「お兄ちゃん、朝よ!早く起きないと遅刻しちゃうよ!!」
 キャットタウンの外れに住む猫のニャーゴは、毎朝枕もとに置いてある目覚し時計と妹のミーコに起こされる。目覚し時計だけでは起きられないからだが、それには彼なりの理由がある。それは誰にも言えないのだが―――
「きゃー☆ニャンダーかめんだわ♪」
 一階のテーブルにつき、食パンにかじりついているニャーゴの耳に、ミーコの黄色い声が響く。何となく視線をミーコが見ているTVに移すと、そこには『人気者ランキング』で常にTOPを独走している、赤いかめんに赤いマントをひるがえした正体不明のニャンダーかめんが笑顔で立っていた。
「ニャンダーかめんってやっぱり格好良いねー♪ ね、お兄ちゃん」
 昨夜のニャンダーの活躍を、キャスター・ミケが元気よく紹介している。ニャンダーが現れ出してから毎朝のように繰り返されている、見慣れたと言えば見慣れた光景。
「……そうだね…」
 気のない返事を返し、ニャーゴは食パンの最後の一欠けを口の中に放り込んだ。兄の気のない返事に、ミーコは気分を害し、両頬を膨らました。
「もう、お兄ちゃんたら!ニャンダーかめんは今日も一位だったんだよ!?」
「『人気者ランキング』の事ぉ?別に誰が一位でもいいじゃない…」
 テーブルの端に置いていたランドセルを肩にかけながら、ニャーゴはポツリと呟いた。そこに誰にも言えない彼の本音が隠れているのだが、勿論ミーコには解らない。年のわりにしっかり者の妹は、大きく首を左右に振り兄の言葉を否定した。
「違うわよ!『人気者ランキング』じゃなくて―――」
「…『人気者ランキング』じゃないの…?」
 まさかそこが否定されるとは思っていなかったニャーゴは、思わず目を見開いてミーコを見返した。ニャーゴを驚かした当の本人も、何やら目を見開いて両手で口を押さえている。
「ミーコ…?」
 不思議に思い、固まってしまった妹に近付くニャーゴ。だが、ミーコは素早く立ち直ると、眉を吊り上げ時計を指差した。
「お兄ちゃん!早く行かないと遅刻するわよ!!」
「本当だ!早く行かなきゃ!」
 飛び上がるように驚いたニャーゴは、そのまま大急ぎで学校に向かって走り出した。ドタバタと大きな音を響かせ走り去ったニャーゴの耳には、勿論、
「…危なかったぁ…。あの番組見てるなんて解ったら怒られるもん…」
 ミーコのそんな呟きなど届きはしなかった。

 

       *      *      *

 

「ふ〜、間に合ったぁ〜」
 額の汗を拭いながら、ニャーゴは机の上にランドセルを下ろした。時計の針は八時二十分。教室の中はクラスメート達のお喋りで賑わっている。
 ニャーゴは早速ランドセルの中から教科書やノートを取り出し机に移しはじめた。
 そこへ、なにやら聞こえてくるヒソヒソ話…。
「ね?見た?またニャンダーが一位だったわね♪」
「アッタリ前だろ、ニャコちゃん!だってニャンダーだぜ?」
「でも、ほら、二位に…」
「ああ。ニャンダーでもちょっと危ないかもな〜。キャッチンはどう思う?」
「私の計算ではニャンダーが抜かされる事は100%ないでしょう。しかし…」
「しかし〜?」
「並ぶ事はないとは言い切れません」
「ねぇ、何の話?」
「わ?!ニャーゴ!?いつ来たんだぁ?!」
 教室の隅でコソコソ話していた、クラスのマドンナ・ニャコにガキ大将・ニャンタ。そして博士のキャッチンは、急に話に割り込んできたニャーゴから文字通り飛びのいて驚いた。ニャーゴに人さし指を向け、口を金魚のようにパクパク開閉している。
「…どうしたの…?」
「どうしたのじゃないぞ!いきなり出てくんなよ!」
「そんな事言われても…」
 ニャンタの思わぬ逆ギレに、ニャーゴもどう返して良いのか解らず後退した。と、すかさずニャンタの両隣からニャコとキャッチンが彼をなだめにかかる。
「まぁまぁ、ニャーゴに悪気はないんだから。ね?」
「そうですよニャンタ君。それに君はニャーゴの―――」
「それを言うんじゃねぇ!!」
 と、慌てた様子でキャッチンの口を塞ぐニャンタ。ニャコも二人の隣で苦笑していて、キャッチンが何を言おうとしたのか知っているようだ。一人何の事かさっぱり解らないニャーゴは首をかしげながら二人の様子を観察するしかない。
「私とした事が…すいません、ニャンタ君…」
「解れば良いんだけどよ〜」
「まぁまぁ―――あ、予鈴よ。そろそろ席に着きましょう」
 ニャコの言う通り予鈴が鳴り出したので、四人はそれぞれ席につくことにした。自分の席につき、担任のスズコ先生が入って来て朝の会が始まってからも、ニャーゴは一人首をかしげたまま考え込んでいた。
(ミーコといい皆といい、最近ちょっとおかしいよね……何なんだろう?)
 だが、いくら頭を捻ってみても、その答えは解らなかった。

