7月も半ばを過ぎ、本格的な暑さが日本列島を襲っていた。それは仮面ライダー達が住む本郷邸も同じで、うだる様な暑さに改造人間である彼等も少々参っていた。
 ほんの数名を除いて―――。
「本郷、ハヤク♪」
「あはは、そう急かすな」
 太陽が容赦なく照りつける本郷邸中庭で、楽しげに遊んでいる人影がふたつ。本郷邸家主であり、仮面ライダーのリーダーである本郷猛と、赤ん坊の頃から熱帯で育ってきたアマゾンこと山本大介だ。
 二人共暑さなど感じていないのか、汗すらほとんどかいていない。
 そんな二人を眺めている人物が、中庭の端にある木陰の下で寛いでいた。仮面ライダーの副リーダーである一文字隼人と、深海開発要員という職についている神敬介の二人だ。
 手に持っている団扇で自身に風を送りながら、一文字は敬介を振り返った。
 元気に駆け回って遊んでいる二人を指差し、呆れ顔で言う。
「なんであんなに元気なんだろうなぁ…」
 一文字の言葉に苦笑をもらし、敬介は流れる汗をタオルで拭いた。
「アマゾンはここより暑い所で育ってきたらしいですからね。これくらいの暑さなんか関係無いんじゃないですか?」
「それは解る。南米なら行った事あるからな。俺が疑問に思うのは本郷の方だ。アイツはずっと日本で育ってきたのに、何であんなに強いんだ?」
「生まれつきなんじゃないですか?」
「…そういばアイツ、寒さにも強かったな。………遺伝子レベルで強いのか?」
 真剣に考え出した一文字に、敬介は、
「さぁ、どうでしょう?…」
 とだけ、曖昧に答えておいた。
 ―――と…。
「ホ〜ンゴ〜♪」
「わっ?!」
 不意に聞えてきた声に、一文字と敬介は視線を移した。暫らく眼を離していた隙に、本郷とアマゾンは中央部分の芝が生えている辺りで座り込んでいる。
 そこで座っている事自体は問題ないのだが…
「…はぁ?!…」
 素っ頓狂は声を出して、一文字と敬介は固まった。
「こらこら、そんなに暴れたら危ないぞ!」
「ダイジョウブ!」
 木陰で一文字と敬介が固まっている事など知らずに、本郷とアマゾンは楽しそうに遊びの続きをしている。
「…何してんだ…」
 上半身裸になったアマゾンが本郷の上にのっかり騒いでいる光景を、呆然と眺めながら一文字は呟いた。
「…じゃれあってるだけだと思いますが…」
 一文字と同じくその光景を呆然と眺めていた敬介が、今度は一文字を恐る恐るといった感で視界に入れる。何せ、本郷と一文字は―――
「当たり前だ」
 瞬きもせずに一文字は言い切った。それから意識的にだろう、ゆっくりと息を吸い込むと、今度はゆっくりと吐き出した。何度かそれを繰り返しているうちに、固まっていた視線が本郷とアマゾンからそれていった。
 完全に落ち着きを取り戻した一文字は、何事もなかったように木々の間から漏れる太陽の光を見上げた。うんざりした様子で口を開く。
「暑いなぁ…」
「そうですねぇ…」
 一文字が現実逃避をしているのだろうと思い(実際似たようなものだ)、敬介は一文字に調子を合わせた。それで一文字の心が穏やかでいられるのなら安い物。
 しかしそれは無駄な努力だった。
「わぁ!」
 またまた聞えたきた声に、反射的に一文字と敬介は振り返った。
 そして、
「なっ…?!」
 飛び込んできた光景に絶句する。
「本郷、ドウダ?」
