この日の本豪邸は何時になく静かだった。
というのも二人以外のメンバーが出かけてしまい、広大な空間をもてあましているからだ。残った二人とは自分と一文字先輩。
俺は自室のソファで『ハングライダー倶楽部』なる雑誌を読んでいたのだが・・・、
(どうもリビングの様子がおかしい・・・)
先ほどから、一文字先輩がいるであろうリビングから変な音が響いてくるのだ。
ガタンだの、ゴトンだの。
風見先輩と違って泥臭い特訓の類をあまり好まない一文字先輩が、独りで特訓しているわけもないだろう。
(ならこの物音は?・・・まさか)
泥棒?と思ったがこれはもっとない。それなら下の階に居る(俺の自室は二階だ)先輩が気付くだろう。
「ま、俺が心配するまでもないか」
気を取りなおして雑誌に目をやった刹那、

 

ガターンッ!!!!
ドサドサドサ・・・
「うわっ!!!」

 

一階から物凄い音と先輩の声が聞えた。
「・・・・。」
(行かないわけにはいかない、か)
雑誌を放り投げると一目散に階段を駆け下りた。何だかんだで自分は焦っている。
「あれ。ハズレ?」
リビングに入ると何故か誰も居なかった。しかしピンと思い付いてリビング近くの書庫を覗いた。すると案の定・・・、
「痛って〜」
崩れ落ちた大量の本に埋もれた先輩が、本山の中でもがいていた。
どうやらあの轟音は積み重ねた本が崩れた音だったらしい。
分厚い専門書が多い本豪邸では本が棚に入り切らず、残りは積み重ねて置いてある。所有者は本郷先輩か結城さん辺りだろう。
「洋!見てないで助けてくれてもいいんじゃない?」
「・・・そりゃ、もちろん助けますけど。何でこんなことになってるんです?」
「いっちばん上の本を取ろうとしたら崩れた。ったく本郷のヤツ重ね過ぎだよな。届かないぞあれじゃあ」
救出されながら小言を言う先輩。俺は先輩と共に小さな足台も発掘した。
(これを踏み台・・・にしたんだろうか)
「な、なんだよマジマジと見て」
「先輩の身長とこの踏み台を足しても取るのは無理ですね。俺の事呼んでくれれば良かったのに」
天井近くまで本が積んであるから、普段なら本郷先輩などに頼んでいるのに。
何故今日に限って(無理だとわかりつつ)自分で取ろうとしたのか。
「どうせ俺は小さいさ」
おまけに滅多に拗ねたり卑屈になったりしない先輩が拗ねた。
(ああ、なるほど)
思い当たって俺はにんまりと笑った。
「もしかして先輩、俺の事信用してませんね?」
「なーに云ってんだ。後輩は皆カワイイぜ」
言葉とは裏腹に口調が『拗ねた』感じになっている。先輩は崩れた本の上に胡座をかいた。
「ならいいんですけどね。じゃぁ片付け頑張って下さい」
書庫から出ようとすると先輩が大慌てで俺を呼びとめた。
「って、ちょっと待った!」
「何ですか」
わかっているがわざと何でもない風を装う。我ながら困った性格だと苦笑しながら。
「手伝ってくれよ。俺独りじゃ積めない。お前背高いんだし、なっ?」
「・・・わかりました。じゃ、先輩本の山から下りてくださいよ」
「あいよ」
本人はひょいと飛び越えたかったのだろうが奈何せん足場が悪かった。
小さくジャンプした途端に足を滑らせ、俺の方へ倒れ込む。
「うわっ」
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。これくらい何てことないさ」
先輩を抱留めた手に力を込めると先輩が怪訝そうな顔をした。
「いつまでこうやってるつもりなんだ」
「手伝う代わり、ってことで」
「おいおいおい!そりゃ無いだろう!?それ以前に男同士でってのがオカシイだろ?」
「そうですか?」
きつく抱き寄せると腕の中に先輩がすっぽり納まった。小柄だが弱くは無いその存在を抱きしめる。
「おい洋。いいかげんにしないと・・・」
先輩が声を上げようとした丁度その時、場違いなほど陽気な声が聞こえた。
思わず先輩の目に焦りの色が浮かぶ。
玄関の方から数人の足音が聞え、俺は書庫の重たい扉を静かに閉めた。
途端に圧迫感が倍になった。只でさえ狭苦しく真っ暗な書庫に二人も居るのだ。
「・・・・っ!」
腕の中でもがく先輩を強く抱きながら耳を澄ます。
「ハヤトー!ヒロシー!アマゾンかえった!」
「こらアマゾン、靴をちゃんと脱げ!」
「ちょっと風見きつく云い過ぎだよ」
声はもちろん一文字先輩にも聞こえ、少し動揺したらしかった。
「もういいだろう洋。離してくれよ」
「厭です」
「どうしてもか?」
「いや、そういうわけでもないですけど」
「やっぱりお前は信用ならないなー。云ってる事が滅茶苦茶」
書庫の中は真っ暗だがそろそろ目が慣れて来てしまう。
そうなる前に一つ。
「先輩、一つ御願い聞いてください」
「じゃ代わりに離してくれるって約束してくれよ?」
「もちろん」
「で。お願いってのは?」

