学校の中庭には大きな木が一本立っていて、周りには季節毎に綺麗な花が咲く。 今の季節は紫陽花が咲いていた。 「綺麗ね・・・」 は赤い傘を差し、しゃがみ込んで紫陽花の花弁一枚一枚を見るかのように眺めていた。 「あっれー?。そんな所で何してるの?」 保健室前の廊下の窓から上半身を覗かせて、カカシは赤い傘を顔が見えるように少し持ち上げてくる。 中庭は職員室、保健室を含む特別教室が並ぶ塔から向かいの教室塔を繋ぐ渡り廊下の間にある。 昼休み。職員室にて昼食を取り終えたカカシが保健室に戻って来た時、雨が降る中傘を差した生徒が目に入ったのだ。 それがだと気付き、一瞬、声を掛けようかどうか迷ったカカシだったが構って欲しくないのなら睨み付けられでもするだろう。と一応声を掛けたのだった。 「努力」 カカシの質問に大分と間があって、一言ポツリと答えたのがこれだった。 「何の・・・?」 カカシは『それじゃ分からないでしょ?』と、呆れた表情を浮かべ問い返す。 「好きになる努力・・・」 「雨を?」 「そう・・・」 淡々とした口調で一言一言言うとニコニコと笑顔で聞くカカシはとても対照的だった。 「・・・・・」「・・・・・」 ざぁぁぁぁ。という雨の音とポツンッ、ポツンッ。と雫が落ちる音、あとは傘に当たる雨の音。 「楽しそうじゃないよね・・・?」 先に口を開いたのはカカシ。 「楽しくなんてないもの・・・何がどう綺麗に見えるの?」 初めてカカシと目を合わせて言ったにカカシは困ったような笑みを浮かべる。 「綺麗と言えるのは・・・そうだね。廊下の角辺りから見た『紫陽花を見てる』が綺麗だったかな?」 今通ってきた老化の角を指差しながら言うカカシに「なにそれ?」と全く言っている意味が分からないと眉をひそめるは立ち上がって言う。 「今、暇?」 「今?・・・ってもうすぐ昼休み終るよ?」 「・・・・・」「・・・・・」 「も、いい・・・」 はぁ。と小さく溜息をついて腰に手を当て目を逸らす。 「何?言ってごらん?」 カカシはニコッと愛想笑いに近い笑みを浮かべる。 「・・・・顔色悪くないよね?私・・・」 躊躇いがちに目だけをカカシに向け訊く。 「ん〜・・・?」 カカシは傘の赤色が反射して確かな顔色が確かめられず指での傘を持ち上げる。 「別に・・・?何?気分悪いの・・・?」 は首を横に大きく振り、 「違う・・・昨日みたいな雨の次の日はいつも吐き気がしてたんだけどね・・・今回ないから、顔色も悪くないのかな〜って・・・思っただけ」 「ないよ?ゆっくり寝れたからじゃないの?昨日は・・・v」 「ちょっと・・・それって感謝しろよ?って事?」 ジトッとした目で睨みつけるに「そうじゃないって」と否定する。 「頼ったら良い事あったでしょ?」 「・・・・まぁね。」 照れて紅く染まった頬を隠すように傘を深く持つと「じゃあ・・・授業行くわ。」と下足室へと足を向ける。 「あー。待って、待って。」 「?」 上半身だけカカシの方を振り向くと、カカシはニコッと微笑んで 「何かあったら言えよ?また一緒に寝て・・・」 「いらん!!」 カカシの言葉を真っ赤な顔で遮るとはそのまま逃げるように走った。 「照れちゃって・・・可愛いなぁv」 余韻に浸るようにカカシは先程までが眺めていた紫陽花を微笑ましく見ていた。 その真上、職員室前の廊下にて... 「あっやし〜v」 「学校で会話する事柄じゃないでしょう・・・ゴホッ」 と、デバガメていたハヤテと紅は一言ずつ感想を述べていた。 つかず離れず、微妙な合間を取った生活は未だ変わらなかった。 見ているハヤテと紅がその空気の居心地の悪さに溜息を吐く。 「どうしたいのよ?ちゃん」 を呼び出した紅はキュッとの両手を包み込むように握り紅は苦笑と共に言葉を発する。 