 アマゾンが本郷を芝生の上に押し倒している。どう見ても押し倒しているようにしか見えない。更に、アマゾンはワクワクしながら本郷に手を伸ばし、
「わはははははは」
 くすぐっていた。
 どうやらツボに嵌ったらしい本郷の笑い声が、決して狭くない本郷邸中に響いている。
 本人達は、先程までと同じノリで遊んでいるつもりだろうが、傍から見ればアマゾンが本郷を襲っているようにしか見えない。
「……………」
 敬介は一文字の顔を盗み見た。
 一文字は本郷とアマゾンを凝視したまま、苦悶しているようだった。
 さもありならん。
 一文字と本郷は仲間公認の付き合いをしている。親友&相棒としての付き合いは長いが、恋人同士となってからの付き合いは、その長さから比べると短い。まだ始まったばかりといって良いだろう。後輩達は、二人の先輩はキスもまだだろうと踏んでいる。
 それなのに、アマゾンが本郷を押し倒している。
 彼に悪意がない事は明白。それが解らない一文字ではない。だが、今の光景は快く受け入れられないだろう。理性では解ってはいても、感情が拒否反応を示す。本郷が笑顔でいるから余計複雑な心境になってしまう。
 心の狭間で一文字は悩みに悩んでいるに違いない。
 そんな事が一文字の心の中で起こっているとは露とも知らず、問題の張本人達は嬉々として遊びを続けている。と、アマゾンが新たな部分に手を伸ばした。
「コレハドウダ♪」
「…うっ!」
 それまでとは違う声が本郷の口から漏れた。
 それに反応する一文字と敬介。
 動かなくなった一文字に、敬介は恐る恐る手を伸ばした。
「…あ、あの、一文字さん…?」
 敬介は心配した。これから起こり得る状況を想像し、一瞬ぞっとする。その想像を打ち消すように、敬介は軽く頭を振った。
 しかし、そんな心配を他所に一文字はにっこりと笑った。
「…え?」
 事態が呑み込めず敬介は混乱した。
 何も言えずオロオロしている敬介に、一文字は団扇で風を送ってやった。
 いつもの調子で口を開く。
「大丈夫か、敬介。口が半開きになってるぞ?」
「…え、って…一文字さんは大丈夫なんですか?」
 不思議に思い、つい聞いてしまった。敬介が後悔する前に一文字は問いに答えた。
「俺は大丈夫だよ。何も心配する必要は無い」
「本当ですか…?」
「本当だ。だいたい俺のどこが大丈夫じゃないって言うんだ?」
「それは……」
 一文字に逆に問われ、敬介は思わず口ごもった。今目の前にいる一文字は現実逃避もどきをした時の、あの不自然な感じはしない。っという事は、葛藤の末、一文字は寛大な方を勝ち取ったのだろう。流石2号。数々の戦いで培った精神力は並ではないらしい。
 安堵の息をもらし、敬介も笑顔に戻った。
「そうですね。何も心配する事はなかったんですね」
「そうだよ」
 急に可笑しさが込み上げて来、敬介は一文字と共に笑った。
 しかし、問題が解決したわけではなかった。
「本郷、楽シイカ?」
「あ…ああ。……んっ…」
 後方から聞えてくる異様な空気に、一文字と敬介の笑顔が凍りついた。振り返って見てみると、本郷の様子が更におかしくなっていた。息が荒くなり、頬が紅潮している。そしてその表情といったら―――。
 一文字は一筋の汗を流した。
「…止めにくぞ…」
「…はい」
 敬介が静かに同意すると、二人は中庭で怪しい行為に及んでいる事に気付いていないアマゾンから本郷を引き離す為に全速力で駆け出した。