 

「先輩からキスしてくださいよ」

 

「はぁ!?」
どんな表情をしているのかは見えないが予想はつく。
「厭ですか?なら僕は別に構いませんけど。それに余り大きい声出すとリビングに聞えますよ」
「お前ってヤツは・・・。大体な、俺は好きでもないヤツに軽軽しくキスするような男じゃないぜ?」
俺が腕に力を込めると先輩はたじろいだ。
(好きでもないヤツに、か)
「なら何で力づくで逃げようとしないんですか?先輩なら出来るでしょうに」
「・・・・・?」
先輩自身そのことに気がついていなかったらしい。気配がざわついた。
「そーいや、その通りだな・・・」
「まぁ俺の事嫌いならそれでもいいですけどね」
云いながら腕の拘束をゆっくり解いて行く。そして腕が離れてしまう間際に呟いた。
「でも俺は好きですから」
すっかり腕が離れると急に彼の体温が離れた。自分の体温しか感じられない。
リビングの方からアマゾンの声がしている。呆気にとられた先輩もその声を聞いているようだ。
「ハヤト、ヒロシ、どこ行っタ?ハヤトーどこダー??」
その声の余韻が消えた頃に先輩がドアに手をかけた。もう目は大分慣れている。
「アマゾンが呼んでっから片付けはまたあとでな」
「俺も手伝うんですか?」
「ただで働くのが厭なら、少し屈んで暮れないか」
「こうですか」
云われるままに腰を曲げて屈むと―――頬に温かいものが触れた。
「これで手伝ってくれるんだろ?」
悪戯っぽい声で言われた。きっといつもの明るいスマイルをしているに相違無い。
「好きでもない相手にキスするのは厭なんじゃなかったんですか」
「まぁね。でもお前が意地悪だから」
そう云って先輩は明るい扉の外へ出ていった。
後には再び訪れた漆黒と消えかけた彼の体温と頬の感触が。
「意地悪なのはどっちなんだか」
静まり返った大量の本を見つめながら呟いた。

 

 

「結局さらりと流されちゃったか」
――――告白の返事は当分聞けそうに無い。

 

 

 

 

 


夜刻陸さまより頂きました鬼畜筑波×一文字ですよぉー!(小躍り)
鬼畜好きなんですが、レパートリーが少ない為自分ではなかなか書けないので、
夜刻さまのところで幸運にもキリ番を踏んだのをいい事にリクエストしてみました。
しかし、筑波より一文字さんの方が上手みたいで……年の功ですね、一文字さん!(←褒めてます)
しかし、それだけに攻めがいもあるというモノ。
是非とも
鬼畜筑波にはこれからも頑張ってもらいたいと思います。

ってーことは、頑張ってキリ番狙った方がいいのかしら???

夜刻さま、ありがとうございました。

 

 

2003・03.04

 

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