「美川隊員、ちょっといいかな?」
勤務時間を終え、着替える為にロッカールームへ向かおうとしていたTAC隊員美川のり子を、同じTAC隊員である北斗星司は呼び止めた。
「どうかしたの?」
振り返るなりそう問われ、北斗は思わず苦笑をもらした。
「解る?」
「ええ。困ってるんでしょ?」
微笑をたたえて更に問いを投げてくる美川に、北斗は苦笑したまま頷いて肯定した。
「そうなんだ。…それで、ちょっと相談に乗って欲しくて…ね」
と言いながら、北斗は美川を促して歩き始めた。できるだけ人気のない所―――TAC基地内にある使われていない会議室(小)に入り、きっちりと並んでいる椅子のひとつを美川に勧めた。自分もその隣に腰掛け、北斗は本題にはいる為に一度咳払いをした。
「え…と、その驚かないで欲しいんだけど…」
「何?」
美川にどんな反応をされるのか恐くなり、北斗は少し話す事を躊躇った。だが、このまま黙っているわけには行かない。他にも言いづらい事がまっているし、彼女なら馬鹿にせず聞いてくれる気がして声をかけたのだから。
北斗は思い切って口を開いた。
「俺、実は―――隊長と付き合ってるんだ…」
「知ってるわ」
一瞬の沈黙。
「……え?……」
混乱のままに、思わず聞き返す北斗。そんな反応は予想の範疇外だ。
目が点になっている事を自覚さえしていない北斗に、美川はにっこりと微笑を向ける。
「傍にいれば解るもの」
「そ…そう…?」
そんなものなんだろうか―――不思議に思いながらも、北斗は気を取り直して続きを説明する事にした。もう一度咳払いをする。
「そ…それで、相談に乗って欲しい事なんだけど。俺、この間山中隊員と―――」
「に、ヤられちゃったんでしょ?」
又々、一瞬―――嫌、数秒の沈黙。
「……え…?…」
大混乱のままに、冷や汗を流しながら聞き返す北斗。そんな反応なんて予想の範疇内外以前の問題だ。
目が、点どころではなく消えてなくなっている事にも気付かない北斗に、美川は相変わらず美しい笑顔を向けていた。
「傍にいれば解るもの」
「そ…そうなのか???」
咽喉を引きつらせながら、北斗は再び問い返した。とてもそんな理由で納得などできない。
だが、そんな北斗とは対照的に、美川は問題点など何も無いと言わんばかりの笑顔で、
「ええ、匂いで解るのよ」
と言い切った。
結局、困っている事を美川隊員に相談できないままに終った北斗は、彼女のウルトラマAを(ある意味)超える能力にただひたすら恐怖するのだった。
終
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