 

       *       *       *

 

 助けての声あるところに現れ、困っている人達を助けてくれるレスキュー・キャット=ニャンダーかめんの正体は、スポーツも勉強も不得意だけど誰よりも心優しい小学生ネコのニャーゴ。それは誰も知らない―――知られてはいけない秘密。友達のニャコ・ニャンタ・キャッチンにも。妹のミーコにも。
 ネコ仙人から与えられたかめんとマントを身につけて、今日もニャンダーは空を飛ぶ。
「もう大丈夫だよ」
「ありがとうニャンダー!」
 澄んだ青い空を飛びながら、ニャンダーかめんは助けたばかりの少年に笑顔を見せた。先程まで木の上で震えていた少年も、その笑顔に気持ちがほぐれた様子で笑っている。
「もう、一人で下りられない所まで登っちゃダメだよ」
 少年を安全な場所で降ろし注意すると、少年も笑顔でそれに答えた。
「それじゃ、気を付けてね」
 ふわりと空に舞い上がり、ニャンダーは少年に別れを告げた。
 そのまま自宅に向かって飛んでいると、山猫山の周りにあるニャンウッドの森の方から、何かが物凄い勢いで飛んで来る気配に気付いた。思わず止まり、身構えるニャンダー。
「…何だ…?」
 不穏な気配に目を凝らしていると、その気配の主が一気にニャンダーの目の前に現れた。茶色いマントに派手な顔とタテガミ(?)―――自称森の王様・マント屋のマントヒヒだ。その後ろには彼の忠実な部下(?)クモネコも自分の糸で飛んでいる。
「ヒッヒヒヒー♪ニャンダーめ!現れおったな♪」
「クモクモー!」
 やたら嬉しそうなマントヒヒ。それを不思議に思いながらも、ニャンダーはさっさと踵を返した。
「こら!どこへ行く気だ!!」
「どこ…って、帰るんだけど…」
 律儀に振り返り答えるニャンダー。無視した事を不満に思ったのか、マントヒヒは顔を真っ赤にさせ怒り始めた。
「むぅぅ…!王様を怒らせるとはいい度胸だ!そんな貴様にはこうだ!やれ、クモネコ!」
「クモクモクモー!」
「うわぁっ?!」
 クモネコの吐いた粘着質の糸がニャンダーを襲う。何とかそれを交わすニャンダー。しかし―――
「ヒッヒヒヒー♪ひっかっかったな!」
 ニャンダーが移動した場所にはマントヒヒが―――
「しまっ…!」
 強烈な衝撃をみぞおちに感じた瞬間には、ニャンダーの意識は暗い闇の底へと落ちていた。
「ヒヒヒヒヒー♪」
 気を失いグッタリとなったニャンダーを腕に抱え、マントヒヒは満足げな笑みを浮かべた。ニャンダーを見下ろす目が無気味に光る。
「ニャンダーよ。今までの礼を返させてもらうぞ。クモネコ!我が城に帰るぞ!」
「クモモモモー」
 マントヒヒとクモネコの姿は、あっという間に青い空に消えた…。

 

       *       *       *

 

