「何を企んでいるんだ、ヨロイ元帥?!」
「くくく…。解らないか…?結城丈二」
ライダーマン・結城丈二は、突如目の前に現れた【デストロン】大幹部ヨロイ元帥に戦闘態勢をとった。
仮面ライダー達の日課は、悪組織から人々を守る為に行う基本中の基本であるパトロールをする事だ。その他にも、情報収集や特訓等があるが、パトロールが一番大切で重要と言えよう。
仮面ライダーの科学班である結城丈二も、それは同じ。
朝食前に仕事(研究)をしてから、いつものように何か事件が起きてないか、愛車に跨ってパトロールを開始した。昼前に一度本郷邸に戻り、昼食と仲間同士での情報交換をした後、又、パトロールへ出かけた。
「今日は平和だなぁ」
日が落ち電灯が灯り始めたので、今日はもう帰ろうとした時、結城の耳に不可解な音が届いた。
その音の出所を突き止める前に、結城の前に宿敵・ヨロイ元帥が現れたのだ。
独特の気味悪い微笑を見せ、ヨロイ元帥は言う。
「結城丈二。貴様が一人になる時を待っていた…」
結城は少し首をかしげた。
「今日、僕はほとんど一人だったが……?」
結城の言葉を無視し、ヨロイ元帥は続ける。
「さぁ、俺と一緒に来てもらおう」
「何?!」
「貴様には俺の申し入れを受け入れてもらわねばならん…」
「申し入れ?!―――っと言うと、あの…」
「そうだ!あの時……貴様がまだ【デストロン】科学班にいた時の事だ…」
結城丈二は、元々秘密組織【デストロン】の優秀な科学者だった。首領に騙され、【デストロン】を正義の組織だと信じ込んでいた彼は、科学で人間の素晴らしい未来を切り開く為に、日夜を問わず研究に没頭していた。
優秀で、部下からの人望も厚い結城は、大幹部候補として名が挙がるほどの人物だった。
【デストロン】日本支部で働く結城の元に、ヨロイ元帥が現れたのは、彼が日本支部に派遣されてから数日経った日の事だった。
何故日本に派遣されたばかりのヨロイ元帥が、わざわざ結城の所へ現れたのか?
それを知る者は少ないが、理由はいたって簡単だ。
実は【デストロン】内でも悪名高いヨロイ元帥は、聡明で純粋な結城丈二に心を奪われていたのだ。結城は知らない事実である。
この時結城の元に現れたのも、彼に告白するのが目的だった。
たっぷりと威厳を漂わせながら現れたヨロイ元帥は、人払いをさせると、結城にこう言った。
「俺の物になれ」
単刀直入だった。
単刀直入すぎた。
故、結城はこう答えた。
「部署(?)が違うので、それは無理です」
見事に行き違った二人…。
ヨロイ元帥は、勘違いしまくりの結城の返答に、フラれたと思い込んだ。
「おのれ〜…!俺を怒らせるとどうなるか見ていろ…!!」
執念深いくせに小心者のヨロイ元帥は、結城に裏切り者の汚名を着せ、処刑しようとした。だが、本当に殺すつもりはなかった。
取り合えず、自分の知っている範囲であの時の事を思い出した結城は、思わず眉間に皺をよせた。
結城には、ヨロイ元帥が何をしたいのか良く解らない。
(今更部下になれと言われても、なる訳がない)
誰が、自分に汚名を着せ、殺そうとした人物の部下になりたがるものか…。
「お前が僕を陥れたんじゃないか!今更何を言う!」
「そうではない。意味が違う」
流石に、結城丈二とV3・風見志郎のやり取りを見て経験値を増やしただけあって、今度は結城が勘違いしている事に気付くヨロイ元帥。
「だいたいだ貴様を処刑しようとしたのも、俺の申し出を断ったから、どうしても受け入れざる得ない状況に追い込もうとしただけであって、殺す気はさらさらなかったのだ。それなのに、『結城丈二親衛隊』の奴等が余計な事をしてくれたもんだから、よりによって……よりにもよって………」
ヨロイ元帥の表情が一変していく。
「???」
「…よりにもよって……にぃっくき、仮面ライダーV3なんぞに横取りされるハメになってしまったではないか…!!」
ヨロイ元帥、涙声で絶叫。
面食らい、結城丈二は後退した。
頭痛がする。
ヨロイ元帥は咳払いを一つすると、気分を入れ替え、大幹部らしい威厳に満ちた表情に戻った。
「っと言う訳だ。では俺と一緒に来てもらおう!」
ヨロイ元帥がマントを閃かせると、空中からいきなり【デストロン】戦闘員が数名現れた。一斉に結城に襲い掛かる。
「…っく!!」
なにせ変身前。なにせ半改造。悲しきかな、かなり善戦はしたのだが、結城丈二はあっさりと捕まってしまった。
「くそ…!」
「ははははは…!両腕両足を戦闘員に押さえられては身動きも出来まい。さぁ、帰るぞ♪」
意気揚揚とヨロイ元帥。
危うし結城丈二!彼はこのままヨロイ元帥専属の花魁になってしまうのか?!
嫌、そうはいかない。
「まてぇぃ!」
何故なら、ライダーマン・結城丈二には頼れる仲間―――嫌、それ以上の存在がいるのだから!!
