(第一印象は『変な奴』……だった…な)
夕方。
冷蔵庫に食料が無かったので近くのスーパーまで買出しに行った帰り。
食料の入ったナイロン袋を持ったFBI特命捜査官・滝和也は、ふと、そんな事を考えた。
(しょうがないんだけどさ。薔薇くわえてたから。しかもピンク。……それに、今でも『変わった奴』だと思ってるし……)
滝和也が今考えている人物は、世界制服を企む悪組織【ショッカー】と戦っている彼の戦友―――そして、【ショッカー】により改造手術を受けてしまった男=一文字隼人だった。
滝が【ショッカー】壊滅の任を受け日本に来てから2〜3週間たった頃、一文字隼人は彼等の前に姿を現した。
初めは素性が全く知れなかった。「落し物を届けに来た」と言って立花レーシングクラブへ来た時、薔薇を咥えていたのだから怪しいと思っても仕方ない。
一文字隼人は陽気な男だった。
それでいて、いざという時の芯の強さは並ではない。
(…本当、変な奴だぜ…)
「ん?」
と、滝が歩いている道の左手に広がる草原で不審な物音が…!!
(【ショッカー】?!)
思わず戦闘態勢を取る滝。
漂う緊張感。
しかし―――
「い…一文字ィ?!」
ガサゴソと草原の中から姿を現したのは、つい先程まで頭の中を占拠していた人物だった。滝に気付き、人好きのする笑顔を見せる。
「お。滝」
(噂をすればってやつか?)
拍子抜けし、少々間の抜けた顔で一文字を見つめる滝。
そんな滝に、一文字隼人は満面の笑みで言った。
「丁度いい。手伝ってくれ」
「…え?」
● ● ●
草を掻き分けながら、滝は難しい顔をした。
伸びに伸びた雑草が彼の行く手をさえぎっている。
そして、小学生にしては途方もない距離を飛んだホームラン・ボールの姿も隠してしまっている。
「ねぇなぁ…。確かにここら辺にボールが飛んだんだな?」
「うん」
滝の言葉に少年は落ち込んだ風に答える。
(あ…。しまったか…?)
ワザとではないが、自分の物言いで少年を傷付けたかもしれない。
言い直そうと滝が口を開く前に、一文字がフォローを入れる。
「大丈夫。絶対見つかる。その為にも落ちこんでちゃダメだぞ」
深い温かみのある、力強い笑顔で…。
「…うん!」
少し浮上したようだ。
滝は嘆息した。
(まったく…なぁ…)
そして少年の歓喜の声があたりに木霊した。
● ● ●
「俺は手伝わなくても良かったのか?」
嬉しそうに野球ボールを持って去って行く少年を見送りながら、滝は思わず呟いた。
一文字は首を横に振る。
「そんな事は無い。滝が手伝ってくれたからこんなに早く見つける事が出来たんだ」
「そうかぁ?」
苦笑交じりに答えると、一文字は穏やかな笑顔を彼に向けた。
「ああ。あの子一人だけでも、俺と二人でももっと見つけるには時間がかかった筈だ。ありがとう、滝」
真正面から礼を言われ思わず面食らう。
「……どういたしまして」
そう言うだけが精一杯だった。
一文字の顔を正視できず、滝は思わず彼に背を向けた。
(お前は、やっぱり変わってるよ。…知ってるか?お前のその『前向きな考え方』のおかげで救われている人間がいるって事をよ。ここにも―――)
「――って、何を恥かしい事考えてるんだ、俺は…!」
小声で叫びながら、滝は自身の頭を乱暴に掻いた。
そのまま、道端に置いておいたナイロン袋を(ボールを探している間邪魔なので手近な所に置いていた)持ち上げた滝は、恥かしさを紛らわす為に大声で、
「じゃ、俺は帰るからなぁ!」
と言い、耳まで真っ赤になりながらその場を後にした。
その後姿を見ながら、一文字が微笑した事を知らずに……。
終
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