たまには素直になれよ…。
 自分の中にある“――”のおもむくままに…さ。

 


      ●      ●      ●

 


「駄目だ」
 本郷猛は言った。
「駄目なのか?」
 一文字隼人が真剣な表情で問う。それに、本郷は無言で頷き返した。
「じゃ、俺達はずっとこのままなのか?!」
 叫び声に近い声で問い、滝和也は身を乗り出した。それにより一文字の身体も傾く。思わぬ体重移動に二人のバランスが崩れ、一文字と滝は研究室の寝台から落ちそうになった。
 二人の身体を支え、本郷が詳しい説明をする。
「【ショッカー】の事だ。治す方法も無しに大々的に使う筈がない。奴等の目的は世界征服だからな。かならず奴等の基地に、あの光線を無力化する装置がある筈だ。それがなくても光線を出した機械さえ手に入ればなんとかなるだろう」
「…そうだな」
 本郷の説明で落ち着きを取り戻し、滝はため息と一緒に言葉を吐き出した。
「じゃぁ、今から【ショッカー】秘密基地へ?」
 と、体勢を立て直してから一文字。
「ああ。基地の場所は既に突き止めた。一気に乗り込み方をつけようと思う」
 本郷は着ていた白衣を脱ぎいつもの場所にかけると、研究室から出る為、ドアのノブに手をかけた。振り向き、一文字と滝を視界に入れる。
「一応念の為に結城を置いていくが、ここから出ないで欲しい」
 本郷の申し出に、滝が意外な表情をした。
「え?俺達はここで留守番なのか?」
「当たり前だろう?それで戦うつもりなのか?」
「…そ、それは…」
「それじゃ行ってくる」
 そう言うと、本郷は研究室から出てドアを閉めた。

 


      ●      ●      ●

 


