元旦、早朝。

 

崖の上から初日の出を睨みつけ、タイガーロイド・三影英介はこっそりと決意を固めていた。

 

(今年こそZXを俺の物に!―――それが駄目でもキスくらいは!―――それか告白とか―――色々悩みを相談してくれるとか―――…もうちょっと親密になれたらなぁ…………)

 

悪組織【バダン】の改造人間だと言う事をすっかり忘れている三影だった。
と、

 

「ミカゲ」
「わっ!」

 

後方からいきなり声をかけられ、一人で落ち込んでいた三影は文字通り飛び上がって驚いた。

 

「…ZXか、あけましておめでとう」

 

相手が愛しい人だとわかりホッと息をつくと、改めて新年の挨拶をした。
三影の想い人=ZX・村雨良も新年の挨拶を返す。

 

「トコロデ、ミカゲ」
「何だ?」

 

上目遣いで見上げてくる村雨の仕草に、心の中でスキップをしている三影は、それを―――村雨にのみ―――微塵見も感じさせない冷静な態度で首をかしげた。

 

「姫はじめヲシヨウ」
「ぶっ?!」

 

思わず吹き出す三影。何を言いだすんだ、一体どこでそんな言葉を…と、聞きたい事は山ほどあったが、驚きすぎて言葉にならない。
このままではいけないと、とにかく深呼吸をして自分を落ち着かせる。
なんとか話せるまでに落ち着いた所で、それでも慎重に、村雨の肩に手を置きながら口を開く。

 

「誰に教えてもらった?」

 

だいたい想像はついていたが…

 

「にーどる」
(やっぱりかぁ!あの超陰険スケコマシ野朗!!)

 

想像通りの人物の名前が村雨の口から出てきたので、三影は額に青筋を浮かべた。

 

「……もしかしてとは思うが、姫はじめがどういうものか教えてもらってはいないだろうな?」

 

純粋無垢な村雨にそんな事を詳しく教えていてみろ、殺すぐらいじゃあきたらない。
三影の内心を知るよしもない村雨は、至って正直に答えた。

 

「ヤッテ見セテクレタゾ」

 

脳の血管が切れる音が聞こえたが、そんな事に気をかけている場合じゃなかった。
比喩ではなく瞳から血の涙を流しつつ、三影は背中からどす黒いオーラを放ち始めた。
できるだけ落ち着いた声で―――失敗しているが村雨は気づかない―――ニードルが今どこにいるか問い掛ける。

 

「にーどるナラソコニイルゾ」

 

指差す方―――元々三影が日の出を見ていた方へ肩口に振り向くと、その日の出を背に、いつの間にか不敵な笑みを浮かべてニードルが崖の上に立っていた。

 

「ニードル、手前ぇ!」

 

殴りかかる勢いで―――実際そうしようと思っていた―――ニードルに詰め寄る三影。
激怒している三影とは対照的に、ニードルはいたって楽しそうに笑っている。

 

(もう許さなねぇ!!)

 

拳を振り上げ、彼の頬目掛けて―――

 

「?!」

 

引っ張られるような感じがして、三影は勢いを殺された。
反射的に振り向くと、そこには自分の服の裾を掴んでいる村雨がいた。
いつもと同じ、無表情で、無感動な口調で彼は言う。

 

「シヨウ」
「…………………え?」

 

思わず目が点になる。
一体何を言っているのか解っているが解りたくないような気がした。
ニードルに向いていた怒りは勿論消失した。

 

「一体何を…?」

 

何故か妙に答えを聞く事が怖かった。
が、聞いてしまっては答えを聞かない訳にはいかない。

 

「姫はじめ」
(…………………………やっぱり…)

 

喜ぶべきなのか悲しむべきなのか―――。
ほんの数十分前に決意した事が叶いそうなのだが、素直に喜べない。
そのきっかけを作ったのがニードルだからだろう。

 

「ミカゲ、早ク」

 

村雨に腕を引っ張られながら【バダン】の秘密基地に向かう。
確かに、はじめてが野外というのは辛いだろう。

 

(………いいのか…?…)

 

基地の中に入り、村雨があてがわれた部屋に近付くにつれ、三影は妙に欲情していく自分に気付いた。

 

(…本当に…俺と…)

 

例えきっかけを作ったのが嫌味で陰気で高飛車なスケコマシ野朗でも、愛しい人が良いとう言うのなら別に良いじゃないか。
そこまで気にしてたら悪組織でやっていけるものか。
三影はつらつらと自分に言い訳しながら、前を行く村雨の後頭部を凝視した。

 

そして―――

 

「着いた…」

 

村雨が自分の部屋のドアを開け、三影の腕を掴んだまま中へ入り、

 

―――ガチャリ。

 

きっちり鍵がかけられた。
三影は村雨の頬に手を添えようと伸ばし、

 

「ぎやぁぁあぁああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁっぁぁ?!」

 

自分でも信じられない絶叫を秘密基地内に響き渡らせた。

 

「ふふふ、まだまだ甘いですね♪」

 

日の出を見ながら、ニードルは密かにほくそ笑んだ。

 

 

 

教訓:嫌味で陰険で高飛車なスケコマシ野朗がする事は何一つ信じてはならない。

 

 

 

「ニード…ルめぇ…、今に見へろぉ…」

 

村雨の部屋で、彼の新しい技(“姫はじめ”←ニードル命名)を喰らいまくってボコボコになった三影は、壊れたサングラスの奥から見えない筈のニードルを睨み上げた。

 

 



初カップリングに挑戦してみました。更に『SPIRITS』キャラにも初挑戦!!
こういう関係好きですよ〜、ニードルになりたいくらい!!(笑)
そんで、毎日村雨さん使って三影さんで遊んでみたいですね。
飽きないだろうなぁ〜(夢見中)。ウケケ。

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