 ニャーゴは道を歩いていた。
 ふと、前方にニャコ・ニャンタ・キャッチンの三人が談笑しているのに気付き、彼等の名を呼びながら手を振った。彼等は振り返りニャーゴを見ると、何故か逆方向へ歩き出した。
 ―――え?皆どうしたの…?!
 慌ててニャーゴは三人の後を追う。が、いくら頑張って走ってみても、三人に追いつくどころかどんどん離れていってしまう。妙な不安がじわじわと心の底から湧きあがり、ニャーゴは思わず涙ぐむ。
 ―――待って…待ってぇ!
 声の限り叫ぶが誰も振り返りさえしない。頭の中を答えの出ない疑問が駆け巡る。自分は知らない内に嫌われる事でもしたんだろうか?それとも、もう、愛想を付かされたんだろうか?
 ―――お兄ちゃん…。
 急に後ろから声をかけられ、ニャーゴは転びそうになりながら立ち止まった。声のした方を振り向くと、そこには妹のミーコが立っていた。その表情は怒りに燃えている。
 ―――ミーコ…。
 嫌な予感がニャーゴの心を覆う。そんな筈ないと思いたいが、そう思い切れない。戸惑いがちに自分を見るニャーゴに、ミーコは普段とは違った淡々とした口調で告げた。
 ―――お兄ちゃんの嘘つき。ニャンダーすてき☆…って言って喜んでる私を見て笑ってたのね。もう、お兄ちゃんのためにホットケーキ焼いてあげない!大っ嫌い!!
「違うんだミーコ!!」
 ニャンダーかめんは勢いよく飛び上がり、そのまま何かに思いっきり頭をぶつけた。
「ウゴォォオォォ?!」
「ったぁ!?」
 二重に重なった悲鳴が薄暗い部屋に木霊する。
 鈍い痛みに顔をしかめながら、ニャンダーは辺りを見渡した。
「…ここは…?」
 部屋…と、言うには少し苦しいかもしれない。壁も天井も床も全て土が剥き出しになっており、光明はどうやら大きく開いた入り口(ドアはない)から差し込む日の光だけのようだ。部屋の中に置いてある物はニャンダーが座っている緑色のソファーに、更にその下に引いてあるこった模様の絨毯。そしてソファーの両脇に置いてある鮮やかな布の入った箱が数個だけだった。
 見覚えは―――ない。
「どうして僕はここに…?」
 痛む頭を手で押さえながら、途切れがちな記憶を手繰る。思うように思い出せず、ニャンダーは目を瞑った。そして―――
「むぅ!もう起きたのか!」
 後ろから聞こえてきた声に反射的に振り返ったニャンダーは、そこにいた人物に目を見張った。それと同時に状況を把握する。
「マントヒヒ?!―――そうか、ここは君の家か!」
「ヒッヒヒヒー♪そうじゃ、王の城にようこそ!ニャンダーかめん!」
 相変わらず尊大な態度でマントヒヒは―――痛むのか、顎を擦りながら答えた。その隣ではクモネコが糸を吐き出している。
「…糸?―――ああ!?」
 ニャンダーは自分の身体を見下ろし、驚愕の声を上げた。
「な…何をする気だ?!」
 ニャンダーの両手両足はクモネコの強力な糸によりソファーに固定されていた。試しに左腕を引っ張ってみたがびくともしない。
 それでも何とか脱出しようともがくニャンダーに近付き、マントヒヒは心底嬉しそうにほくそ笑んだ。
「ヒッヒヒヒー♪無駄な努力は止めい!ワシの言う通りにすれば危害は加えん!」
「言う通りって、僕に何をさせる気だ!」
「ヒッヒヒヒー♪そんなの決まっておろう?結婚式をあげるのじゃ♪」
 ニャンダーにはマントヒヒの言った意味が解らない。思わず呆けた顔で聞き返す。
「結婚式って、誰と誰の?」
 それとは対照的に、嬉々とした様子で答えるマントヒヒ。
「だから決まっておるではないか!ワシとそなたの結婚式じゃ♪」
「あ、何だ。僕とマントヒヒの結婚し…き―――」
 例えるならそれは、底の無い深い穴に重い錘を両足につけられた状態で突き落とされたような気分だった……。
 とにかく今まで味わった事の無いショックを受け、ニャンダーかめんは文字通り固まってしまった。ショックのあまり頭の回転が停止し、どう対処して良いか解らない。
 しかし、マントヒヒはそんなニャンダーの反応を、思いっきり都合の良い方へ解釈した。
「そうかそうか。ワシと結婚するのがそんなに嬉しいか♪そうであろうそうであろう。何と言ってもワシはこの森の王!王と結婚すれば王妃になれる訳だからな」
 一人納得顔でウンウン頷くマントヒヒ。その隣では、クモネコがマントヒヒの頭上目掛けて花を投げ王の結婚を喜んでいる。それが終ると、今度はせっせとニャンダーの周りに花を飾り始めた。色とりどりに飾られていくニャンダー。
「うむ。綺麗だぞ、ニャンダー。それでこそ我が王妃に相応しい…」
 と、暫しうっとりと感慨に耽った後、
「さぁ!善は急げだ!クモネコ、結婚式の準備は済んだな?!」
「クモモモモー!」
「うむ!では早速式を執り行う!」
 マントヒヒはマントの裾に手を突っ込むと、そこから小さな箱を取り出した。薄紫色の、一見しただけで高価だとわかる箱だ。ニャンダーの前にそれを持っていき、うやうやしく蓋を開けるマントヒヒ。
 その中にはキラキラ光る―――
「どうだ、ニャンダー?そなたの為に用意したのだ」
 大きな宝石らしい石が真ん中に飾られた指輪が―――結婚指輪が収まっていた。それを嬉しそうに取り出し、マントヒヒはニャンダーの左手の方へ視線を移した。
「サイズはあうと思うのだが―――」
「って、ちょっと待ってよー!!」
 やっと我に返ったニャンダーは思わず大声で叫んだ。動かせる所を全部動かし、何とかクモネコの糸から逃れようと試みる。その様子を見ながら、マントヒヒは余裕綽々な笑い声を上げた。
「ヒッヒのヒー♪無駄だと言っただろうが。いくらニャンダーでもこの糸からは逃れられん!大人しくワシの王妃になれ!」
 ニャンダーはマントヒヒを見上げた。馬鹿らしすぎて怒る気にもなれない。
「大人しくも何も、僕はマントヒヒと結婚する気なんか全くないし、それに僕は男だよ?結婚できるわけないじゃないか」
「何を言っておる。ワシは王様だぞ?王様が結婚すると言えば結婚するのだ!」
「そんな目茶苦茶な〜。だいたい何で僕と結婚するだなんて…」
「それはだな―――」
 マントヒヒがニャンダーの手をとり、薬指に婚約指輪をはめようとした時、ニャンダーとマントヒヒの上にひとつの影が投げ込まれた。それと同時に響き渡る声。
「ちょっと待つニャー!!」
「誰だ?!」
 マントヒヒが誰何の声を上げた。