 事の起こりは朝のニュース。
 TVで流される一般的なニュースは、悪組織と戦う彼等にとっても大事な情報源の一部だ。毎日食事をとる時に、彼等はニュースを見る事を日課としていた。
 今朝流れたニュースはどう考えてもおかしかった。
 ニュースキャスターの声が、現実とは思えない光景をバックに淡々と流されていた。
『昨夜から、都内のあちこちで人と人がくっついて離れないという異常事態が起こっています。今の所原因は不明ですが、専門家の話しによると―――』
 病院の椅子に、くっついて離れなくなった人達が途方に暮れて座り込んでいる。
 明らかに異常。明らかに現代の科学では起こりえない現象。
 本郷達は即座に悪組織の仕業と判断。早速調査に乗り込む事にした。仮面ライダー七人に加え、FBI特命捜査官である滝和也も捜査を開始。被害者が全員、くっつく前に謎の光を目撃している事を知り、その発生元を探す為に二人一組で広範囲を捜索する事になった。
 本郷猛と城茂。風見志郎と結城丈二。神敬介とアマゾン。
 そして、一文字隼人と滝和也。
 一文字と滝が、ある被害者達が光を見たと証言した草原で捜索中、彼等もその光を目撃してしまった。気付いた時には、二人の身体は被害者達と同様、背中でくっついて離れなくなっていた。
 すぐさま本郷に連絡し、本郷邸の研究室で調べてもらったのだが、知能指数600という本郷の頭脳でも、一体どういう理論でくっついているのか解らなかった。
「…はぁ、いつになったら離れられるんだ…?」
 研究室に閉じ込められた滝は、寝台の上で胡座をかきぼやいた。
 背中あわせでくっついている一文字が、滝の方へ顔を向ける。
「まだそんな事言ってるのか?本郷達を信じて待ってれば良いじゃないか。あいつ等なら大丈夫だ」
「そんな事は解ってるよ。だけどな、今は夏だぞ?暑っ苦しいだろ?」
 怒られて拗ねた子供のような表情を作り、滝は文句を言った。確かに、ただでさえ暑い夏なのに、人とずっとくっついていなければならないというのは悲惨だろう。実際、くっついている箇所から滝の体温が一文字に伝わってくる。
 一文字は涼しい顔で答えた。
「ここは冷房効いてるから暑くないだろ?」
 コンピューターは熱に弱い。
 故、あらゆる機器が置いてある研究室はいつも一定の温度に管理されている。
「………それはどうだけど、ホレ、気分ってやつだ!」
 滝は直も言い募る。
 そんな滝に一文字は怪訝な表情をした。
 一体何をそんなに嫌がる必要があると言うのだろう?汗をかく程暑くもないし、頼もしい仲間の手により事件解決も間近…。嫌がる理由など見当たらない。嫌、むしろ一文字は今の状況を心底嬉しく思っているのに。それに滝だって先程から―――
(あ…だからか…?)
 一文字は唐突に閃いた理由に、目を大きく見開いた。
「もしかして、滝。お前…」
「…なんだよ?」
 一呼吸置いて答える。
「俺とくっついてるのが嫌なのか?」
 一文字の言葉に、滝は狼狽した。明らかに。
「な…なんでだよ?!」
 その反応に一文字は確信した。
(やっぱり。しかし、滝らしいというか何と言うか……)
 嬉しさがこみ上げてきて、知らず知らず顔が緩む。
(ま、なかなか無い機会だから…)
 首を傾け天井を見上げる。が、見てはいない。全身の神経と言う神経は、全て滝に注意が向いている。彼の反応を全て見逃さない為に。
 声に気持ちが現れないよう注意しながら、一文字は口を開いた。
「そうとしか考えられないだろ?アマゾンや敬介とくっついたとして、こんなに嫌がるか?お前は?」
「そ…それは…」
 一文字は滝に解るよう、盛大にため息をついた。
「やっぱりなぁ…。滝にそんなに嫌われてたなんて……知らなかった…」
 両肩を落とし、大袈裟に呟く。少しやりすぎたかと一文字は思ったが、滝の反応がそれを否定した。
 滝は慌てて両手を振った。背中あわせでくっついているので一文字にそれを見る事はできないが、滝の身体の動きで、彼が手を振った事を知る。
「違う!そうじゃなくて…つまり…」
 どう言って良いのか解らないのだろう。しどろもどろになりながら、滝は必死に何か言おうと口を動かした。
 その様子に微笑をもらし、一文字は先を促す。
「つまり?」
「その……つまり…俺は…お前と……だな…くっついてると…」
「緊張する?」
 一文字は努めて冷静な声を出した。それをどう受け取ったのか、滝は更にしどろもどろになった。混乱しているようにも思える。
(…面白い…)
「嫌―――そうだ…けど、それは理由があって……」
 どうやら滝は冷や汗をかいているらしい。そういう反応が可愛いというか何と言うか……時々彼が同年代に見えない理由だ。
 一文字は滝に聞えいないよう笑い声を出すと、良く通る声で本音を言った。
「俺は嬉しいんだけどなぁ」
 正に本音だった。
 今の状況を心底嬉しく思っている理由―――それは、
(好きな人である滝の体温をずっと感じていられるから…)
「なっ…何言ってんだ…!お前は!!」
 更に狼狽し、滝は叫んだ。
 そんな事などおかまいなしに続ける。
 一文字の気持ちをいつもはぐらかす滝に、ここぞとばかりに思いを叩きつける。
(…それに、滝。お前だって―――)
「嬉しいぞ。何の臆面も無く、惚れてる滝にくっついていられるなんて、そうそうある事じゃないからな」
(お前だって、たまには素直に自分の気持ちを言ったらどうだ?)
「あのなぁ…!」
 滝は何かを言おうと口を大きく開きかけたが、寸での所で思いとどまったようで、身体を震わしながら静かに息を吸い込んだ。
 震える声で、問う。
 ひとつひとつ言葉を噛み締めるように。
「…何でお前は、そう…恥かしい事を平気で言えるんだ?…」
 滝の体温が数分前より若干上がっている事に気付きながら、一文字は答えた。
 サラリと。
「自分の本心を言うのに、何故恥かしがらなきゃいけないんだ?」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜…!本心だから恥かしいんだろ?!」
 ぐるりと顔を一文字の方へ向け、滝は絶叫した。
 だが―――
「…………」
「わぁっ?!」
 急に身体が宙に浮き、滝は足をばたつかせた。
 滝の動揺などどこ吹く風と、一文字は納得顔で頷く。
「やっぱり座ったままじゃ無理だな」
「な…何が?!」
 突然の事にまだ付いていけない滝に、一文字はにっこりと笑って見せた。その表情をちゃんと滝が見たかどうか一文字には解らないが、寝台の上で立ち上がった彼は、滝の身体を器用に両手で掴んだ。
「滝。ちょっと大人しくしてろよ」
「だから何がだ?!」
 一文字がしようとしている事を全く理解できていない滝を無視し、一文字は手を動かし、滝の身体を少しずつ移動させた。
「…は…隼人ぉ?」
 謎の光線を同時に浴びた者達は、お互いの身体が胴体部でくっつき離れなくなってしまう。しかし、離れなくなっても、体勢を変えられない訳ではなかった。大概の者が背中でくっついているのは、彼等がくっつく時にそれに抵抗しようと反対側に逃げ出した為逆方向に向き合い、その状態のままくっついてしまったからだった。
 それは一文字と滝も同じだった。
 しかし、身体を器用にずらせば向きは変えられる。
 一文字は、今、それをしていた。
「―――よし、これでいい」
 暫らくして、一文字は満足気な声をもらした。
 その声に重なるように―――
「はぁぁっ?!」
 滝の絶叫が研究室に木霊した。

