5回目のコール音が途中で切れ、「何か用?」と素っ気無い女性の声が聞こえてくる。 「何か・・・って、あのねぇ。お前、に何か吹き込んだでしょ?」 が何か戸惑うように保健室から逃げた後、カカシはの診察を頼んだ女医に電話をしていた。 もちろん、『何を言ったか』確かめる為である。 『アンタ過去の事何も話してないでしょう・・・?』 「・・・・ま、ねぇ・・・言う必要も無いし?」 『酷っ!最低!』 「で?何言ったの?」 『意味深な言葉をズラズラ〜っとv』 「・・・?」 『つまり、ハッキリとは言ってないけど過去の事をチラリ、ホラリと・・・」 「・・・なっ!!」 あまりの驚きに何も言えなくなるカカシに受話器からの彼女の声は嬉々と語る。 『確かに?私はアンタの事認めてるし、家出るまではその性格好きだったよ? でも私ウジウジしてる男って嫌いなのよね〜。だから今のあなたは嫌いなの。』 そして、最後に『いいじゃない。何か進展するでしょうよ。貴方達の関係もv』と言い捨てるとそのまま電話を切ってしまった。 クソッ!と、悔しいさを表に出しぶっきらぼうに受話器を投げ捨てるカカシ。 との関係が進展するとかしないとか・・・そうゆう事は関係無いのだ。 大体、『関係』と言ったって進展するような関係にすらなっていない。 それに近づけようと努力している事はしているが、まずはに自分を受け入れてもらう事から始めているカカシに取って己の過去というのは余りにも邪魔で仕方が無い。 自分でも受け入れたくない過去を知られると厄介だ。 「口止めしとかないと・・・」 唯一自分の過去を知っていて、きっと最終的にが頼ってしまうであろう存在を思い出し、カカシは溜息を吐くと小走りに職員室へと向かった。 「ハヤテ・・・!」 少し怒ったような焦ったような表情で近づいて来たカカシに、ハヤテは溜息を吐くと 「今度は何ですか・・・?」 と呆れた表情を向け、問う。 「が何を聞いても答えるなよ!」 「・・・・は?」 用件だけでは伝わらない。 一体どうゆう事があってそうなったのか理解できていないハヤテは反射的にそう返した。 「言いやがったんだよ。あの女!俺の過去をペラペラと・・・」 「・・・・え?」 苛立ちを隠せないでいるカカシはブツブツと呟くように吐き捨てる。 「ハッキリとは言ってないらしい。だから言うな!」 「ちょ、ちょっと待ってください!」 ハヤテはここで初めてカカシの言葉を遮った。 「整理させて下さいね?・・・ゴホッ。 つまり・・・かなり曖昧にですがさんに貴方の過去がバレたと・・・」 「そう。」 「で、私に口止めしに来た訳ですか?」 「そう!」 「・・・ゴホッ。・・・・心配性にも程が有りますよ?」 「あのねぇ・・・」 カカシはかなり焦っているらしく人の忠告を聞く余裕が無いらしい。 「私が言う訳無いじゃないですか・・・」 「そうかなぁ・・・?」 これだけ一緒にいて、ハヤテがどうゆう人か解っているにも関わらず信用を置いていないらしいカカシの態度に少しムッとした表情を浮かべたハヤテは 「そうですよ・・・ゴホ、ゴホ。 まぁ、言ってしまった方が良いに決まってはいますが、これは私が言う事ではないですからね。 カカシさん・・・貴方の中で整理がついてから貴方が自分で言うべき事です・・・ゴホッ。 それを・・・私は言おうとは思いませんよ?」 と、カカシが冷静な頭で判断できれば分かるであろう事をあえて口にした。 「・・・・・。」 カカシはその時何も答えなかったがそれもそうだ。と納得したのがハヤテには分かった。 それから一週間もの間、カカシとの間には異様な空気が漂っていた。 は、聞きたい事がたくさんありすぎて、でも聞いていいものか・・・とらしくなく考え悩みこんでしまっているからカカシがちょっとした用で話し掛けようとするだけでビクリと肩を振るわせる。 カカシもカカシで『何処までをどのように知っているか』が分からないからフォローの仕様も無かったりするのだ。 「バッカじゃない?」 ケラケラと今の状況をあたかも楽しい事とする紅のキツイ一言が降りかかってきた。 「・・・あの?何が?」 紅はカカシにとってあまり近寄りたくない相手だった。 何故か、紅の余裕タップリの瞳に見透かされている気がするのだ。 「ちょっと楽しい事になってるんですってね?」 「何が・・・?」 ニコニコと本当に楽しそうな笑みを浮かべて顔を覗き込む紅からカカシは目を逸らせる。 