 

       *       *       *

 

 町外れにある、子供達がよく遊び場として使用する原っぱの隅のベンチに腰掛け、
「ニャーゴ、どう思ったかなぁ?」
 青い空を見上げながら、ニャンタは幾分気が沈んだ調子で呟いた。
「不審に思った事は確かでしょうね〜」
 その隣で、ニャンタと同じように空を見上げながら、キャッチンが冷静に分析する。
 ニャンタは思わず両肩を落とし、大きく息を吐き出した。
「やっぱりそうかなぁ。俺、嫌われちゃったかなぁ」
「嫌われてはないと思いますけど…」
「当たり前じゃない!ニャーゴがあれくらいの事で人を嫌いになるわけないわ!ニャンタとキャッチンだってそう思うでしょ?!」
 ニャンタを挟んでキャッチンの反対側に座っているニャコが、大きく頷きながら言いきった。その勢いに押され、ニャンタとキャッチンも小さく頷く。
「そうだよな。あれくらいで嫌われたりしないよな」
「理由を話す事ができれば、一番良いんでしょうが…」
 キャッチンの言葉に、ニャンタとニャコが一斉に首を横に振り出した。
「それはダメ!」
「そうだぜ!アイツには刺激が強すぎる!!」
 今度は二人の勢いの押され、キャッチンは慌てて大きく頷いた。
「そうですね―――それに、私達も『アレ』を見ているなんて知れたら、大変ですから」
 三人は同時に、それを知られた時の反応を想像してみた。思わず冷や汗が流れる。
 ニャンタは顔を青くしながら、人差し指を口の前に持っていった。
「…良いか。これは俺達三人だけの秘密だからな…」
「勿論です…」
「勿論よ…」
 暖かな陽射し降り注ぐ穏やかな昼下がりに、三人は顔を青くしたまま、真冬の時のように小さく震えた。

