ここはアスカの部屋。何やら二人の雰囲気はいつもと違った。
「アスカ……本当に良いんだね?」
「良いの。シンジ……もう決めたの」
アスカはこっくりと頷いた。
「わかった……じゃあ、行くよ」
シンジも頷きアスカに手を伸ばす。
口角のきゅっと上がったアスカの桜色の唇が近づく。
「む……」
次第にそのアスカの口が開く。
「き、緊張するな……」
アスカの唇から少し距離を置きシンジが言う。
「アンタ、男でしょ。こんな事でそんなに震えてどうするのよ」
「そ、そうだよね」
再びアスカの唇にシンジは近づく。
「やさしく……してよね……」
「う、うん、わかってる」
こくんと頷くシンジ。
「……ここで良いのかな……?」
「ち、違う、そこじゃない……あ……」
「はぁっはぁっ……」
アスカの息遣いが荒くなる。
「くっ……い、痛い……」
「ご、ごめん、痛かった? やめようか?」
アスカの声に動きを止めるシンジ。
「ダメ! 最後まで……お願い……」
「……わかったよ。アスカ」
シンジは再びアスカへと……
「シンジ……も、もっと奥……」
「くっ、なかなか……届かないんだ」
「はぁっはぁっ……」
二人の息遣いが次第に荒くなる。
「あ、ダメだよアスカ! 歯を立てないで!」
「だって……我慢できない……」
「アスカ、もっと大きく開いて……」
「くっ!」
「はぁっ、はぁっ」
「はぁっはぁっ、シンジ……まだ……?」
「もうちょっと……だから……」
「痛い……お願い……早く……」
「わかってるよ、もうすぐ……もうすぐだから……うっ!」
ズポッ
「はぁっはぁっ……終わったよ……アスカ……」
シンジはアスカから流れる血を拭き取った。
「こんのバカシンジ〜〜〜!!」
アスカの蹴りがシンジの頬を直撃した。
「な、何するんだよ! アスカ!!」
頬を押さえながら非難の目でアスカを見た。
「何じゃない! 痛かったじゃないのよ! どうしてくれるのよ!!」
「どうしてくれるって……」
あっけにとられた顔でシンジはアスカを見た。
「歯医者が怖いからボクに虫歯を抜いてくれって頼んだのはアスカじゃないか!!」
「うるさ〜い! 痛いものは痛いのよぉ!!」
「なんでお願いを聞いてあげたボクが怒られなきゃいけないんだ……」
「このアタシが頼んであげたのよ!? 文句言うんじゃないわよ」
「そんなの……変だよ」
「なんか文句あるわけ!?」
「別に……何もないです……」
かなり腑に落ちないシンジだった。
「あ〜もう! 虫歯なんてこりごりね!」
アスカは紅く染まった口を拭きながら洗面所へと向かった。
「ボクももういやだ……」
シンジはポツリとつぶやいた。
―終わり―