それは何の前触れもなく訪れた…。
七人ライダーが共に住む本郷邸のリビング。
ある日の夕食後、七人はそこで思い思いに寛いでいた。
城茂は愛用の工具を取り出し、何か黙々と作り、アマゾンは複雑な表情をしながらも、熱心にTVを見ている。その隣で神敬介も一緒にTVを見ていた。
結城丈二は化学専門詩を熱心に読み耽り、風見志郎は本郷猛と話し合い、一文字隼人は、部屋全体が見渡せる所に椅子を置き、スケッチブックを手に座っていた。
他の六人から少々離れた所にいる一文字が、不意に口を開いた。
「なぁ、本郷」
「何だ、隼人?」
何気に切り出された会話。
誰もそれを気にとめなかった。
呼びかけられた本人=本郷猛も、それは同じだった。
そこから思いがけない事態が発生するとも知らず―――。
スケッチブックをテーブルの上に置き、一文字は本郷を見て答えた。
普通に。
サラリと。
「抱きしめていいか?」
「ブッ?!」
本郷(とアマゾン)以外の全員が吹きだす。
その反応をよそに、本郷はいとも簡単に答えた。
「別にいいぞ」
「そうか。じゃ―――」
「ちょ―――ちょっと待ってください!!」
嬉々として立ち上がった一文字に、後輩ライダー達を代表して風見志郎が待ったをかけた。
不思議そうに振り返る先輩ライダー二人。
必要最低限の酸素を取り入れ、風見は続けた。
「いきなり何を言い出すんですか!!」
それは最もな言い分だった。
少なくとも、結城丈二・神敬介・城茂は風見と同じ事を思っている。(ちなみにアマゾンは、何故風見達が騒いでいるのか解らない)
本郷と一文字は声を揃えて言った。
「何をそんなに怒ってるんだ?」
暫しの沈黙。
「……解らないんですか…?」
「だから、何だ?」
風見は思わず頭を抱えた。
「ドウカシタノカ?」
神敬介の袖を引っ張り、場違いな程無邪気な声でアマゾン言った。
敬介は苦い微笑を浮かべる事しか出来なかった。
とてもアマゾンに教えられない。
沈黙してしまった風見に代わり、今度は城茂が抗議の声を上げた。
「そういう事は俺等のいない所でしてくんねぇ?」
「何でだ?」
相も変わらず不思議そうに問う本郷猛。
「…だから、聞いてるこっちが恥かしいっつぅの…」
ゲンナリとした表情で茂はうめいた。
結城丈二が慌てて口をはさむ。
しかし、考える暇もなくはさんだ為、
「あの、僕達はそろそろ寝ますので、…その…お…お好きなように!」
恐ろしい事を言っていた…。合掌。
「あっ!」
思わず手で口を塞いだが、既に遅い。
満面の笑顔で一文字は本郷の肩に手を回した。
「そうか。何か悪いな」
「もう寝るのか?健康的だな」
それでも本郷は一人ズレた発言をかます。
「結城…」
「す…すまん、風見…」
恨めしげな表情で睨んでくる風見に、結城は情けない表情で謝罪した。
……あまり意味は無いようだったが。
「あれ…?」
ふと振り返ってみると、既に神敬介はアマゾンを連れてリビングを後にしていた。
茂も工具類をまとめ、自室に戻る準備をしている。
「……………」
風見と目で会話した後、結城は問題の二人を見た―――確認の為に再度見た。
…ため息が漏れた。
「行くか…」
疲れきった声色で風見志郎。
「そうだな…」
似たり寄ったりな声色で結城丈二。
リビングを後にしようとする二人の背中に、いやに明るい声がかかる。
「おやすみー♪」
その声が誰の声かなんて、二人は考えたくもなかった…。
一体どうしてこういう事になったのか、誰にも解らない。
嫌、一人だけその事実を知る者がいる―――。
「何がそんなにおかしいんだ、隼人?」
二人だけになったリビングで、一文字に後ろから抱きしめられつつ、本郷は問う。
一文字は込み上げてくる笑みを押さえ、座っている本郷の頭に顔をうめた。
「うん?…そうだな、楽しいものを見れたから嬉しいんだ」
「楽しいもの?」
「ああ。……予想以上の反応だったなぁ」
一文字の最後の言葉の意味を知る者はいない…。
終
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