 

       *       *      *

 

「ふふん。貴様の思い通りにはさせないニャ!」
 ぽっかり開いた入り口に人影が見えたが、マントヒヒ・クモネコ・ニャンダーかめんの三人には、逆光でシルエットしか解らない。だが、今のニャンダーにはその声の主が誰であろうと関係なかった。
(とにかくマントヒヒの注意が僕からそれている間に抜け出さなくちゃ…!)
 腕を引っ張ったり身体を無理矢理回転させようとしてみたり、とにかく思い浮かんだ術を全て試みるニャンダー。そうこうしている間にも、謎の声はマントヒヒとの戦闘を始めようとしていた。
「くらえ!『電光火炎エレキテル』!!グホゥッ!!」
「なんの!必殺『ニャオン返し』−!!」
 マントヒヒの必殺技・『電光火炎エレキテル』が彼の口から飛び出した。勢いよく影に向かって飛んで行った青白い炎の球は、しかし、何かにぶつかりマントヒヒの方へ跳ね返る!
「な…何ィ―――ギヤァァァアァァアァ?!」
 自分の必殺技をモロにくらい、マントヒヒは燃え上がった。慌てて消化するクモネコ。
「ふふん。俺様の力を見たか!お前なんか目じゃないニャ!」
 そう吐き捨てると、影は部屋の中へと足を踏み入れ、今だ糸と格闘中のニャンダーに近付く。近付くにつれ影は薄れ、はっきりと顔が見え―――
「やっぱり君だったんだ。ニャオン。助けてくれてありがとう」
 ホッと息を吐き出し、ニャンダーは目の前に立っている男=自称街の人気者・山猫ニャオンに礼を言った。手に大きな鏡を持っている以外は、いつもの赤いチョッキに黄色い蝶ネクタイ、黒いズボン姿だった。
 ニャオンは不機嫌にフンと鼻を鳴らした。
「別にお前を助けに来たんじゃないニャ!」
「え?じゃ、何で…」
「俺様がお前に勝つまえにお前に結婚されると俺様が勝つ事にならないんだニャ!!」
 ニャンダーに人差し指を突きつけ、一気にそう叫ぶニャオン。だが、ニャンダーにはニャオンが何の事を言っているのか見当がつかない。
「何で僕が結婚するとニャオンが勝つ事にならないんだい?それに何に勝つの???」
「フン!とぼけたって無駄ニャ!あのランキングが始まって以来お前がずっと一位を独占してるのは皆知ってるんだぞ!!」
「あのランキング…?『人気者ランキング』の事じゃなくて…?―――そう言えば、今朝、ミーコも同じような事を…」
 『人気者ランキング』以外のランキングが、キャットTVにあるなど聞いた事が無い。しかし、皆知っているという事はただニャンダーかめん―――ニャーゴだけが知らないのかもしれない。
(そう言えばニャンダーになってから、忙しくてまともにTV見てないなぁ…)
 ふとそんな哀しい事実に直面し、ニャンダーは嘆息した。
 と、
「…お〜の〜れ〜…、ニャオンめ…!」
 それまでプスプスと音を立てて燃えていたマントヒヒが、フラフラとしながらも起き上がり、憤怒の形相でニャオンを睨みつけた。
「立ち直りの早い奴だな!さすが単細胞は簡単な構造してるニャ」
「うるさい!単細胞は貴様の方だろうが、ニャオン!これでもくらえ!」
 と、息を大きく吸いはじめるマントヒヒ。ニャオンは声を上げて笑うと、手にしている鏡を掲げて見せた。
「にゃはははは〜。何度『電光火炎』を吐こうとこの鏡で跳ね返してやるニャ♪」
 マントヒヒの目が光る。
「くらえ!『電光火炎エレキテル』乱れ撃ち〜!!ホウッホウッホウッ!」
「ニャ…にゃに〜?!?!」
 連続で吐き出される『電光火炎エレキテル』。数が多すぎてニャオンはさばききれず、部屋の中は一種の火炎地獄に突入しようとしていた。そして勿論、
「わあぁっ!?」
 糸に自由を奪われたままのニャンダーかめんにも、その炎は容赦なく襲い掛かかった。