「どう・・・って何がですか?」 キョトンとしたの表情を見て、呆れた表情の紅は 「カカシと・・・つかず離れずの曖昧関係。貴方は好きなの?嫌いなの?」 「曖昧関係は嫌いです。」 ニコッとした笑顔のようで笑顔でない表情を見せたはそう、即答した。 「じゃあ、今の生活は?」―――「嫌いじゃないです」 「ハヤテ先生は?」―――「好きですよ?」 「私は?」―――「好きですね」 「学校は?」―――「微妙」 「カカシの事は?」 今までの質問にすべて即答で答えてきたは、そこで初めて間を置いた。 「・・・・多分〜・・・好きだとは思うんですけど・・・」 「けど?」 「なんか・・・つっかかりが取れないです。」 が素直に答えているのはかなり珍しい事だった。 紅が自分にとって害の無い存在だから。とかそう言った意味で素直なのではない。 この人相手に嘘や偽りの答えを言っても通用しない。誤魔化しも訊かない。 そう思っているからである。 それプラス、今は自分でも自分が不安定である。という事が分かっているからある意味、にとっては選択肢の無い行動なのだ。 「つっかかり?」 「はい。それを知りたいんですけど・・・どうやったら分かります?」 「どうやったら・・・ねぇ。」 紅は腕を組み、うーん。と唸る。 「口に出してみる。紙に書いてみる。・・・モノに表しても何も答えは出て来なかったんです。」 は悲しそうな、苦しそうな表情で俯く。 泣くのを必死に堪えている。 そんな顔にも見えた。 「じゃあさぁ・・・カカシに直接言ってみるってのはどう?」 「え!?」 明らかに嫌そうな顔をしたを「あっははははは!」と笑い飛ばす紅。 突然の事には目を丸くし、どう対処したらいいものか・・・と本気で悩む。 「いや〜・・・ごめん!笑っちゃったわ・・・っくくく・・・」 必死に笑いを堪える紅。 「あの・・・」 困り果てた顔ではその場に立ち尽くす。 「ちゃんね。カカシの過去・・・気になってるってヤツ・・・あれはどうなったの?」 「あれは・・・気にしてない訳では無いんですけど・・・そのうちを待ちます・・・(その前にどうして紅先生が知ってるんだろう・・・)」 「そう、じゃあ他の事が引っ掛かってるのね?」 「・・・多分・・・」 ハッキリ言って分からない。 「ま、いいわ・・・。それはカカシに言いなさい。うん。 あ、それでね?ちゃん。私が呼び出したのは別の用だったのよ。」 「はぁ・・・」 (本題に入るのにどうしてこの話が・・・?)という疑問をさて置き、紅の表情が真剣になる。 「さて、来週から体育の授業がプールになる訳ですが・・・もちろん、入らないのよね?」 「え?えぇ・・・」 「その間・・・去年はどうしてた?」 「去年・・・ですか・・・?」 (その時間だけサボってました) と心内で答え、黙り込む。 「あー・・・うん。今年はね、カカシが保健室においで〜って言ってるのよ。」 「・・・・は?」 訊き返す用に言葉を発したは思う。 何故、紅の口からこの事を聞いているのか・・・と。 「カカシね。最近他教師から目付けられてるのよね・・・うん。」 「あの・・・?」 飛躍しすぎな話題転換には着いて行けなくなっていた。 「特にの担任・・・。彼は否定的ね・・・。大体、カカシとの関係知ってる先生は居ないに等しいんだからあーんなにベタベタしてたらダメに決まってるじゃない?」 「はぁ・・・まぁ・・・」 あまりにも自然な事で気付かなかった・・・とはポリポリと頬をかく。 「この間の雨の日の会話もそう・・・」 「ですよねぇ・・・寝てあげるとか・・・」 思い出し、頬を紅く染める。 「まぁ、ねぇ・・・(それ以前の話でもあるけど・・・)気持ちは分からなくは無いのよ? 只・・・もう少し場をわきまえないといけないかな?」 