仮面ライダー1号・本郷猛には悩みが有った。
一文字「だから、それはしょうがない事だって言ったろ。気にするな。胃に穴があくぞ」
本 郷「頭では理解しているんだが、心がなぁ・・・」
本郷の部屋のベットの上で、仮面ライダー2号・一文字隼人は呆れた顔をした。
一文字「困ったやつだなぁー」
本 郷「・・・・うむ」
一文字「オイオイ、落ち込むなよ」
(言い方やばかったか?)
一文字は本郷の事を良く知っている。
彼の性格が少し真面目すぎて、深刻なムードに陥りやすい事も知っている。
こういう時の対処法はただひとつ。
周りの雰囲気を明るくする事だ。
一文字「俺は別に気にしてないんだから良いじゃないか。な?」
本 郷「しかしだな・・・いつもいつも・・・その・・・お前につらい方を・・・」
一文字「あ―――まぁ、つらくないと言えば嘘になるけど、慣れたし。改造されているからお前が思っている程痛い訳でもない。俺だって充分楽しんでいるんだぞ」
本郷に笑顔を向けて一文字。
その笑顔は、人を安心させる力を持っていた。
本 郷「・・・・・・お前がいてくれて良かった・・・」
一文字「そう言ってくれると嬉しい―――ヨッ!」
ドシ★
本 郷「ヴッ!?」
一文字は本郷の腰の上に飛び乗った。
本郷の呻き声に一文字は笑い出した。
本郷もつられて笑い出す。
本 郷「はははははは・・・」
一文字「あははははは・・・」
薄暗い部屋の中で笑い声がこだまする。
ベットの上の本郷の上で、一文字は今度は仰向けになった。
また、本郷の口から呻き声が漏れた。
一文字「なぁ、本郷」
本 郷「ん?」
一文字「俺達は改造人間だ」
本 郷「・・・ああ」
一文字「だが、脳改造はされてない。脳と心は普通の人のままだ。そうだよな?」
本 郷「・・・ああ、そうだ」
一文字「だから普通の人間が持っている三大欲求も持っている」
本 郷「普通の人間が持っている・・・」
一文字「ああ、おやっさんも滝も持っている。そこらを歩くショッカーの存在をさえ知らない人も持っている欲求だ」
本 郷「・・・・・・・・・」
一文字「この腕も足も人工筋肉だ。おやっさん、滝・・・皆には無い。けど、俺達だって人間なんだ。生きて、明日のために自分に出来る事を精一杯やっている人間なんだ。自分の頭で考えて、自分の心で感じる人間なんだ」
本 郷「自分の心で感じる・・・」
一文字「ああ」
本 郷「・・・・・」
一文字「・・・」
本 郷「・・・そうだな」
一文字「・・・ああ、そうだ!!」
本 郷「!?隼人???」
一文字「だから性欲が抑えきれなくなっても仕方ないんだ!なんたって健康な男子なんだからな!!」
本 郷「はっ隼人!!」
一文字「あはははははは・・・」
本 郷「隼人!!」
ガシ!
一文字「むぐっ」
本郷に引き摺り下ろされ、一文字は口を両手でふさがれた。
一文字「むがふが」
本 郷「今何時だと思っているんだ!?」
一文字「・・・ふまん(すまん)」
本 郷「うむ・・・。分かれば・・・」
一文字「いふまへほはへへんほ?」
本 郷「ん?」
一文字「いふまへほはへへんほ?」
本 郷「何だ?隼人?」
一文字の目線が己の口元へと――――。
本 郷「あ!!すまん」
本郷は慌てて両手を離した。
一文字「いつまで抑えとくつもりだったんだ?」
本 郷「特に決めてはいなかった・・・すまん」
一文字「・・・・フ」
本 郷「?」
一文字「本当に良い奴だな。お前は」
ギュウ☆
本 郷「い―――っ一文字!?」
一文字は本郷の首に腕を回して抱きしめた。
耳まで赤くなる本郷。
一文字「心臓の音が聞こえる・・・」
本 郷「・・・あぁ。聞こえる」
一文字「俺達は人間だ。・・・猛」
本 郷「・・・・」
一文字「人間なんだよ・・・」
本 郷「・・・・」
一文字「人間なんだ・・・」
本 郷「・・・隼人」
―――人間でありながら人間でない悲しみ―――
それは、ショッカーに改造されてしまった、人の心を持つ者―――仮面ライダー・本
郷猛と一文字隼人の心の奥底に渦巻く黒い靄。
普段、そんな心の闇を持たぬかのように明るい一文字にも、それは確実に存在
していた。
終
|