 ニャオンが無我夢中で振り回している鏡にぶつかった炎のひとつが、ニャンダー目掛けて飛んでくる。必死に逃げようとしたが逃げられない。炎はニャンダーに命中した!
「うわあぁぁあぁぁあぁっ!!」
 全身を針を刺したような激痛が走った。ニャンダーは火を消そうとソファーから転がり落ち、地面に身体を擦りつけた。が、火は呆気ないほど簡単に鎮火した。
 思わずマントやブーツを見つめるニャンダー。
「もしかして…、ネコ仙人さんから貰ったやつだからかな…?」
 それと同時に気付く事実。
「あ!糸が切れてる!…そうか、マントヒヒの炎で焼き切れたんだ…。…ようし!」
 振り向くと、どうやら『電光火炎エレキテル』をくらったらしい目を回したニャオンが、勝ち誇って笑っているマントヒヒに足蹴にされていた。
「ヒッヒのヒー!ワシに勝とうなんざ百年早いわ!」
「く…くそぉ…」
「ワシの城に勝手に入りおってからに!こうしてくれるわ!『電光火炎―――』」
「にゃー!!」
 ニャオンの悲鳴が高く響く。それに構わすマントヒヒは口の中に青白い炎を作り出した。そして反動をつけてそれをニャオンに吐きつける―――
「『―――エレキテル』!!」
「それ、『ニャオン返し』!!」
 マントヒヒの必殺技『電光火炎エレキテル』は、又もや鏡に跳ね返され吐き出した本人に激突した。再び燃え上がるマントヒヒ。再び慌てて消化するクモネコ。
 何が起きたのか理解できず呆然としているニャオンの前に、片手にニャオンの鏡を持ったニャンダーがふわりと舞い降りた。目をまん丸に開いて自分を見上げてくるニャオンに、ニャンダーはにっこりと微笑みかけ、手を差し出す。
「大丈夫?これでおあいこだね」
 我に返ったニャオンは、差し出された手を叩きニャンダーを睨み上げた。両手と両足を使って怒りを明確に表す。
「余計なことするニャ!だいたいそれは俺様の技だニャ!!」
「技って程でもないと思うけど―――あ、鏡は返すね」
「当たり前だ!」
 ニャンダーの手から鏡を引っ手繰るように取るニャオン。それを苦笑まじりで確認してから、ニャンダーはやっと自分が吐き出した火を消すことに成功したマントヒヒに振り返った。
 クモネコの手を借りながら起き上がり、マントヒヒは自分を見下ろすニャンダーを下から睨み上げた。
「…う…おのれ……。ワシの邪魔をするなら王妃とて容赦はせんぞ!!」
「マントヒヒ!いい加減にするんだ!僕は君とは結婚しない!!」
「いいや!貴様はワシと結婚するんじゃ!」
「だいたい何で僕なんだ?前はギンコさんと結婚するとか言ってたのに…」
「それは勿論、ニャンダーが『受け受けランキング』の一位じゃからじゃ」
 突然の静寂。
 眉根を寄せ、深く…深〜〜く考え込むニャンダーかめん。
 とにかく深く深く深く深く深く………
 無闇に長く考え込んでから、ニャンダーは顔を上げた。
「…『受け受けランキング』って何?…」
 当然といえば当然なニャンダーの疑問に答えたのは、マントヒヒでもニャオンでも、勿論クモネコでもなかった。
「『受け受けランキング』は、真夜中きっかりにキャットTVで放送されている新しいランキングでコン」
 ドアのない殺風景な入り口から(入り口以外も殺風景だが)、ニャオンの付き人・白狐のコンがヒョッコリ顔を出しニャンダーの疑問に答えた。
「コンちゃん。それで、何のランキングなの?」
 怪我をしたニャオンの手当てを始めたコンに、ニャンダーは重ねて問う。ニャオンやマントヒヒに聞いてもまともな答えは返ってこない。
 コンはニャオンに包帯を巻きながら答える。
「その名の通り、キャット・タウン、それからニャンウッドの森に住んでいる人達の中で一番受け受けしいと思う人を選ぶでコン」