 


      ●      ●      ●

 


「お前も嫌だったらそう言えよ…」
 頬を膨らまし、一文字は言った。
 ドアをはさんだ向こう側から、本郷のくぐもった声が聞える。
「っと言われてもなぁ。アマゾンに悪気は無いんだ」
「それは俺だって解ってるよ」
「…そうだな」
 本郷の自室のドアの前で、一文字は廊下にしゃがみ込んだ。
 どうして本郷はこうなんだろう?それが駄目だとは言わないが、時々対応に困る。
 自分の部屋で着替えをしている本郷の声が少し鮮明になった。着替えが終ったのだろう。
「…だがな、一文字。俺は―――」
 一文字は立ち上がった。そのままの勢いでドアを開け放つ。
 今まで声が不鮮明で気が付かなかったが…。
「どうしたんだ???」
 一文字の表情を見咎めて本郷は言った。
 しかし、そんな事などおかまいなしに一文字は本郷に近付いた。戸惑っている本郷の顔を凝視する。そして―――
「は…隼人?!」
 本郷をベッドに押し倒した。
 慌てふためく本郷を他所に、彼自身に手を伸ばし確信する。
「やっぱり…、辛かったろう?」
「な…何の事だ…?」
「惚けるな。今楽にしてやる」
 と言うと、本郷の返事も聞かずに彼の服を剥ぎだした。
 流石に慌てる本郷。
「隼人!何をするんだやめろ!!」
 一文字は手を休める事無く顔だけ本郷に向けた。
「…アマゾンには言わなかったくせに俺には言うのか……。ま、いいか。安心しろ。楽にしてやるだけだ。それ以上はしないよ」
「それ以上ってお前―――」
 一文字の行動を止めようと、本郷は一文字の肩を押しのけた。嫌、押しのけようとした。だがそれは無理だった。一文字の身体は微動だにしない。
「お前がその気になってくれるまで俺は待つ。だからしない。安心しろって」
 にっこりと笑うと、一文字は本郷自身を口に含んだ。
「は…隼人…!」
 アマゾンに触られた事により高ぶっていた本郷自身が、一文字が与える愛撫により更に膨張する。どうしようもない快感と気恥ずかしさでだろう。本郷は一文字の頭を乱暴に掴んだ。
 しかし一文字は愛撫の手を止めない。軽く歯を立てたり、裏側を刺激したりしながら本郷を解放へといざなう。
 腰を中心にして広がる快感に、本郷の腰が僅かに浮いた。
 そして―――
「…っう…」
 開放感と快楽に、本郷の目から涙がこぼれた。やっと本郷から離れた一文字がその涙をふき取る。
 放心したままの本郷の身体を綺麗にし服を着せると、一文字は本郷を引っ張り起こした。本郷の頬を軽く叩き、彼を現実に引き戻そうとする。
「どうだ?楽になったか?」
 微笑を浮かべ一文字は言った。
 やっと開放感と快楽から引き戻された本郷は、一文字を睨みつけた。唸るような声で口を開く。
「隼人…、お前って奴は…」
 本郷に睨みつけられても一文字は笑顔のままだ。
「そう怒るなよ。でも楽になっただろう?」
「…そ、それは…」
 思わず口ごもる本郷。そんな様子に一文字は満面の笑みになった。
「楽になったんだな?ならそう言えよ。人間素直が一番だ」
 一文字は立ち上がると、ひとつ伸びをした。それから本郷を振り返り、
「じゃぁな。夕飯までには下りてこいよ」
 と言うと、部屋を後にした。

 


      ●      ●      ●

 


 一文字が去った後も、本郷は暫らく呆然としていた。ほんの数時間の間に起こった事が衝撃的過ぎて処理しきれない。
 昼過ぎに中庭でアマゾンと遊んでいた時は、こんな事になるとは想像もしていなかった。まだ残る快楽の余韻に先程の事を思い出し顔が赤くなる。とても信じられない事だった。まさか一文字にあんな事をされようとは…。
「…それにしても…」
 ふとした疑問が本郷の脳裏をかすめた。
 顎に手をやり首を捻る。あの態度。あの物言い。どれをとっても―――
「隼人は他にも誰かとやった事があるんだろうか?」
 夏の日差しが本郷の部屋にも差し込んでいる。
 夏の本番はまだまだこれからだ―――。

 

 

 

 終

 


 風見志郎の次は本郷さんが大変な目に…!(笑)アマゾン×本郷なんてマイナーもいいところなカップリングに始まり(アマゾンにその自覚は無いが)、最後は王道(?)はやたけで終りました。一粒で二度美味しい☆★☆(大嘘)
 今回は一文字さんが頑張って本郷さんとの仲を一歩前進させました。が、いいんでしょうかねぇ?こんなん書いて。今更って感じもしますが、ちょっとドキドキしております。当初の予定から離れちゃったし。最初は風見×本郷で行こうとも思いましたが(下克上/萌)、そうすると風見志郎出演率が半端でなくなるので、逆に出演率の少ないアマゾンと敬介を出すことにしました。…って、こんなんでどうでしょうか?

 

 

 

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