「それ・・・カカシには?」 「言って聴くと思う?」 呆れた表情で紅は言う。 「思いません」は即答するとそのままの足で保健室へと向かった。 一方、話題の中心人物、カカシはカカシでハヤテの皮肉を受けていた。 「分かってるんですか?自分のやってる事」 「多分ね〜・・・」 「何時も言ってると思うんですけど、ここ、学校ですよ?ゴホッ」 「知ってるよ。だけど・・・」 「言い訳が通じる場所でも状況でもありません。」 「十分承知」 「貴方ねぇ・・・ゴホ、ゴホッ。」 珍しく怒気を発するハヤテをサラリと流しながらカカシは近づいてくる足音を耳に入れていた。 「好きで傍に置いときたいって気持ちは分からなくもありませんよ?・・・ゴホッ。 ですが、カカシさんのは行き過ぎなんです。もうそろそろ文句を言ってくる教師も居るでしょう・・・ それを、貴方は気にも止めずサラリと流してしまわれるんでしょうけども考えてみて下さい。 さんは・・・・っ。」 一気に捲くし立てていたハヤテの口を片手で防ぐとニコリと笑顔を見せる。 (目が笑っていない) ハヤテはそんなカカシを睨みつけるように見ていた。 「分かってるんだよ・・・でも、止められない。」 カカシは身の毛のよだつような冷笑を浮かべたかと思うといつもと同じ、のほほんとした掴み所の無い笑みを称える。 それと、同時にガララララッと保健室の扉が開いた。 「どーしたの?v」 (言ってる傍から・・・)とハヤテは呆れ顔を見せる。 こうなれば止められないのをハヤテは良く知っていた。 「あの時と同じじゃないですか・・・」 ハヤテはひとり、誰にも聞かれないような小さな声で呟いた。 「んー・・・ハヤテ先生・・・?」 「はい?」 一人、重く沈んでいるハヤテを見つけ、はカカシをすり抜けてハヤテの前に立つ。 「ごめんなさい。」 ペコリと礼をして言うに「え?」と、ハヤテは困惑する。 そして、顔を上げたの表情を見て、その言葉の見当がついた。 『ご心配お掛けしてごめんなさい』 (さんの方がしっかりしているじゃないですか・・・) ハヤテは苦笑して「いえ・・・いいんですよ、慣れてますから。」と言う。 は困った顔を見せ、カカシに向き直った。 「あのさぁ、今日・・・何時ごろ帰ってくる?」 「今日?んー・・・8時?」 「・・・絶対8時ね。遅れないでね。」 「は?なんで?」 滅多と帰宅時間など聞く事の無いが時間を聞いただけでも珍しいのに、『遅れるな』とはどういう事だろう?と首をかしげるカカシに「返事は?」とキツク訊く。 「はい。・・・で?何で?」 「はーなーしーがーあーるーのー!大事なね!」 「大事な?告白?」 ケロッと言うカカシに久しぶりの鳩尾を喰らわす。 「どうしたらそうゆう方向に話が進むの?違うに決まってるでしょ?一回死んでみたいの?」 「いや。を手に入れるまでは死ねないけど・・・話しって何?」 「場をわきまえろっていう話よv」 青筋立てて言うをカカシは「あ、そう。」と興味なさげに答えた。 ----------------------------------- 自宅にて、カカシは何故か正座させられていた。 「さて、とvカカシ・・・アンタ、目付けられかけてるらしいじゃないv」 「そうみたいね〜v」 アッサリ肯定。 「自粛する気、無い?」 「全く」 即答。 「カカシ先生。」 「は?」 「家でもコレねv」 「え?」 笑顔でそう言ったは「ハイ、決定!」と決め付ける。 「・・・・っ。」 カカシは「じゃあねv」と手を振ったの腕を掴む。 「何?」 冷たく言い放つを組み敷く形でその場に止めた。 (あれ?何か・・・おかしい・・・) ここで初めて気付いたカカシの異変には今の状況云々が関係なくなった。 