「受け受けしいってどういう意味?」
 コンは満面の笑みを浮かべ、頬を朱に染めながら答える。
「いわゆる女役っぽいって事でコン…」
「………う〜ん、よく解らないな…。それと、マントヒヒが僕を王妃にしようと思う理由がどう繋がるの???」
 ますます頭の上に?マークを飛び散らせながらニャンダーは首を捻った。コンはますます楽しそうにウキウキとし、それでいて恥かしそうに答える。
「つまりマントヒヒはニャンダーと……子作りをしたいんでコン…」
 ニャンダーは深く…深〜〜く考えた。
 とにかく深く深く深く深く深く深く…………
 無闇に長い間考え込んでから、ニャンダーは顔を上げた。
「…子作りって…?」
 外見は青年に見えても、ニャンダーは一応小学低学年である。そこら辺の知識は全くと言って良いほどない。
「あーもー鈍いのぉ!!つまりこういう事じゃ!!」
 何やら堪忍袋の緒が切れたとばかりに怒り出したマントヒヒが、いきなりニャンダーの方へ手を伸ばした。襟元をつかまれ引っ張られるニャンダー。
「え?!…な…」
 そして―――
「…いやん♪」
 小さく悲鳴上げ、コンは頬を染めその光景に見入った。
 その隣でニャオンが大きく口を開いて固まっている。
「…む…んぐっ…?!?」
 突然息ができなくなったニャンダーはパニックにおちいった。手足を思いっきり動かし、とにかく自分の口を塞いでいるマントヒヒを引き離そうとする。
「ウゴッ!」
 見事なキックがマントヒヒの股間にヒットし、彼はやっとニャンダーから離れた。
 よろけながら後退し、地面に倒れこむマントヒヒ。その腰を叩くクモネコ。
「…お…おの…れ…」
「自業自得ニャ」
「ニャオン様の言う通りでコン」
 悶絶しているマントヒヒを見ながら、冷めた様子でニャオンとコンは言い捨てた。それを横目で見る余裕もなく、ニャンダーは今さっき自分の身に起こった事を信じられない気持ちで考えていた。
(…もしかして…僕、マントヒヒに…?)
 認めたくなければ受け入れたくもないが、混乱した頭でも解ってしまうマントヒヒの行動。結婚……キス……それはつまり―――
「そんなの嘘だ!」
 思わず叫ぶニャンダー。しかし、
「嘘じゃないコン」
 あっさり野狐コンに否定されてしまった。ニャンダーの隣に立ち、コンは神妙な表情でニャンダーに絶望的な状況を告げる。
「ニャンダーは知らないようだけど、『受け受けランキング』は『人気者ランキング』以上に投票数が多いでコン。ニャンダーはその半数の票を獲得してるコン。つまり、それだけマントヒヒと同じ事を考えている人は多いって事でコン」
「俺様なんて一票も入ってないニャ!」
「ニャオン様は格好良いから、別に『受け受けランキング』の上位にならなくても問題ないでコン♪『攻め攻めランキング』があったら絶対一位でコン!」
 後ろで憤慨しだしたニャオンに振り返り、コンは満面の笑みで言った。それに気をよくし、「そうかニャ〜?」と言い出したニャオンをそのままに、コンは再びニャンダーに向き直った。
「ニャンダーは自分の事もっと知ったほうが良いでコン!でないと今度は誰に襲われるかわからないでコン!」
「…そんな…」
「とりあえず今は、マントヒヒが動けない間に帰ったほうが良いでコン」
 コンの提案に、ニャンダーは素直に頷いた。
「そうだね。これ以上ここにいても仕方ないみたいだし…。コンちゃん、色々教えてくれてどうもありがとう」
「別に良いでコン♪」
 ふわりと空に舞い上がり、ニャンダーはマントヒヒの家を後にした。その背中に、今だ悶え苦しむマントヒヒの叫び声が突き刺さった。
「今度は絶対負けんからなー!!」
 ニャンダーは大きく嘆息した。

