「な、なに言ってんだよ。綾波まで……」
照れた顔で笑う彼。その横に立つ彼女。
2号機パイロット……。ブロンドの髪、青い目の綺麗な娘……。
―早く向こうへ行って―
心の中で叫んだ。
「私、先、教室行くから」
早くこの場から逃げ出したかった。二人の姿を見たくなかった。
―そう、今気がついた。いいえ、違うわ。今まで気がつかない振りをしていただけ―
―どうして彼の隣に居るのが私じゃないのだろう―
彼の隣に居る私、いつの頃からか夢見たその場所に今あの子がいる。
―どうしてもっと早く自分の気持に気づかなかったんだろう。そうすればもしかしたら……―
何度も何度も自分に問い掛けた言葉。もう遅いとわかっているけれど。
―今、彼に私の気持ちを伝えたらどうなるかしら―
私の気持ちに応えてくれる? まさかね。
―私はどうしたい? ―
彼女から彼を奪いたい?
―もう……後悔したくない―
後悔しないためにはどうすればいい?
―気持ちを伝えたい―
勇気を振り絞って彼に気持ちを伝えてみよう。
―精一杯の勇気―
私の気持ちは彼に届かなかったけれど不思議とさわやかな気分。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ風景。
いつもと同じ学校。
だけど、一つだけ昨日と違う事……。
「お……おはよう。綾波」
後から碇君の声。
少しだけチクっとする胸、ちょっとだけせつない気持ち。
「おはよう、碇君」
昨日とは違う、後悔のない笑顔で振りかえった。