「先輩!大変です!!」
 大きな音を立てて、本郷邸地下にある研究室の重々しいドアが吹き飛んだ。
 驚愕の表情で、仮面ライダー1号・本郷猛と仮面ライダー2号・一文字隼人は作業の手を止め振り返った。そこには、他に類を見ない形相をした仮面ライダーV3・風見志郎が、何か小さい物体を抱え、大きく肩で息をしていた。その後ろに、動揺しているらしい後輩達の姿も見える。
 一通り彼等の顔を見回してから、本郷と一文字はお互いの顔を見合わせた。
「で?何が大変なんだ?」
 持っていたスパナを作業台の上に置きながら、まずは本郷が口を開いた。
 待ってましたとばかりに、風見はツカツカと研究室の中に足を踏み入れ、本郷の前に持っている小さい物体を突きつけた。
「これです!!」
 くりくりとした愛嬌のある瞳に本郷の顔が映る。
「ん???」
「おい、志郎。近すぎだ」
 近すぎて全体が見えず頭の上に?マークを出し始めた本郷から、一文字は小さな物体を少し遠ざけた―――のは良いのだが……。
「……犬?…」
 やっと小さな物体の全体を見る事が出来た本郷は、暫らく迷った末そう答えを出してみた。それでも疑問系なのは、犬らしからぬ箇所の方が多かったからだろう。
 顎に手を当てて、その犬らしい物体を観察する本郷に近付き、一文字は軽い目眩を感じた。本郷と同じように観察してみるが、……これはどう見ても―――
「洋…だろう?」
 それでも疑問系なのは、彼らしからぬ箇所の方が多かったからだろう。
 スカイライダー・筑波洋は本郷や風見でさえ見上げるほど長身なのだが、今、目の前にいる筑波は、歴代最小と名高い(?)一文字でさえ軽く抱っこ出来るだろう子犬のような大きさだ。更に、頭部から茶色い耳らしい物が突き出している上に、尻尾のような物も服から突き出して元気よく左右に振られている。
 一度咳払いしてから、一文字は彼に問いを投げてみた。
「……洋か?」
「わん!」
 鳴き声も犬のようだな…―――知らず知らず、一文字は唾を呑み込んだ。
 珍しく動揺している先輩達を真剣な眼差しで見つめながら、風見は重々しく口を開く。
「どうやら悪組織の新兵器によりこうなったみたいなんですが、一体どこの組織の誰が指示してやったのかは今の所不明なんです…」
「何故だ?」
 素朴な本郷の問いに答えたのはライダーマン・結城丈二だった。
「実は洋がそうなった経緯を誰も知らないんです。彼が一人の時にそうなったみたいで、一也が見つけた時には既に…」
「一也が見つけたのか?」
 一文字が、風見の後方に立って神妙な表情をしている仮面ライダースーパー1・沖一也に問いを投げた。一也は揺らいでいる瞳を彷徨わせながら答えを返した。
「…はい」
 それは、いつもの彼からすれば酷く弱々しい声だった。
「それで先輩!先輩と結城で原因を解明して欲しいんです。それも大至急!!」
 聞いているだけで沈んでしまいそうになるその声を断ち切るように、風見が本郷に一歩近付きながら大声をあげた。
 本郷はそれに深く頷き返す。
「そうだな。どこの組織がやったにしろ、新兵器が成功したのにそのまま放っておく筈がないだろう。俺達全員を犬にし、一気に叩き伏せる計画を立てる可能性は高い。愚図愚図してはおれんな」
 一文字もそれに同意する。
「よし!一大事だから俺も協力する!早速、洋の体を調べよう!」
 そう言いながら、一文字は風見の手から筑波を抱き上げた。そのまま研究室の奥にある装置へ足を運ぼうとして、思わず立ち止まる。
「わん?」
 自分を見上げるつぶらな瞳。子犬になったせいだろう、柔らかな感触…。
「隼人?どうかしたのか?」
 本郷が訝しげに問う。
 一文字は何かに必死に耐えている様子で、ゆっくりと振り返った。
「……なぁ、本郷…」
「何だ?」
「これさ、暫らくこのままって訳にはいかんかなぁ…」
 一文字のとんでもない提案に、本郷は思わず目を見開いた。
「いきなり何を言い出すんだ?!」
「嫌、だってなぁ―――これだぞ?」
 と、自分の方へ向けていた筑波を本郷の方へ―――後輩達の方へ向ける。
「わん♪」
 何が楽しいのか嬉しいのか良く解らないが、筑波は満面の笑みで鳴いてみせた。
 その姿に、
「うぐっ!」
 何やら全員、胸を押さえてうずくまる。肩を震わし、必死に何かに耐えている様だ。
 その反応に一文字は大きく身を乗り出した。
「な?な?な?だからいいだろう?志郎達も本当はそう思ってるんだろ?」
 必死に同意を求める一文字。とにかく、手にしている物体をあっさり手放したくない。
「そ…それは…」
 一文字の言う通り、後輩達も皆同じ思いだった。故、風見はこれ以上見ていられなくなり、さっさと筑波を元に戻して欲しかったし、先程から無口な他の後輩達―――神敬介・城茂・沖一也は流されそうになる自分と必死に戦っていた。
 つまり、それほど今の筑波は、
 ―――可愛い!!
 のである。
 特に日頃から筑波に好意をよせていた一也は、酷く精神力を使わなければ自制していられなかった。日々の修練がこんな所で役に立つとは、彼の師匠も想像しなかっただろう。
 暫らく身悶えた後、風見は何とか体を起こすことに成功した。
 が、
「せ…先輩…、しかしですね―――って、何やってんですか!?」
 目に映った光景に思わず手付きで突っ込みを入れる。
「え?何って…」
 言われた当の本人=一文字隼人は、至福の表情で笑っていた―――筑波犬を抱きしめた格好で。
「見たまんまだけど?」
「見たまんまって、何抱きしめて頬擦りしてるんですか!!」
 俺は我慢してるというのに!―――とは、風見の言えない本心だが、瞳からその想いは充分一文字に伝わっていた。
 そして一文字の行為により、今までせき止めていた何かが壊れた後輩達は一斉に筑波目掛けて突進しだした。
「ずるいですよ、先輩!」
「していいんなら俺もしてぇ!」
「イエ、ここは私に―――!」
「アマゾンもスルー!」
 まさに大混乱。
 その様子を、何とか自制している本郷と結城はいたって深刻な表情で見つめていた。
「……これが悪組織の狙いなのではないでしょうか?」
「…うむ。我々があの可愛さに自制を失う事を見越し、このような計画を立てるとは―――油断ならんな…」
「…はい」
 そんな会話を交わしている間にも、本郷邸の研究室の混乱はますます激化していった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一方その頃、筑波を子犬にするという計画を成功させた某組織の総入れ歯大幹部は、
「そうか、計画は順調か!よし、早速筑波犬を攫って来るのだ!!ぬかるなよ!首領へ献上するペットなのだからな!!」
 大声をあげながら、妙にウキウキとした調子で部下達に命令を下していた。

 

 

 

 


もしかしたら私だけ楽しいのかもしれないんですけど書いちゃいました。
どうも『序章』を書いてから筑波受けに萌えてしまいまして…嫌、↑が筑波受けなのかどうか疑問残るんですが…
つーか、子犬になっている時点で筑波かどうか疑問が…!!(痛)
とりあえず、筑波受け小説が書けたんで、これを引っ提げとあるキャンペーンに参加したいと思います。
実は他にも参加したいのがあるんですが、そっちのネタは浮かびません(困)。

 

 

2003・01・30

 

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