「ちゃんのあの元気の無さ・・・アンタ絡みなんでしょ? 何だかんだ言ってあの子もこんな変態馬鹿男が好きなんだからねぇ〜v」 「はぁ?」 「あら?気付いてないの?ホント馬鹿ね。」 「ってゆーか変態馬鹿男って・・・」 「細かい事は気にしない。そしてもちろんアンタの事よ?」 「・・・っ。」 紅の目を睨みつけて何も言えない自分に悔しがる。 そんなカカシに紅は意味の無い余裕タップリの笑顔で「ま、精々嫌われないようにね・・・」と耳打ちして笑った。 「あと・・・あんまり長い事悲しい顔させてんじゃ無いわよ?そろそろ・・・寂しさの限界じゃないかしら・・・・」 遠くを見るようにそう呟いた紅の言葉はカカシに届いたかどうか確認は出来なかった。 ----------------------------------------- 「」 後ろから掛けられた声にビクリと肩を震わせて「はい・・・」と少し裏返った声を出すとそっと振り返る。 「あ・・・の・・・・?何でしょう・・・・?」 しばらくちゃんとした言葉を交わさなかった為と、いつもよりマジメな表情のカカシを目の前して緊張してしまい何故か敬語になってしまう。 「・・・・あのさぁ。その・・・。」 カカシもカカシで何を言っていいか分からず戸惑いながら言葉を探る。 「・・・・・」「・・・・・」 沈黙が流れ、は思わず目を逸らしてしまった。 言わなくてはいけないのはひとつ。 「あのさぁ・・・やっぱ好きなんだよねぇ〜の事・・・」 「・・・?」 眉間に軽くしわを寄せては怪訝な顔つきをする。 「だから・・・言ってやれない事も無いんだよ。自分の事・・・」 「・・・・!!」 「だけど自分でケリつけられてない事を言うのは・・・出来なくて・・・」 カカシは頭の中で言葉を組み立て間違いの無いように・・・とゆっくり話す。 その表情はとても辛そうでは居た堪れない気持ちになった。 「無理には聞かない・・・私も・・・あるから。言えてない事・・・まだたくさんあるから・・・でも、カカシは何も言ってくれなさすぎだから・・・私ばっかり弱いところ見せてるみたいで・・・なんだか嫌だよ・・・」 卑怯なのは自分でも分かってた。 知られたくない過去を持ってる訳じゃない。 思い出したくないのだ。 昔の自分は今現在では『嫌い』以外の何者でもない。 切っ掛けになるものに、気付く前まではそこまで嫌ってはいなかった筈なのに・・・。 「分かってる・・・だから、ごめん。」 「・・・・」 「辛いんだよね・・・とこんな状態なのは・・・」 「・・・・」 「好きだ〜って言いたいのも、抱きしめたいのも我慢してるのって結構疲れるねぇ〜」 「カカシ・・・。」 折角このまま丸く納まろうかって時のこの一言には呆れてカカシを見ると、さっきまでの真剣さは全く感じられないにこやかな表情のカカシがジッとの様子を伺うように見ていた。 「ホント最低だな。その性格・・・いい根性してるよ。全く!」 少しだが、元の調子に戻ったを嬉しそうに見るカカシはポンポンと軽くの頭を叩いた。 その行為がなんだか『有難う』と言われているような気がしては照れた。 「今日の晩御飯・・・カカシが作ってね。」 「・・・なんで?」 「いいじゃん。偶には作ってよ・・・」 「素直に俺の料理が食いたいからって言えばいいのに。」 ククク・・・と喉の奥で笑うカカシに肘鉄を喰らわしたは 「私も一週間殴りたいのに殴れなくてウズウズしてたわv」と笑顔で言った。 ----------------------------------------- 「ふぅ〜ん。球技大会ねぇ・・・の学年何するの?」 さして気にしていないかのように言うカカシに「ドッヂだってさ」と軽く流すかのように答える。 スッカリという訳にはいかないが一応、二人の間の空気は正常に戻った。 だが、しかし。はふとした瞬間何かを思い悩んでいるような素振りを見せることが増えるようになっていた。 「ねぇ、・・・もしかしなくてもまだ気にしてたりする?」 「・・・・何を?」 あくまでシラを切ろうとするにそれ以上を追求することが出来ずカカシは「いや・・・別に。」と押し黙ってしまう。 「ね、・・・。別に墓穴掘る気は無いんだけど・・・ひとつ気になる事があるんですけど〜」 「何改まってんの?」 いい事を聞こうとしているわけではないのが分かるから少ししかめっ面で答えるに、カカシは一呼吸置いて「アイツから何聞いたの?」と真剣な、しかし瞳の奥で小さな恐怖を感じる表情を向けてくる。 