 

       *       *       *

 

 すっかり辺りは闇に染まり、夜空の真ん中に月が浮かぶ頃。皆が眠り、静まりかえった家の中を、抜き足差し足でニャーゴが歩いていた。
「そーと…そーと…」
 いつもなら、ニャンダーかめんとしての活動から来る疲れで、寝れる間にできるだけ寝ておくニャーゴであったが、どうしても気になる事があるので、真夜中少し前に自室を出、誰にも気付かれないよう階段を下り、TVが置いてあるキッチンに向かっているのだった。
 階段の最後の一段を下りた時、ニャーゴは想像していなかった異変が起こっている事に気付いた。キッチンの方から明かりが漏れている。
(え?まさか泥棒?!)
 鼓動が跳ね上がり、両足がガクガク震えだす。それでも何とか勇気を振り絞り、ニャーゴは音を立てないよう気を付けながらキッチンを覗き込んだ。
 そして思わず息を呑む。
(…ミーコ?!?)
 キッチンから漏れている明かりはTVの光だった。そしてその前に座ってTVに見入っているのは、どう見てもニャーゴの妹ミーコ。声をかけていいのかどうか迷い。ニャーゴはそのままその場に立ち尽くした。
 と、ミーコの見ているTV番組の音がニャーゴの耳に届いた。アナウンサー(どうやらミケさんらしい)が、真夜中だと言うのに元気一杯に喋っている。
『今日もやってきました『受け受けランキング』〜!!どんどん人気が出てきて僕達もビックリだよ!さて、それじゃぁ、今日も早速一位から発表しようね〜!』
(『受け受けランキング』?!ミーコも見てたの?!―――あ、でも、そうか。それで今朝あんな事言ってたのか…。でもミーコがこんな遅い時間まで起きてるなんて…)
 ニャーゴが複雑な表情でミーコの後姿を見ている間にも、どんどん番組は進んでいく。小太鼓がリズミカルに叩かれる音が響き、ファンファーレが木霊する。
『一位は勿論この人!ニャンダーかめ〜ん!!『人気者ランキング』でも一位を独走中だから、本当に凄いよねぇ!今日は危なくマントヒヒのお嫁さんにされそうになっちゃって、ますます受け受け度がUPしちゃったようだよ!これからも楽しみだね!!』
(人の気も知らないで〜)
 気楽そうなミケの言葉に思わず頭を抱えたくなるニャーゴ。
 ミーコはどうやら声を出さないよう気を付けているらしく、手を小さく叩いて喜びを表しているだけだった。
『次は二位!ニャンダーかめんも凄いけど、こっちも凄いよね!ニャンダーが投票数の半分を獲得してるなら、残り半分はこの人が獲得していると言っても過言じゃないよ!!』
 ミケの言葉にミーコが大きく頷いている。彼女も納得するほど、その二位の人物と言うのはニャンダーと同じ位受け受けしいという事らしい。
(一体誰だろ…?僕も知ってる人かな…?)
『ジャジャ〜ン♪二位はこの人ニャーゴ君!!』
 ミケの声が夜の空気に良く響く。
 ニャーゴは思わず後ろにひっくり返った。しかし、その音はTVから流れるミケの声とBGMによって掻き消され、ミーコまで届かなかったようだ。
「…ぼ…僕ぅ〜???」
 何とか起き上がり、思わず問う。
 それに答えてくれるかのようにミケの声がニャーゴに届いた。
『その小さな身体に可愛い声!ドジな所が又愛くるしいね!仕草や言動も可愛くて、思わず守ってあげたくなるタイプ bP!いつまでも純粋なままでいて欲しいって気持ちと、純粋ゆえにそれを汚したいっていう矛盾した気持ちを持っているお兄さんやお姉さん―――はたまた同級生のお友達までいるってんだから、ニャーゴ君のこれからも、非っっ常〜に楽しみだよね!!それじゃ、次は三位の発表だよ―――』
 ミケのコメントを聞きながら、ニャーゴはとりあえず自分の未来を心配した。
(…僕、大丈夫なのかな……)

 

 

 

 


 自分で書いといてなんですが、「マントヒヒ何さらすー!!」(笑)。ああ、ニャンダーのファーストキスはマントヒヒの取られてしまいました…不憫。きっと『ゲゲゲの鬼太郎』第四部・「妖怪いやみにご用心」を見たせいね(オイオイ)。
 どこかのHPでニャンダーの事を『受け身なヒーロー』と書かれてあった事が、この小説を書くきっかけでした。受け身…受け…受……嫌、でも実際ニャンダーって受け攻めで言うと、受けだよなぁ〜、と。ついでにニャーゴも。マントヒヒとかドクロ王なんて丁度良い攻めキャラだし、主人公だけまともってのも書いてて面白いかと思いまして。もう、子供向けでカップリング・ネタするのにも抵抗なくなってきたし★(爆)エロ書かなきゃ問題ないでしょ。多分。 

 

 

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