「せっかく・・・我慢したんだよ?あの日・・・」 「嘘つきね〜・・・キスしたくせに・・・」 「・・・・あれ?気付いてたの?」 この体制で通常会話を出来る自分を不思議に思う。 こうゆう状況って普通、虐待時を思い出さないかしら?と、頭の片隅で思いながらは真っ直ぐカカシの目を見据えていた。 「おぼろげにねぇ〜・・・」 「じゃ、キスしていい?」 (やっぱ、おかしいかも・・・)はまたそう思った。 が、すぐにそれを頭の隅に置くだけで気に止めないように務める。 「いいけど・・・この体制は嫌!」 その返事にカカシが驚く。 「は?いいの?何で?」 思わず、手の力を緩めたカカシからは抜け出し起き上がる。 「分からない・・・何かが引っ掛かってる。 それだからカカシが好きか嫌いか分からない。 嫌いではない、だから好き? でも・・・何か違う・・・ ねぇ、私・・・あの日、何か言わなかった?」 「・・・・・」 カカシは黙り込むとそっと指での唇に触れる。 しばらく、カカシのする事をそのままにして、はカカシの目を見ていた。 ― また、寸での所で分からなくなってしまった? ― カカシはをジッと静かに眺めるように見る。 「ねぇ、一つ聞いていい?」 の質問に答える気は無いらしいカカシに「何?」とは問う。 「今まで信じてきたモノが・・・突然分からなくなったらどうする?」 「どうゆう意味?」 言っている事はそれとなく分かるが、今一良く分からない。 「例えば・・・今まで感じてきた気持ちに・・・本当にそうなんだろうか?って迷いが出た時、なら・・・」 「考えるより即行動!」 人差し指を立ててはカカシの言葉を遮った。 「あのね。そうゆう場合考え込んでたら多分何も出てこないよ。だから、素直に体に従ってみるの!それでもダメって場合もあるけど・・・それは時間の問題でしょ? ま、私の場合は時間でどうなる事じゃ無さそうだけどさぁ・・・」 は自分を棚に上げた言動だったかな?と感じた。 「・・・」 しばらくの沈黙の後、静かにカカシが自分の名を呼ぶ。 それがなんだか嬉しくて、歯痒くて・・・。 カカシはそっと優しく唇を重ねてきた。 「・・・・っ。」 は少し体を強張らせたが、すぐに抵抗を止めてそのまま従った。 すると、それを見計らったかのように、舌を侵入させて絡ませてくる。 「・・・っ・・・ぅく・・・」 息苦しくてカカシから離れようと思うのだが力が入らない。 「・・・・っはっ」 やっと離された唇を手の甲で拭うとは息を荒げながらキッとカカシの目を見つめた。 「あの日ね・・・は『絶対的な存在』だって言ったんだよ・・・」 カカシはニッコリ微笑むとの肩に額を当て、支えにする。 「カカシ・・・?」 はやはりいつもと様子がおかしいカカシを心配した声音で呼ぶ。 「うん・・・。学校では・・・あんまりベタベタしないからさ・・・家ではちゃんとそう呼んでよ。」 疲れたような静かな声が耳元でくぐもって聞こえ、は頬を紅く染める。 「わ・・・分かったわよ・・・。」 はどもりながらそう答えた。 「・・・ククク。」 何がおかしかったのか、カカシは忍び笑いを浮かべ言う。 「好きだよvv」 その一言では顔を真っ赤にして俯いてしまった。 「あ・・・う・・・えと・・・。」 何かを言おうと必死なの顔を覗き込み「なーに?どうしたの?」と笑みを浮かべる。 「す・・・好き・・・だから・・・ね。私も・・・多分・・・。」 段々自信無さげに言うに目を丸くしたカカシはポンポンッと手を頭の上に乗せる。 「うーん。そんなに良かったかv俺のキスv」 「ヲイ!」 雰囲気全てをぶち壊すカカシの一言に、それ以上のもどかしい空気は流れなかった事への安著と、もうしばらく余韻を感じて居たかったという怒りの混ざった溜息を吐いただった。 |