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25. 疑似体験

2009.03.27

※ このWEBサイト上での感音性難聴の体験は感音性難聴の音域のページで可能。同様の効果を得られるWIndowsプログラムの配布はHearLossのページで可能。

ろう者の聞こえは、感音性難聴か、あるいは混合性難聴だ。伝音性難聴のろう者というのは、まずいない。ところが、だ。手話教室の一部では、耳栓をして、聞こえにくい状態の疑似体験をさせることがある。これは、伝音性難聴の疑似体験だ。感音性・混合性難聴の疑似体験にはならない。ろう者への理解に対して、一体どれほど効果がある疑似体験だというのか?

大学のレポート課題として、耳栓体験を課しているところもある。

課題2 あなたが健聴者である場合,耳栓をして難聴の擬似的状況を作り,1時間程度,住居の中で過ごしてみてください(事故防止のため,耳栓をしたままでの外出はしないでください)。そして,難聴であることの心理的影響,コミュニケーションへの影響,自分の行動面の変化等,気づいたことを書いてください。
東北福祉大学通信教育部レポート課題一覧聴覚障害者の心理

一応、耳栓体験は「本当の意味での難聴疑似体験とはいえない」という注意も付け加えてある。

課題2解説
 実際には,耳栓をして音が小さく聞こえる状態イコール難聴の状態,というような単純なものではありません。難聴の種類にもよりますが,たとえ音が聞こえてもその音は歪んで聞こえるため,何の音なのか弁別することが難しいという問題があります。そのため,残念ながら耳栓の使用だけでは本当の意味での難聴疑似体験とはいえないということを踏まえておいてください。

もちろん、聞こえに問題がある人々の全てが感音性・混合性難聴ではない。伝音性難聴の人々もいる。彼らを軽視するのは良くない。さりとて感音性・混合性難聴の疑似体験は、できないのだから仕方がない、というのも間違っているように思う。聞こえの疑似体験は難しいが、言語習得の困難さの疑似体験は、簡単にできる。その実践の様子を、お伝えしよう。

実践したのは、私の叔父だ。もちろん聞こえる人である。職業は、高校(普通校)の英語教師。職業柄、人が言語を身に付けることに興味を持っているらしい。そして、姪の私(ろう者)の影響もあって、「正しい音声を聞かずに、未知の音声言語を習得する」というアイディアを思いついたのだという。未知の音声言語に選ばれたのは、ロシア語。学習方法は、NHKの外国語講座を使った。

テレビもラジオも、それぞれのテキストが発売されている。しかし、叔父はテキストを使わなかった。なぜならば、テキストには、日本語による解説が載っているからだ。だからあえて使わないことにしたのだという。

テレビには少しは文字がある。文法の解説にも文字がある。だがしかし、正しく理解して習得するのは、難しかったようだ。叔父いわく「分かったような、分からないような、消化不良感がある。初級からこんな状態では……」。こうなった原因は、叔父の推測によれば、「目に見える説明量よりも、目に見えない(音声の)説明量の方が上回っていたのではないか?」ということだった。「文字 < 音声」ということらしい。また、「口の動き」「発音」「意味」を一致させることが、非常に難しかったという。

ラジオでは、ひずんだ音の日本語と、ひずんだ音のロシア語が聞こえてくる。日本語はすでに知っている言語なので、音がひずんでいても何となく内容が分かる。ただし、完全に聞き取れるわけでもない。ロシア語の音声は、ほとんど聞き取れない。テレビ(無音)では得られなかった情報として、「ロシア語らしい強弱アクセント」は、何となく覚えられたという。叔父いわく「せめてロシア語の部分だけでも文字(テキスト)があれば、それを手がかりに聞き取れたかもしれない」。確かに、テキストがないというのは、フェアではないと思う。最も良いのは、スキットの台詞も解説も、全てロシア語で書かれたテキストだ。日本語がほとんど分からないろう児に、日本語で書かれた教科書を与えるようなものである。

叔父は、この疑似体験を通して「正しい音声を聞かずに、未知の音声言語を習得することは、非常に困難である」という結論を出した。そして「音声が聞こえているという前提で進められると、書記言語の習得も難しい」ということも分かったらしい。更に「聴覚障害者の日本語習得について、今まで、何となく理解していたことが、現実感を持って体感できた」とも言っていた。

注意しておきたいのは、叔父は「習得が難しい」という結論を出しただけだ、ということ。この結論から、「だから手話で教えるべきなのだ」という結論は出てこない。だがしかし、ろう学校の聴者の先生たちに、ぜひ体験してほしいと思う。この疑似体験をすることによって、理論ではなく、体で、言語習得に対する理解が得られるから。


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