「一文字さん、今度美術館にミイラが展示されるらしいですよ。一緒に見に行きませんか?」
「ミイラか〜…。ミイラも良いけど、俺は今やってるアンデルセン童話挿絵展の方が良いな」
「童話挿絵展でも何でも、一文字さんが行くんなら一緒に行きます♪」
「じゃぁ、今度の日曜なんてどうだ?お前に予定がなかったら―――」
「予定なんてないです!あってもキャンセルします!」
「…それはまずいだろ…。ま、予定がないんなら丁度良いな。美術館はバイクで三十分ほどかかるから、午前中から行ってゆっくりするか」
「美術館の近くに公園ありましたよね………。一文字さん、どうせなら弁当持っていきませんか?ピクニックみたいに公園の芝生の上にレジャーシート引いて食べましょう♪」
「大荷物にならないか、それ?」
「………駄目ですか………」
「いいや、良いんじゃないか?たまには青空の下で食事ってのもさ」
「ですよね!じゃ、水筒にお茶も入れて―――お菓子なんかも持ってった方がいいですか?」
「まるで遠足だな。まぁ、そっちは洋に任せる。俺は弁当の用意をするから」
「え?一文字さんの手作りなんですか?!」
「何だ、嫌なのか?」
「そんな訳ないじゃないですか!目茶苦茶嬉しいですよ!!」
「…………あの、一文字先輩……」
 おずおずと遠慮がちに声をかけられ、本郷邸リビングのソファーに座ってくつろいでいた仮面ライダー2号・一文字隼人は、英字新聞に落としていた視線を声のした方へ向けた。
 目の前に立っていたのは、困惑の表情をあらわにした仮面ライダーX・神敬介だった。
「何だ?」
「あ、あのですね……その…」
 何やら歯切れが悪い。
 怪訝に思い、一文字とその隣に座っているスカイライダー・筑波洋は顔を見合わせた。
 どうかしたのか―――と、一文字が敬介に問いを投げようと再び視線を彼に向けた、その次の瞬間。一文字は別の事態に気がついた。
 時計は午後七時半を少し回った所を指し、夕食を終えた本郷邸住人達は、いつもの如くリビングでくつろいでいる―――筈だった。
 だが…、
「先輩達どうしたんですか?」
「さぁ…」
 その場にいる全員―――研究室に閉じこもっている仮面ライダー1号・本郷猛とライダーマン・結城丈二を覗く五人―――がこちらに視線を向けたまま固まっていた。皆一様に顔を真っ赤に染めている。
 一体何で先輩達は固まっているのだろう?―――筑波は心底不思議そうに一人一人の表情を見比べた。
仮面ライダーV3・風見志郎は、仕方ないといった様子で頬を赤く染めたまま手の中の雑誌に気を集中させようとし、アマゾンは興味深そうにこちらを凝視していたが、何やら判断した仮面ライダーストロンガー・城茂によって後ろから目隠しをされた。仮面ライダースーパー1・沖一也はどう対応したら良いのか解らないといった感じで、ドアの前で珍しくあたふたとしている。
 それらを一文字も一通り観察し、最後に一番近くで頬を赤く染めている敬介に視線を戻した。
 どう説明していいやら迷っている敬介に、一文字はにっこりと微笑を向けた。
 それにつられ、敬介も引きつった微笑を浮かべる。
「あ…あの…」
「言わなくても良い。解った。コレが原因なんだろう?」
 と、一文字は自分の腰に巻きついている腕を指差した。
 隣―――と言うより、一文字の耳元近くから素っ頓狂な声が上がる。
「え?俺のせいですか?」
「そうらしいな。仕方ないからそろそろ離れたらどうだ?」
「ええ〜?でも、食後の大切な一時なのに……」
 心底残念がる筑波は、一文字から離れるどころか別れを惜しむように更に力を込めて抱きしめ、そのまま彼のうなじに顔を埋めた。
「――――っ?!」
 声にならないいくつもの悲鳴がリビングの中を駆け巡る。
 それを両手で耳をふさいでしのぐと、一文字は自分から引っ付いて離れない筑波の腕に自身の手を添えた。優しく叩いてやりながら静かに口を開く。
「久し振りにこうしてゆっくり出来る訳だから、お前が残念がるのも無理はない。だけどな、皆困ってるんだ。ここは皆と時間を共有する場所だから、皆が困る事はするな。な?」
「……………」
 それでもまだ筑波は離れようとしない。
 一文字は軽く嘆息すると、顔を筑波の方に向け、小さく囁いた。
「後、長くて二時間もすれば俺の用事は終る。それからでも遅くはないだろう?」
 それからでも遅くはないだろう?―――その台詞が何を指しているのかすぐ理解した筑波は、それまでの態度はどこへやら、やたら元気よく一文字から離れ、そのまま立ち上がり一文字を見下ろした。
 後ろから見ても上機嫌になっている事が解るほど浮かれた様子で、筑波は、今だ悲鳴を上げた格好のまま固まっている先輩達を振り返った。
 深々と頭を下げながら、
「すいませんでした!これからは気をつけます!」
 謝罪の言葉を述べると同時に、
「じゃ、俺、風呂に入ります!」
 素直に受け入れられない台詞を吐いた。
 呆然と―――アマゾンを省いた―――五人が見送る中、筑波は軽い足取りで一也の脇を通りリビングを後にした。彼の言葉をそのまま受け入れるなら、彼は入浴する為の準備に取り掛かるのだろう。だがしかし―――
「ふ…風呂に入るってのは、それだけの意味として受け取って良いんすかね…?」
 アマゾンの目を自身の手で隠したまま、茂は何とかそれだけを言葉にする事が出来た。
 その向かいで、額に汗をビッショリとかきながら静かに深呼吸をしていた風見が、ゆっくりと口を開く。
「……それだけの意味であって欲しい……」
「それ以外の意味って、まさかとは思いますが―――」
 風見に近付きながら、一也は思わず口にしそうになった単語を呑み込んだ。
「多分、……そうなんでしょうね……」
 最後に絶望的な呟きを残し、敬介はそのまま後ろに倒れこんだ。
 思わず風見と茂と一也は心の中で合掌した。
 その様子をジッと観察していた一文字が、読み終わった英字新聞をたたみながら大きなため息を吐き、全員に聞こえるような大声で―――ワザとそうしたわけだが――――独り言のように呟いた。
「俺も今から風呂に入ってくるかな〜?」
 残りの三人が再び固まったのは言うまでもない。

 

 

 

 終


今回のテーマ(?)はズバリ“高校生のようなカップル”
なんじゃそりゃって感じでしょうが、私の筑波×一文字のイメージがソレなのです(あ、筑波が鬼畜ヴァージョンなら違いますよ/笑)。
イメージとしては健全なお付き合い(美術館でデート)だったんですが………微妙におかしいですね…。
一文字さん受けって、相手が本郷さんだとなかなか一線がこえられないくせに、
本郷さん以外だとあっさりこえられるのは何故でしょう???(苦笑)

今回結構書きなおしたので(最初はシリアスだった)、その内完成させてUPしたいですね。

で、まぁ、こんなバカップルでもいいでしょうか、相良さま?

 

 

2003・02・02

 

 

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