「キライキライ! みんなだいっきらい!!」
冬のある日、ネルフ本部にアスカの声が響き渡った。
「あ、アスカ!」
呼び止める声も無視してアスカは走り出した。
「ブザマね」
冷たく響くリツコの声。
「仕方ないですよ……。アスカのプライド、ぼろぼろですから……」
コンピューターに結果を打ちこみながらマヤは言った。
―2号機ゲージ―
「やっぱり……ここに居たんだね、アスカ……」
アスカを探して走り回ったせいか、シンジは息を弾ませていた。
「何? 何か用なの……?」
シンジのほうを振り向かずアスカは小さくつぶやく。
「アタシの事、笑いに来たんでしょう。笑いたきゃ笑えば良いじゃない……」
ひざを抱えて座り込んだままのアスカ。
「あ、あの……き、気にする事、ないよ……」
遠慮がちに話しかけるシンジ。
「気にする事ないですって!? アンタ、アタシの事哀れんでるつもり!?」
シンジの言葉に思わずアスカは立ち上がった。
「そ、そんなつもりじゃ……」
アスカの迫力に押されるように一歩後ろへ下がるシンジ。
「当然よね。アタシはアンタはおろか、ファーストにまで負けたんだから!! アタシのプライド……ぼろぼろよ……」
アスカは今にも泣き出しそうな声をしていた。
「そんな! たかが数字の上の事じゃないか!!」
この台詞にアスカはシンジをキッとにらみつけた
「たかが数字ですって!? ここではその数字がどれだけ重要か、アンタだってわかってるはずでしょう!?」
シンジのむなぐらにつかみかかるアスカ。
「アタシはまったく動けなかった!! 手も足も出なかったのよ!!」
アスカはシンジを突き飛ばした。
「し、仕方ないよ……だってアスカは……」
「うるさい! うるさい! うるさい!!」
シンジの言葉をさえぎるようにアスカは叫んだ
―研究室―
「おや? これはなんの結果だい?」
「あ、副司令……これは……」
「ほほぅ、懐かしい事をやっているようだね」
冬月はコンピューターを覗きこんだ。
「ん……? これは……アスカの結果は0じゃないか」
0の並ぶアスカの結果を見て冬月は言った。
「はい……仕方ないですよ。アスカはまだ日本に来て間もないですから」
プリントアウトした結果をマヤは冬月に渡した。
「そうか……漢字が読めない……か」
”第一回カルタ取り大会結果”
と書かれた成績表を眺めながら冬月はうなづいた。
*
「だーかーらー! さっきから言ってるじゃないか! 僕が漢字教えてやるって!!」
「冗っ談じゃないわよ! アンタなんかに教わるくらいならビリでも良いわ!!」
「人が親切に言ってやってるのになんだよその態度!!」
「そんな事言って! その見かえりにアタシとどうにかなろうと思ってるんでしょ!? エッチ! チカン! ヘンタイ!!」
「じゃあ……私が教えても良いわ……」
「ファ、ファースト! アンタいつからそこに居たのよ!!」
「ずっと居たわ……」
「アンタから教わるのもごめんよ!!」
「碇くんと二人きりにはさせないわ……私が守るもの……」
「あ、綾波! な、何言ってるんだよ!!」
「も〜う!! うるさい! うるさい! うるさい!!」
影から様子を見ていたリツコはため息混じりにつぶやいた。
「……ブザマね」
―これはとあるお正月の1ページだったとさ―