「何も・・・何となくだけど、理解できたのはハヤテ先生がカカシの過去を知ってるって事とカカシが『あの事』ってのがあって変わった・・・って事だけだよ? 色々教えてくれたけど、私が聞き出したいことは何も言ってなかったから安心して?」 ならば、何故こんなにも引っかかったような事を言うのだろう。 しかも、独りで考え込むような引っ掛かりを覚えているのだ。 本当に分かったことがそれだけなのかは疑問でしかなかった。 やっぱり気になるものは気になる。 聞いた中で何やらカカシは『自分の道を誤った』みたいな事に陥ったらしい。 そして、それが原因で今の職種に着き今でも何だかは知らないが思い悩んでいるらしい。 言葉の端々から出てきた『あの事』については全く触れなかったけど、それは『道』に関しての事だというぐらいはハッキリしていた。 (じゃあ何で隠す必要があるのだろう?) が感じているのはそこだった。 別に、『道を踏み外した』だとか、『間違えた』だとかはある程度修正が出来るものだ。 だから、それに対しての事を言いたくない訳ではないのだろう。 もうひとつ。大きな原因があるのだ。 (きっとハヤテさんに聞いたって答えてはくれないんだろうしこんな事誰にも相談できないしなぁ) 人柄を見るのが得意なはとっくの昔にハヤテの性格ぐらい見抜けていた。 だから、返事を貰える当てにはしてい。 しかも、相談にぐらいなら乗ってくれるだろうが事が事だけにきっとそのまんまカカシに伝わりそうな気がして安易に口に出来ないのだ。 ならば、ヒナタに言って見るか?とも思ったのだが何の解決策にもならないことが目に見えて分かっているし、色々な意味で関係がない。 愚痴るだけなら言う必要性はないだろうと思ってい止めた。 でも、何か・・・解決策にならなくて良いから自分で進める切っ掛けになるような言葉やアドバイスが欲しくなるのが人間で・・・。 そんなことをぼんやりと考え込んでいたら大怪我をしてしまった。 ドッヂボールとは言え、そんな考え事をしてボーっとしていれば怪我をする。 「い〜た〜い〜!」 挫いた足を引きずりながら保健室の扉を開けると先生らしいカカシが目に入った。 (慣れないなぁ〜先生らしいカカシって・・・) と、ある意味禁句な事を思いながら机に向かい集中しているカカシの頭を後ろから小突く。 「ったぃ!」 特に痛くは無いだろうが条件反射として出た言葉と叩かれた場所を抑えて眠たげな顔で後ろを振り返ったカカシはやはり、自分の知っているカカシでは無いな。と思わざるを得なかった。 「どうしたの?」 ふんわりとした優しい笑顔ではなく、一般的な愛想笑い並の笑顔。 の前で教師として振舞うには立派な努力だ。 しかし、これも何時まで続くだろうか・・・とは思っていた。 「足・・・」 「足?」 そう言われての足元に視線をやると左足を地に付けないようにと気遣っているのが見えた。 「何?挫いたの?」 「・・・そぅ。」 「とりあえず座んなさい。」 カカシは傍にあった椅子をの方へと手繰り寄せを座らせた。 「ん〜。結構腫れてんねぇ・・・」 キュッと痛いであろう場所を軽く抑えるとは「痛っ!」と小さく言って涙目でバシッとカカシの背を叩く。 「こっちが痛いって・・・・」 カカシは苦笑しつつ湿布と包帯を取り出してすばやく処置を施す。 「やっぱ上手いのねぇ〜包帯巻くの・・・」 「そりゃあね。も結構上手いよね?」 「あぁ・・・・」 そう答えるとは俯いて静かに言った。 「だって・・・昔は自分で巻いてたから・・・自然と上手くなるってもんよ?」 最後は無理やり作った笑顔で言ったにカカシはポンポンと頭を撫でる。 「前にも言ったけどね?俺の前で強がらなくって良いんだよ?」 切なげな笑みは同情から来ているとは思えない。 だけど、やっぱりそこで素直に「分かった」と言えないは皮肉タラタラで 「カカシが自分のこと少しでも話すようになったらね。」 とキツイ一言をサラリと言ってみる。 少し、どんな反応を見せるだろう?といった興味本位で言った言葉にカカシは寂しげに苦笑して 「そうだね。」 と答えた。 (この手は色々な所で使えるかもしれない・・・)はそう確信したがあまり冗談半分では言わないようにしよう。と心に決めた。 (あんまりカカシの悲しそうな顔って好きじゃない・・・) そう思った事に自分で照れてはカカシに気付かれないようにそっと頬を赤く染めていた。 |