 

      ●      ●      ●

 

 勢い良くドアを開けて、本郷猛と風見志郎と結城丈二は研究室になだれ込んだ。
「一文字!滝!」
 大きな銃らしき物を抱えている本郷が二人に呼びかける。
 それを床に置きながら、本郷は後輩二人を背に説明を始めた。
「少し時間がかかったが、人体接着光線銃―――あの光線を出す機械の事だが―――を取ってきたぞ!ここのスイッチの切り替で、人体接着光線を無効化する光線が出るんだ!」
 スイッチの部分を指差しながら本郷。
 腕を組み、大きく頷きながら先を続ける。
「作戦名は『灼熱地獄作戦』。指揮官は地獄大使だった。真夏の暑い時期に人々の身体をくっつけ、地獄のような灼熱の苦しみを味あわさせる作戦らしい。更に人々がくっつく事により、社会を大きな混乱に突き落とし、その混乱に乗じて都市の乗っ取りを企んでいたようだ。実際、これ以上被害が広がったら地獄大使の……嫌、【ショッカー】の思いのままになった事だろう。だが―――」
「本郷先輩…」
「何だ、志郎?」
 急に声をかけられ、本郷は説明を中断し振り返った。
 先程から黙って本郷の後ろに従っていた風見が、いたく沈んだ表情で立っている。同じような顔を、風見の隣に立っている結城もしている。その事を怪訝に思い、本郷は眉根を寄せた。
「どうかしたのか?」
 風見は結城と一度顔を見合わせると、本郷の肩越しを指差した。
 ポツリと言う。
「聞いてないようですが…、先輩の説明…」
「ん?」
 促される形で振り返った本郷の目に―――
「は〜な〜せ〜!」
「いい加減諦めたらどうだ?」
 後ろから滝に抱きつく形でくっついている一文字と、それをはがそうと無駄な努力に全力をかけている滝の姿が飛び込んきた。
「……………」
 暫らくそれを観察した後、本郷は結論を出した。
 あっさりと。
「無効化光線は必要ないようだな」
「一人だけですがね…」
「はははは…」
 風見の呟きと結城の笑い声が届いたのか届いてないのか―――とりあえず、本郷は人体接着光線銃を持ち上げると、二人を伴い研究室を後にした。
 ドアが閉まる直前、
「待て、本郷!助けてくれぇぇぇぇ!」
 滝の悲痛な叫びが本郷邸中に響き渡ったが、誰も相手にしなかった…。

 

      ●      ●      ●

 

 たまには素直になれよ…。
 自分の中にある“熱”のおもむくままに…さ。

 

 

 


 ここ暫らく季節モノが続いております。っという訳で、季節モノ第三弾!夏なのに最初から最後までくっついてますよー、この二人は!!冷房効いてる所にいるんで、体感温度は大して高くないはずですが、色々と精神的におこっているから、滝さんの体感温度は一文字さんより10度は高目なのではないでしょうか???
 一文字×滝になると、滝さん素直に愛の告白なんてしてくれないだろうなぁ…っと思うんです、私は。私の中での滝さんの性格は『江戸っ子』だし。嫌、第十四話での「てやんでぇ!」って台詞をサボテグロンに吐いた時に、そう決定しました。あなた本当にアメリカから来たんですか?

 

 

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