幼い子供。

　小さな手で石拾い。

　一つ一つと積み上げる。

　父の、母のと呟いて。



　賽の河原で子供らは、親の為にと石を積む。

　石を積む。石を積む。

---

　賽の河原

---

　周りに居る大切な人達。
　守る為に積み上げていく偽りは、まるで賽の河原に積む石の様……。
　積み上げる偽りに自分が苦しくなろうとも、守る為にと積み上げていった。

　―――けれど…。

　「工藤」
　
　呼ばれる。
　本来の、けれどもこの姿に対しては偽りとも言える名前。
　
　西で自分と同じ、高校生探偵と呼ばれる人物。
　出会いは『江戸川コナン』として。
　けれども『工藤新一』である事がばれてしまった。

　「工藤」

　お願いだからその名を呼ばないでくれ。
　しかし、いくら頼もうと彼はそれを止めず、こう言って来た。

　「工藤は工藤やん。やけん、それ以外は呼べへんわ」
　
　ああ。
　積み上げたものが、彼の言葉で一瞬にして無に帰る。


　賽の河原に石積む子供。
　河原の鬼が、せっかく積んだその石を。
　壊してしまう、壊してしまう。
　そして子供はまたはじめから、石を積まなければ為らなくなった。


　ばれてしまったのは自分の落ち度。
　『江戸川コナン』となってしまったのも自分の落ち度。

　だからこうやって自分は石を積み上げ続けなければいけない。
　崩れても、何度も何度も積み上げなければならない。






　でももう疲れた。
　疲れてしまったのだ。
　俯いて、偽りと言う名の石を握り締める。



　「そういう時は止めても良いんですよ」



　そっと温かい腕に抱き上げられる。
　優しい声と、その温かさに顔を上げれば目に入ったのは白い華人。

　敵なのに、怪盗なのに。

　優しさと温かさが信じられなくて、でも優しさも温かさもホントで本物だから……。
　ぐるぐると回る思考はこんな問いにもなってない問い掛けをする。


　「止めてもいいのか？」

　「貴方が止めたいと思うのであれば構いませんよ。偶には我侭をおっしゃってもいいのですよ」

　「これこそが自分の我侭なのに？」

　「いいえ、これは貴方の優しさです。痛みを知るが故の優しさです」


　掛けられる、それこそ優しい言葉。
　癒されてゆく。


　大丈夫。自分はまだ大丈夫だ。



　「止めないよ」

　一度目を閉じて、開ければ其処にあったのは唯一無二の蒼い光。
　その光を目にした怪盗は、優しく微笑んだ。

　「止めませんか？」

　「ああ、止めない。ここで止めたら自分じゃない」

　「そうですか。では、そうですね。こんなのは如何でしょう？」

　「？」

　「私が、数を数え終わるまで目を閉じていて頂けますか？」

　「ああ」

　なんだか知らないがワクワクする。
　だから、言われた通りに目を閉じた。

　蒼い光が瞼に隠れる。
　それを、少し残念に思いながら怪盗は数を数えだした。
　　
　「１」

　「２」

　「３！！」

　カウントと同時に、指が鳴らされる。
　その音に目を開いてみれば……………。

　「これって…」

　「月明かりなのはご容赦くださいね」

　石ばかりの河原は、花咲き乱れる野原となっていた。
　月明かりでも明るくて。
　綺麗に咲き誇る花たちをはっきり照らし出していた。

　「何で・・・？」

　「言いましたでしょう？　貴方の優しさだと。それに相応しくしただけですよ」

　その言葉を聞きながら身を乗り出せば、そっと花畑に下ろされる。
　暫くその光景を眺めていると、隣に佇んでいた怪盗が動いた。
　白い手袋に包まれた、長くて優雅な指を持つ手が咲いている花を大事に大事に摘みあげていく。
　そして器用に摘んだ花を編んでゆき……。
　出来上がったのは、綺麗な花冠。

　それを見て、にっこり笑った自分は。
　同じように花を摘んで、編んでゆく。


　『石』は『花』となり。
　『積み上げる』は『編み上げる』になった。


　そうして二人は楽しげに花を編んでいった。




　「なぁ〜」

　「なんです？」

　「この花、編み終わったらお前にやってもいいか？」

　「有り難く頂戴いたしますよ」

　「それと……」

　「なんでしょう？」

　「礼は無いのか？」

　「そうですね、では私のを貴方に差し上げましょう」

　「よし！」








　賽の河原で石積む子供。
　白い御使い舞い降りて。
　今は花を編んでいる。
　優しい偽りを編んでいる。
　そして編まれた花たちは、白い御使いに捧げられ。
　子供は御使いの編んだ花を手に入れた。

---

ふと思った事を書いてみた。
だってあれって結構危険だと思うんだけど