「貴様は……!」
少し離れた所にあるビルの屋上。そこに見える人影。そして、その人影は間違いなく結城丈二の―――
「仮面ライダーV3!!」
自ら名乗りを上げ、正義の改造人間第3号はポーズを取った。
「ふん、ヨロイ元帥め。結城を連れて行こうとするつもりなら、まずこの俺から片付けるんだったな」
苦虫を噛み潰したような表情で、ヨロイ元帥は唸る。
「貴様ぁ…どうしてここが…」
「結城の帰りが遅いんでな、捜しにきていた所だ」
「……偶然か?」
「必然だ!」
「言い切るな!」
「ふん。今から結城に手を出した事を後悔させてやろう。トウッ!!」
V3はヨロイ元帥一行がたむろしている所まで思いっきりジャンプすると、そのまま戦闘員の一人へキックをお見舞いした。
「殺せ!!」
ヨロイ元帥の合図で戦闘員達がV3に襲い掛かる。
しかし、なにせ変身後。なにせ全改造。悲しきかな、かなり善戦はしたのだが、戦闘員達はあっけなく倒されてしまった。
「……くぅっ!」
「さぁ、結城を置いてさっさと消えろ」
V3が戦闘員達をのしている間に結城をロープで縛っておいたヨロイ元帥は、結城を盾にするような形で後退する。
その哀れな姿に、V3は微笑を漏らした。
その微笑にカチンときたのは、勿論、ヨロイ元帥だった。
「…貴様など、結城丈二の経歴も知らんくせに…!」
ゆっくりとヨロイ元帥と結城に近付いていたV3の足が、不意に止まる。
その様子から、自分の憶測通り、V3が結城本人から聞かされてない事を確証したヨロイ元帥は、さっきまでの逃げ腰はどこへやら、大きく胸を反らし哄笑した。
「くくくくく…!そうだろうとも、貴様が知っているのはせいぜい【デストロン】脱出後。それ以前は知りようがあるまい!!」
莫迦面下げて大笑いするヨロイ元帥。
が、彼の天下は長く続かなかった。
「…ほくろ…」
あまつさえ、V3の呟き一つで終わりを迎えた。
「あぁ?」
「貴様は結城の体に全部でほくろが何個あるか知らないだろう?」
「うぐっ?!」
思っても見ない反撃に、ヨロイ元帥は息を飲んだ。
V3の攻撃は更に続く。
「それから、結城の寝顔が事の他可愛い事とか、実は朝に弱い事とか、×××が弱い事とか知らないだろう!それから―――」
「V3!!」
ほっとけば一昼夜話し続けそうなV3を止めたのは、ロープに縛られたままの結城丈二だった。
恥かしさの為だろう。耳まで真っ赤だ。
「一体何の戦いなんだ!!」
全くもって当然な言い分。
しかし、運が悪いと言うか仕方ないと言うか、その発言をまともに取ってくれる人物は、今ここにいなかった。
V3とヨロイ元帥は声を揃えて答える。
「自慢話」
合掌。
悲しみにくれる結城を置き去りに、V3とヨロイ元帥の不毛な戦いは続く。
「俺は結城の右腕を溶かした男…!結城丈二は一生俺の事は忘れられん!」
「そんな事は俺が忘れさせられる!所詮貴様は過去にしか出てこない男だ!(過去の男にあらず)」
「ははは、それは貴様の思い違いというものだ!俺はこれからも結城丈二の人生に深く深く係わってくるのだ!貴様などお呼びでない!」
「貴様なんか二度と結城に近付けさせるか!結城の肌に触れるのは俺だけ―――」
ゴォォォォン…。
除夜の鐘のような音が辺りに響き渡った。
道路に倒れているのは、V3にのされた戦闘員達と、いつの間にかロープから脱出し、ライダーマンに変身した結城丈二によって頭部を強打されたV3とヨロイ元帥の数名…。
強烈な衝撃の為にほとんど動けないV3が、微かに言葉を漏らす。
「……ライダーマン…一体…」
「ハンマーアームで叩かせてもらった」
二人を見下ろし、複雑な表情でライダーマン。
「…いつの間に…新しいアームを…」
「片腕改造だから、僕だって気にしているんだ。だから徐々にアームのヴァリエーションを増やしていこうと研究中なんだ。これはその第一弾」
と、でっかいハンマーと化した右腕を掲げて見せる。……と言っても、それを見れる人は一人もいないが。
「…なんで…ハンマー…」
「一文字さんが攻撃力があると教えてくれたんだ。次もアドバイスをしてくれた。コンペイトウがいいそうだ。…でも何でコンペイトウがいいんだろう?」
(一文字さん……いつの間に結城で遊んでたんですか?!)
V3の心中を知らないライダーマンは、アームを元に戻し、V3とヨロイ元帥の近くにしゃがみ込んだ。
「取り合えずもう良いだろ?帰ろう、風見」
V3は、微かに首を動かし、ヨロイ元帥を視界に入れた。
「ふ…今日の所はこれまでだ…ヨロイ元帥……」
ヨロイ元帥も微かに首を動かしV3に視線を合わせる。
「…仕方あるまい……勝負の続きは…この次だ…」
「続きはしなくていい」
新たな頭痛を感じ、ライダーマンは眉間に人差し指を当てた。
結局、動けないV3をライダーマンが連れて帰り、動けないヨロイ元帥は、やっと動けるまでに回復した戦闘員達によって担がれ、帰還できる事となった。
「もう二度となんな事を大声で言わないでくれ」
風見志郎を彼のベットに運び終わってから、結城丈二はそうぼやいた。
ベッドに寝ている風見に背を向けて言った訳だが、後ろから見ても、彼がどういう心理状態なのか解る。
(耳まで真っ赤だ…)
「結城」
「約束してくれるか?」
風見は微笑をもらした。
可愛くて仕方ない。だから―――
「お前が俺にキスしてくれたら約束する」
「…なっ?!…」
思わず虐めたくなる。
それはヨロイ元帥も同じ。
彼の場合はそういう所に惹かれているのかもしれない。何せ真性サドなのだから。
「莫迦を言うなよ!」
結城丈二の不幸は、その性質から来るものである事を、本人は全く気付いていない…。
終
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